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私は目の前の光景が信じられなかった。
婚約者のロイスと知らぬ女性が抱き合っているなんて。
二人は私があげた声で気がついたのか、驚いたような顔で振り返り、離れた。
「はは、これはマリル嬢。いたのか……」
私が驚きで固まり、動けなくなっているのが分かったのか、代わりにブルースが前へ出てくれた。
ブルースはこれまで見たことがないくらいに固い表情で、ロイスへと質問した。
「失礼ですがロイス殿、これはいったい何事ですかな?」
「どうしたんだい? ただ事ではない様子だが」
ロイスは軽い口調で何のことかさっぱり分からないととぼけた。
「とぼけないで頂きたい。一ヶ月後に結婚を控えている男性が婚約者でもない女性と抱き合っているのが異常事態ではないと?」
「ああ、そのことか」
ロイスが納得したとばかりに頷いた。
なんとも白々しい。
「彼女は男爵家のジェシカ・ウェインだ。私の幼馴染なのさ」
「わ、私はジェシカと言います。初めまして、マリル様……!」
ジェシカと名乗った少女が慌ただしく頭を下げた。
彼女の顔はとても美しく、朗らかな雰囲気を纏っていた。
「失礼ですが、幼馴染であることの関係はあるのですか?」
「執事なんかやってる君の頭では分からなかったようだが、こうやって抱き合うのはこの地方の文化さ。よく考えもしないで否定しないでもらいたいな」
ロイスはブルースのことを無知であると決めつけ、馬鹿にしたように笑う。
私達は内心で怒った。
そんな文化があるわけが無い。どう考えても今作った作り話だ。
それに、万が一そんな文化があったとしても、婚約者がいる身で他の女性と抱き合うのが正当化されていいはずがない。
「しかし文化であるからと言っても──」
「ブルース」
ブルースが反論しようとしたのを、私は遮った。
これ以上追求してもどうせはぐらかされるだろうからだ。
「お嬢様……」
「ロイス様、早とちりをして申し訳ございませんでした。何分ここの文化に疎いもので。何卒ご容赦ください」
「ああ、次からは気をつけてくれたまえよ」
ロイスが肩をすかして答えた。
貴族に口答えしようとするなど本来なら罪に問われるところだが、どうやら今回は水に流してくれるようだ。
「それとジェシカさん、だったかしら」
「は、はい!」
「私はロイス様と婚約したマリルと申します。幼馴染だとこれから付き合いもあるでしょうから、仲良くしてくださいね?」
婚約、という言葉を強調する、
すると予想通りジェシカは顔を強張らせた。
「……はい」
「では失礼いたします」
婚約者のロイスと知らぬ女性が抱き合っているなんて。
二人は私があげた声で気がついたのか、驚いたような顔で振り返り、離れた。
「はは、これはマリル嬢。いたのか……」
私が驚きで固まり、動けなくなっているのが分かったのか、代わりにブルースが前へ出てくれた。
ブルースはこれまで見たことがないくらいに固い表情で、ロイスへと質問した。
「失礼ですがロイス殿、これはいったい何事ですかな?」
「どうしたんだい? ただ事ではない様子だが」
ロイスは軽い口調で何のことかさっぱり分からないととぼけた。
「とぼけないで頂きたい。一ヶ月後に結婚を控えている男性が婚約者でもない女性と抱き合っているのが異常事態ではないと?」
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「失礼ですが、幼馴染であることの関係はあるのですか?」
「執事なんかやってる君の頭では分からなかったようだが、こうやって抱き合うのはこの地方の文化さ。よく考えもしないで否定しないでもらいたいな」
ロイスはブルースのことを無知であると決めつけ、馬鹿にしたように笑う。
私達は内心で怒った。
そんな文化があるわけが無い。どう考えても今作った作り話だ。
それに、万が一そんな文化があったとしても、婚約者がいる身で他の女性と抱き合うのが正当化されていいはずがない。
「しかし文化であるからと言っても──」
「ブルース」
ブルースが反論しようとしたのを、私は遮った。
これ以上追求してもどうせはぐらかされるだろうからだ。
「お嬢様……」
「ロイス様、早とちりをして申し訳ございませんでした。何分ここの文化に疎いもので。何卒ご容赦ください」
「ああ、次からは気をつけてくれたまえよ」
ロイスが肩をすかして答えた。
貴族に口答えしようとするなど本来なら罪に問われるところだが、どうやら今回は水に流してくれるようだ。
「それとジェシカさん、だったかしら」
「は、はい!」
「私はロイス様と婚約したマリルと申します。幼馴染だとこれから付き合いもあるでしょうから、仲良くしてくださいね?」
婚約、という言葉を強調する、
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「……はい」
「では失礼いたします」
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