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第三章
神殿からの手紙
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そんなある日の帰宅後のこと。
その日は珍しくお父様がお兄様を出迎えに玄関まで出てきた。
「エルファンス、神殿からお前に手紙が来てる」
「フィーから?」
「いや、修行中は手紙のやり取りが禁止されているというのは最初に聞いた通りだ。
これは、大神官セイレム様からだ」
「セイレム様?」
エルファンス兄様は怪訝な顔でお父様から手紙を受け取ると、その場で封を切って素早く視線を走らせた。
「なんて書いてあるんだ? エルファンス」
「神殿に、俺だけで来いと書いてある」
え? 神殿にお兄様だけで?
それってひょっとして、最後に私の遺体と愛するお兄様を二人きりで対面させてくれるという、セイレム様の優しいはからい?
「行くのか?」
「もちろん、行きます」
「そうか――フィーに会ったら、私がいかに寂しがっているかを伝えてくれ」
「分かりました!」
返事をするやいなや、エルファンス兄様は脱いだばかりのマントをさっと肩に羽織る。
「え? もう行くのか?」
「時間が書いてない。いつでも行っていいのだろう」
「いやでもさすがにこんな遅い時間は」
言いかけたお父様の制止の言葉を振り切るように、エルファンス兄様は一刻も待てないとばかりに性急に表へ飛び出していく。
そしてまっすぐ厩舎へと駆け込むと一頭の馬に跨がり、夜闇の中を勢いよく駈け出した。
そっ、そんなに急がなくてもいいのに!
もう私は死んでいるからいつ着いても同じだし!
エルファンス兄様の後を飛んで行きながら、私は蒼くなる。
だってそろそろ死後一週間。
く、腐ってたりして!
さすがにお兄様もショックを受けるよね。
と、激しく現在の自分の状態を確認する必要性を感じた私は、お兄様に先回りして神殿内部へ入ることにした。
壁をすり抜けて最奥伝の奥の間へ行くと、ベッドに横たわる私の亡骸の前にやつれ果てたセイレム様が佇んでいた。
その痛ましい姿に私は魂が切り刻まれるような感覚とともに、自分のしでかしてしまった取り返しのつかない罪を知る。
でもって、肝心の亡骸の状態はというと――見たところミルク色の肌は血色が良く、唇は赤い薔薇の色素を落としたような鮮やかな色合いで、水のように美しい黒髪も相変わらず艶々のままだった。
つまり幸いなことに私の身体は腐っているどころか、むしろ生きているような新鮮な状態だった。
これならお兄様に見せても大丈夫だよね。
ほっとして眺めていると、セイレム様がぶつぶつ呟く声が聞こえてくる。
「何度も言ってますが、すぐに鼓動も動かし、舌も治癒して血も止めたし――あなたは生きているんですよ。
なのになぜ魂が入っていないんですか?
まさか自分が死んだと勘違いして深淵に下ったのですか。
いい加減に戻って来て下さい。フィー……」
えっ?
その言葉に私はびっくりして、寝ている自分を再び注意深く観察してみる。
なんとっ、よく見ると微かに胸が上下している――呼吸している!
――と、いう事は、私の身体、まだ生きてるんだ!
その日は珍しくお父様がお兄様を出迎えに玄関まで出てきた。
「エルファンス、神殿からお前に手紙が来てる」
「フィーから?」
「いや、修行中は手紙のやり取りが禁止されているというのは最初に聞いた通りだ。
これは、大神官セイレム様からだ」
「セイレム様?」
エルファンス兄様は怪訝な顔でお父様から手紙を受け取ると、その場で封を切って素早く視線を走らせた。
「なんて書いてあるんだ? エルファンス」
「神殿に、俺だけで来いと書いてある」
え? 神殿にお兄様だけで?
それってひょっとして、最後に私の遺体と愛するお兄様を二人きりで対面させてくれるという、セイレム様の優しいはからい?
「行くのか?」
「もちろん、行きます」
「そうか――フィーに会ったら、私がいかに寂しがっているかを伝えてくれ」
「分かりました!」
返事をするやいなや、エルファンス兄様は脱いだばかりのマントをさっと肩に羽織る。
「え? もう行くのか?」
「時間が書いてない。いつでも行っていいのだろう」
「いやでもさすがにこんな遅い時間は」
言いかけたお父様の制止の言葉を振り切るように、エルファンス兄様は一刻も待てないとばかりに性急に表へ飛び出していく。
そしてまっすぐ厩舎へと駆け込むと一頭の馬に跨がり、夜闇の中を勢いよく駈け出した。
そっ、そんなに急がなくてもいいのに!
もう私は死んでいるからいつ着いても同じだし!
エルファンス兄様の後を飛んで行きながら、私は蒼くなる。
だってそろそろ死後一週間。
く、腐ってたりして!
さすがにお兄様もショックを受けるよね。
と、激しく現在の自分の状態を確認する必要性を感じた私は、お兄様に先回りして神殿内部へ入ることにした。
壁をすり抜けて最奥伝の奥の間へ行くと、ベッドに横たわる私の亡骸の前にやつれ果てたセイレム様が佇んでいた。
その痛ましい姿に私は魂が切り刻まれるような感覚とともに、自分のしでかしてしまった取り返しのつかない罪を知る。
でもって、肝心の亡骸の状態はというと――見たところミルク色の肌は血色が良く、唇は赤い薔薇の色素を落としたような鮮やかな色合いで、水のように美しい黒髪も相変わらず艶々のままだった。
つまり幸いなことに私の身体は腐っているどころか、むしろ生きているような新鮮な状態だった。
これならお兄様に見せても大丈夫だよね。
ほっとして眺めていると、セイレム様がぶつぶつ呟く声が聞こえてくる。
「何度も言ってますが、すぐに鼓動も動かし、舌も治癒して血も止めたし――あなたは生きているんですよ。
なのになぜ魂が入っていないんですか?
まさか自分が死んだと勘違いして深淵に下ったのですか。
いい加減に戻って来て下さい。フィー……」
えっ?
その言葉に私はびっくりして、寝ている自分を再び注意深く観察してみる。
なんとっ、よく見ると微かに胸が上下している――呼吸している!
――と、いう事は、私の身体、まだ生きてるんだ!
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