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「ここがフォード家の屋敷なのね」
「はい、マリルお嬢様。長旅お疲れ様でした」
私は馬車から降りると、目の前の屋敷に感嘆の声を上げた。
ここが私がこれから暮らす屋敷だと思うと、感慨深いものがある。
「お嬢様もついに嫁ぐのですね。少し寂しいですな」
横で控えている老執事のブルースはハンカチで目元を拭った。
どうやらブルースは、ずっと側で見守ってきた私がフォード家に嫁ぐことに感傷的になっているらしい。
「何言ってるの、あなた達もいるじゃない」
そう言って私はブルースを含む使用人たちを見渡した。
彼らは皆、実家から連れてきた気心の知れている者だ。困った時には私の力になってくれる。
「ですが私は心配です。もし相手方のロイス殿が浮気などする方だったらと思うと……」
「滅多なことを言うものではないわよブルース。それに、三年も手紙でやり取りしていたのよ。そんなことをする男性ではないってわかっているわ」
私はブルースに注意する。
私とロイスは婚約してからの三年間、ずっと手紙でやり取りを行ってきた。
すると確かに家の目の前でそんなことを言うのは不味いと思ったのか、「申し訳ありません」と頭を下げた。
「大丈夫よ。イザという時にはお父様がいるわ」
「確かにそうですな」
「さ、行きましょう。まずは挨拶しないと」
フォード家の門を叩く。
するとすぐに使用人が出てきて、私達はまず応接室へと案内された。
私達は屋敷の中を歩いていく。
階段を登っているとき、ふと視線を感じた。
(なんだろう? やけに見られているような……)
どこか違和感を感じたが、すぐに首を振ってと思い直す。
嫁いできたばかりなのだ、多少見られるくらいは普通のことだろう。
私たちは応接室の中に入った。
椅子に座って待っていると、扉を開いた。
入ってきたのはフォード夫妻と婚約者と思われる青年だった。
フォード夫妻も青年も、どちらも美形だった。
「私の名前はトーマス・フォード伯爵だ。こちらは妻のルイーズ。フォード家に嫁いでくれたことに礼を言おう。一ヶ月後の結婚式は盛大なものにすると約束させてもらうよ」
「はい、伯爵家のマリル・ホストンと申します。これからよろしくお願いします。トーマス様、ルイーズ様」
「私がロイスだ。よろしく」
青年はロイスと名乗って、手を差し出してきた。
「はい、よろしくお願いします。ロイス様」
私はその手を握り返す。
ロイスは一度手を上下に振ると離した。
「それでは長旅で疲れたことだろう。マリル嬢の部屋へと案内するから、ゆっくり休んでくれたまえ」
「お気遣い感謝します」
そう言ってフォード夫妻とロイスは部屋から出て行った。
私達も自室へと案内された。
部屋についた私は、長旅の疲れもあって椅子へと座る。
するとホストン家から連れてきたメイドが紅茶を淹れてくれた。
「思ったよりあっさりとしていましたな。ロイス殿は手紙の内容から、もう少し情熱的な男性だと思っていたのですが……」
ブルースは荷解きをしながらそんなことを言った。
それは私も感じていたことだった。
ロイスは、手紙では「愛しているよ」とか「どんなに離れていても君のことを想っている」とか情熱的な言葉を書いていたからだ。
私はそんなに私のことを想ってくれている人に嫁ぐことを楽しみにしていたぐらいだ。
「たしかにそれは私も思ったわ。けど、こんなものでは無いかしら?」
「ええ、確かにその通りです。……ですが違和感がございまして」
「違和感?」
「あ、いえ。気に留めるほどのものではありません。きっと長旅で疲れているからそう感じるのでしょう」
「そうね。皆長旅で疲れているものね。ついてきてくれたこと、本当に感謝しているわ」
「いえ、滅相もございません」
「好きでついてきただけですので」
使用人達は謙遜して次々にそんなことを言った。
私は恵まれているな、と感じた。
「じゃあ、ちょっと屋敷の周りを歩いてこようかしら」
「それならばお供します」
ブルースが側に連れて、私は屋敷の外へ向かった。
屋敷を出て門の前まで来たとき、門の前に誰かがいるのを発見した。
「ん? あれは……。──え?」
私は目を凝らす。
そしてその光景を見て、私は固まった。
なぜなら、ロイスと、貴族と思われる見知らぬ女性が抱き合っていたからだ。
