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「どう考えてもおかしいわ。あれだけ部屋に連れ込んで一回も尻尾を出さないなんて」
私は疑問に頭を悩ませていた。
ロイスが自室へと女性を招き入れているのを見かけたり、女性の声が聞こえてきた時に部屋へと押しかけても、いつも決まってその女性はどこかへ消えている。
私達が尻尾を掴もうとするが、ロイスは逃げ続けていつも苦渋を舐めさせられる。
そんな毎日が続く中、事件が起こった。
連日の疲れで自分の部屋で休んでいた時、ブルースが慌てて扉から入ってきた。
「お嬢様! 大変です! 今しがたルークがロイス殿へ暴行を加えた模様です!」
「えっ?!」
私はブルースの報告に耳を疑った。
ルークがロイスに暴行を?
ブルースがさっき起こった事件の内容を伝えてくる。
ルークがいつも通り仕事をしていたところ、そこへ女性を連れたロイスが通った。
ルークがそのことを窘めると、ロイスはスキンシップだと主張し、貴族を批判したとルークの事を激しく罵倒した。
挙句の果にはルークだけでなく、主人である私のことも貶したらしい。
人一倍忠誠心が強かったルークはそこで我慢の限界を迎え、ロイスの顔を殴ってしまったようだ。
「本当に申し訳ございません、マリル様……! 俺、我慢が出来なくなって……!」
私の部屋に連れてこられたルークは床に手をついて必死に頭を下げて私に謝った。
目からは悔し涙を溢している。今まで相当に我慢してきたのだろう。
そして、ルークは不甲斐ない自分に怒っていた。
「ルーク貴様! お前が何をしたのか分かっているのか! 今お前がロイス殿を殴ってしまえばどうなるかぐらい分かっていただろう……!」
「本当に申し訳ございません……!」
私は地に伏せるルークの前に跪いた。
「ルーク、顔を上げて。確かにやったことは不味かったかもしれないけど、あなたは私のことを思ってくれたのでしょう?」
「マリルお嬢様……!」
ルークを慰めいていた時、ミラが扉をコンコンとノックして入ってきた。
「あの……マリル様、ロイス様がお呼びになっているそうです……」
ミラは不安そうにそう告げる。
どうやら怒り心頭のロイスが私のことを呼んでいるようだ。
「わかったわミラ。今行くわね」
私は立ち上がりロイスの部屋へと向かった。
ロイスの部屋の前まで来ると扉をノックする。
中から「入れ」と不機嫌そうな声が聞こえた。
ドアノブを捻って中に入ると、フォード家の使用人に囲まれて、頬に氷袋を当てたロイスが椅子に座っていた。
ロイスは非常にイライラとした様子で椅子から立ち上がった。
「ねぇ、君の従者に殴られたんだけど?」
ロイスがそう言った。
私はすぐに頭を下げて謝った。
「申し訳ありません」
しかしロイスはドン! と近くにあった机を叩きつけ、唾を飛ばしながら喚き散らした。
「そんなんで許すわけないだろ! お前のところの平民が貴族である私を殴ったんだぞ!」
ロイスが言ったように、ルークがしたことは重罪にあたる。
平民が貴族に暴行を加えたら、死刑しかない。
しかしルークの命を助けるために、私はただひたすら謝るしかなった。
「どうすれば許していただけるでしょうか」
その言葉を待っていたかのように、ロイスは下卑た笑いを浮かべた。
「そうだな──じゃあ、土下座しろ」
「なっ!」
ブルースはそのロイスの発言に眉を吊り上げる。
しかし私はブルースを手で制した。
「やめてブルース。こちらの失態よ」
部屋に静寂が訪れ、全員が私の挙動を見ている。
私は地面に手をつくと土下座をした。
静かな部屋に、誰かが歯を食いしばる音が聞こえた。
「本当に申し訳ありませんでした」
私が土下座しながら謝るとロイドが、「はは! 貴族が土下座してるよ。プライドは無いのかな?」と言った。
するとフォード家の使用人はくすくすと笑い出す。
「それだけかい?」
ロイドか質問する。
私は続けて謝罪をした。
「本当に申し訳ありません」
「謝罪がほしいなんて言ってないよ。君の使用人に暴力を受けたんだぜ? 君も一発殴られるのが道理なんじゃないのかい?」
「そんな! それはあまりにも!」
ロイスの言葉にブルースが割り込んだ。
「黙ってろ! 君の主人に聞いてるんだ! さぁ、どうなんだい、マリル嬢? これだけじゃルーク君が死刑になっちゃうけど?」
ブルースに怒鳴った後、ロイスが私へと向き直る。
仕方がない。これでルークの命が助かるなら──
「わかりまし──」
私は了承の言葉を言い終える前に、突然ロイスによって殴り飛ばされた。
大の男の力が乗った拳で殴られた私は、部屋の床に真後ろから倒れ込む。
ロイスは殴った方の手をぷらぷらとさせて、ケラケラと笑った。
「あー、最高。すっきりした~!」
「ぐ……」
私は痛みで声も発することが出来ずに、その場に倒れている。
ブルースは一部始終を唇を噛み締め、怒りの形相で凝視していた。
他の使用人の皆も、手が出せない悔しさに拳を固く握っている。
「人を殴るのって結構楽しいしスッキリするんだな。結婚してからも君をサンドバッグにすることにしよう! あはははは!」
ロイスは倒れ伏す私に近づくと、私の髪を掴んで、顔を持ち上げさせる。
「いいか? これは君の家の当主には報告するなよ? ま、言えないよね。だって君の家には“借金”があるんだから」
私は疑問に頭を悩ませていた。
ロイスが自室へと女性を招き入れているのを見かけたり、女性の声が聞こえてきた時に部屋へと押しかけても、いつも決まってその女性はどこかへ消えている。
私達が尻尾を掴もうとするが、ロイスは逃げ続けていつも苦渋を舐めさせられる。
そんな毎日が続く中、事件が起こった。
連日の疲れで自分の部屋で休んでいた時、ブルースが慌てて扉から入ってきた。
「お嬢様! 大変です! 今しがたルークがロイス殿へ暴行を加えた模様です!」
「えっ?!」
私はブルースの報告に耳を疑った。
ルークがロイスに暴行を?
ブルースがさっき起こった事件の内容を伝えてくる。
ルークがいつも通り仕事をしていたところ、そこへ女性を連れたロイスが通った。
ルークがそのことを窘めると、ロイスはスキンシップだと主張し、貴族を批判したとルークの事を激しく罵倒した。
挙句の果にはルークだけでなく、主人である私のことも貶したらしい。
人一倍忠誠心が強かったルークはそこで我慢の限界を迎え、ロイスの顔を殴ってしまったようだ。
「本当に申し訳ございません、マリル様……! 俺、我慢が出来なくなって……!」
私の部屋に連れてこられたルークは床に手をついて必死に頭を下げて私に謝った。
目からは悔し涙を溢している。今まで相当に我慢してきたのだろう。
そして、ルークは不甲斐ない自分に怒っていた。
「ルーク貴様! お前が何をしたのか分かっているのか! 今お前がロイス殿を殴ってしまえばどうなるかぐらい分かっていただろう……!」
「本当に申し訳ございません……!」
私は地に伏せるルークの前に跪いた。
「ルーク、顔を上げて。確かにやったことは不味かったかもしれないけど、あなたは私のことを思ってくれたのでしょう?」
「マリルお嬢様……!」
ルークを慰めいていた時、ミラが扉をコンコンとノックして入ってきた。
「あの……マリル様、ロイス様がお呼びになっているそうです……」
ミラは不安そうにそう告げる。
どうやら怒り心頭のロイスが私のことを呼んでいるようだ。
「わかったわミラ。今行くわね」
私は立ち上がりロイスの部屋へと向かった。
ロイスの部屋の前まで来ると扉をノックする。
中から「入れ」と不機嫌そうな声が聞こえた。
ドアノブを捻って中に入ると、フォード家の使用人に囲まれて、頬に氷袋を当てたロイスが椅子に座っていた。
ロイスは非常にイライラとした様子で椅子から立ち上がった。
「ねぇ、君の従者に殴られたんだけど?」
ロイスがそう言った。
私はすぐに頭を下げて謝った。
「申し訳ありません」
しかしロイスはドン! と近くにあった机を叩きつけ、唾を飛ばしながら喚き散らした。
「そんなんで許すわけないだろ! お前のところの平民が貴族である私を殴ったんだぞ!」
ロイスが言ったように、ルークがしたことは重罪にあたる。
平民が貴族に暴行を加えたら、死刑しかない。
しかしルークの命を助けるために、私はただひたすら謝るしかなった。
「どうすれば許していただけるでしょうか」
その言葉を待っていたかのように、ロイスは下卑た笑いを浮かべた。
「そうだな──じゃあ、土下座しろ」
「なっ!」
ブルースはそのロイスの発言に眉を吊り上げる。
しかし私はブルースを手で制した。
「やめてブルース。こちらの失態よ」
部屋に静寂が訪れ、全員が私の挙動を見ている。
私は地面に手をつくと土下座をした。
静かな部屋に、誰かが歯を食いしばる音が聞こえた。
「本当に申し訳ありませんでした」
私が土下座しながら謝るとロイドが、「はは! 貴族が土下座してるよ。プライドは無いのかな?」と言った。
するとフォード家の使用人はくすくすと笑い出す。
「それだけかい?」
ロイドか質問する。
私は続けて謝罪をした。
「本当に申し訳ありません」
「謝罪がほしいなんて言ってないよ。君の使用人に暴力を受けたんだぜ? 君も一発殴られるのが道理なんじゃないのかい?」
「そんな! それはあまりにも!」
ロイスの言葉にブルースが割り込んだ。
「黙ってろ! 君の主人に聞いてるんだ! さぁ、どうなんだい、マリル嬢? これだけじゃルーク君が死刑になっちゃうけど?」
ブルースに怒鳴った後、ロイスが私へと向き直る。
仕方がない。これでルークの命が助かるなら──
「わかりまし──」
私は了承の言葉を言い終える前に、突然ロイスによって殴り飛ばされた。
大の男の力が乗った拳で殴られた私は、部屋の床に真後ろから倒れ込む。
ロイスは殴った方の手をぷらぷらとさせて、ケラケラと笑った。
「あー、最高。すっきりした~!」
「ぐ……」
私は痛みで声も発することが出来ずに、その場に倒れている。
ブルースは一部始終を唇を噛み締め、怒りの形相で凝視していた。
他の使用人の皆も、手が出せない悔しさに拳を固く握っている。
「人を殴るのって結構楽しいしスッキリするんだな。結婚してからも君をサンドバッグにすることにしよう! あはははは!」
ロイスは倒れ伏す私に近づくと、私の髪を掴んで、顔を持ち上げさせる。
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