「はい、マリルお嬢様。長旅お疲れ様でした」
私は馬車から降りると、目の前の屋敷に感嘆の声を上げた。
ここが私がこれから暮らす屋敷だと思うと、感慨深いものがある。
「お嬢様もついに嫁ぐのですね。少し寂しいですな」
横で控えている老執事のブルースはハンカチで目元を拭った。
どうやらブルースは、ずっと側で見守ってきた私がフォード家に嫁ぐことに感傷的になっているらしい。
「何言ってるの、あなた達もいるじゃない」
そう言って私はブルースを含む使用人たちを見渡した。
彼らは皆、実家から連れてきた気心の知れている者だ。困った時には私の力になってくれる。
「ですが私は心配です。もし相手方のロイス殿が浮気などする方だったらと思うと……」
「滅多なことを言うものではないわよブルース。それに、三年も手紙でやり取りしていたのよ。そんなことをする男性ではないってわかっているわ」
私はブルースに注意する。
私とロイスは婚約してからの三年間、ずっと手紙でやり取りを行ってきた。
すると確かに家の目の前でそんなことを言うのは不味いと思ったのか、「申し訳ありません」と頭を下げた。
「大丈夫よ。イザという時にはお父様がいるわ」
「確かにそうですな」
「さ、行きましょう。まずは挨拶しないと」
フォード家の門を叩く。
するとすぐに使用人が出てきて、私達はまず応接室へと案内された。
私達は屋敷の中を歩いていく。
階段を登っているとき、ふと視線を感じた。
(なんだろう? やけに見られているような……)
どこか違和感を感じたが、すぐに首を振ってと思い直す。
嫁いできたばかりなのだ、多少見られるくらいは普通のことだろう。
私たちは応接室の中に入った。
椅子に座って待っていると、扉を開いた。
入ってきたのはフォード夫妻と婚約者と思われる青年だった。
フォード夫妻も青年も、どちらも美形だった。
「私の名前はトーマス・フォード伯爵だ。こちらは妻のルイーズ。フォード家に嫁いでくれたことに礼を言おう。一ヶ月後の結婚式は盛大なものにすると約束させてもらうよ」
「はい、伯爵家のマリル・ホストンと申します。これからよろしくお願いします。トーマス様、ルイーズ様」
「私がロイスだ。よろしく」
青年はロイスと名乗って、手を差し出してきた。
「はい、よろしくお願いします。ロイス様」
私はその手を握り返す。
ロイスは一度手を上下に振ると離した。
「それでは長旅で疲れたことだろう。マリル嬢の部屋へと案内するから、ゆっくり休んでくれたまえ」
「お気遣い感謝します」
そう言ってフォード夫妻とロイスは部屋から出て行った。
私達も自室へと案内された。
部屋についた私は、長旅の疲れもあって椅子へと座る。
するとホストン家から連れてきたメイドが紅茶を淹れてくれた。
「思ったよりあっさりとしていましたな。ロイス殿は手紙の内容から、もう少し情熱的な男性だと思っていたのですが……」
ブルースは荷解きをしながらそんなことを言った。
それは私も感じていたことだった。
ロイスは、手紙では「愛しているよ」とか「どんなに離れていても君のことを想っている」とか情熱的な言葉を書いていたからだ。
私はそんなに私のことを想ってくれている人に嫁ぐことを楽しみにしていたぐらいだ。
「たしかにそれは私も思ったわ。けど、こんなものでは無いかしら?」
「ええ、確かにその通りです。……ですが違和感がございまして」
「違和感?」
「あ、いえ。気に留めるほどのものではありません。きっと長旅で疲れているからそう感じるのでしょう」
「そうね。皆長旅で疲れているものね。ついてきてくれたこと、本当に感謝しているわ」
「いえ、滅相もございません」
「好きでついてきただけですので」
使用人達は謙遜して次々にそんなことを言った。
私は恵まれているな、と感じた。
「じゃあ、ちょっと屋敷の周りを歩いてこようかしら」
「それならばお供します」
ブルースが側に連れて、私は屋敷の外へ向かった。
屋敷を出て門の前まで来たとき、門の前に誰かがいるのを発見した。
「ん? あれは……。──え?」
私は目を凝らす。
そしてその光景を見て、私は固まった。
なぜなら、ロイスと、貴族と思われる見知らぬ女性が抱き合っていたからだ。
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