喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

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第三章

和解と手紙(前)

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翌朝、魔導省の制服姿で部屋に現れたエルファンス兄様は、泣き腫らした私の目を見て「何かあったのか?」と驚いた様子で尋ねてきた。

 私が「戻って来れたのが嬉しくて泣いていた」と誤魔化すと、お兄様は一応納得してくれた。

 そしてベッドの傍らの椅子に座り、いまだに弱っている私に朝食を食べさせてくれた。

「フィー。俺は今日、どうしても外せない用事があり、魔導省に出向かなくてはいけない。
 日中そばについていてやれないが、一人で大丈夫か……?」

 深い青の瞳を細め、心配そうに尋ねてくる。

 私は元気に見えるように精一杯の笑顔を作った。

「うん、大丈夫! 出来るだけ早く帰ってきてね」

「分かった。可能な限り早く帰宅する。
 フィーは昼食をきちんと食べて、ベッドから出ないようにしているんだぞ」

 子供に言い聞かせるように優しく言うと、お兄様は私を強く抱きしめ、しばらく唇を重ねてから部屋を出て行った――

 一人になった私は呼び鈴を鳴らし、現れた侍女にお母様を呼んで貰う。
 4年ぶりに神殿から帰ってきたというのに、今のところ一度もお母様は私の顔を見に来ない。

 それも無理からぬこと。幼い頃から私は相当母に辛く当たっていた。
 娘を腫れ物扱いし、つねにおどおどした態度で接する彼女を心底軽蔑し、嫌い抜いていた。
 挙句に、

「顔を見るだけで苛々するので、なるべく私の視界に入らないようにしてくれる?」

 と暴言を吐いていたのだ。
 だから部屋を訪ねるなんてとんでもないことだった。

 逆に雷に打たれた以降の小心者になった私は、お母様に話しかけることはおろか顔を見る勇気すらなかった。
 他の誰よりも惨い仕打ちをしてきたお母様への恐ろしいまでの罪悪感に怯えていたからだ。
 お母様はそんな私の態度に、きっと、変わらず嫌われたままだと思っていたのだろう。

 その証拠に数分後、部屋を訪れたお母様の顔は、酷く蒼ざめたものだった。

「フィーネ、何か用なのかしら?」

 ビクビクした様子で尋ねてくるお母様に、私は単刀直入に質問した。

「アーウィン殿下と会うには、どうしたらいいのかを教えて欲しいんです」

 お母様はうつむいていた顔を上げ、意外そうな目で私を見る。

「まあ、アーウィン殿下と? あなたの今の体調で?」

「出来るだけ早くお会いしたいの」

 いつもは反らしていた視線を、しっかりとお母様に向けて言い切る。
 お母様は眉根を寄せ、考え込むように沈黙したのち、おもむろに口を開く。

「それならお見舞いに来て頂いてはいかがかしら? 
 現在はルーベンス様が、あなたの衰弱を理由に誰からの訪問も断わっている状態ですから……。
 アーウィン殿下からも、神殿からあなたが戻ってすぐに会いたいという要望があったそうよ」

 ルーベンスというのはお父様の名前だ。

「でもどうやってお見舞いに呼べばいいんでしょうか?」

「手紙を書くといいわ。届ける手配は私がしますから」

「本当ですか? ありがとうございます、お母様!」

 感謝の気持ちをこめてお礼を言うと、お母様は大仰に瞳を見張り、

「いいのよ……それぐらい」

 まるで夢でも見ているような、呆然とした表情で呟いた。

「あと…お母様……もう一ついいですか?」

「何かしら?」

 私は勇気を出してこの機会に、ずっとしなければいけないと思っていたお母様への謝罪をした。

「今更謝っても遅いかもしれませんが、幼い頃から今まで、酷い態度を取ってきてごめんなさい!
 暴言や暴力など、今まで自分がお母様にしてきた事を思うと、どんなに謝っても許して貰えるとは思えませんが……。 
 本当に、本当に、申し訳ありませんでした、お母様! どうか私を許して下さい!」

「……」

 お母様の下瞼の上にみるみる涙が盛り上がり、こぼれて両頬を伝っていく。

「……お母様?」

「ごめんなさい……あまりにも嬉しくて……」

 お母様は喉を詰まらせ、取り出したハンカチを目元を拭った。

「まさかあなたの口からそのような、嬉しい言葉を聞ける日が来るなんて、夢にも思ってもいませんでした。
 嫌われていたのもそうですが、私はつねにこの屋敷では空気みたいな存在でしたから……。ルーベンス様やあなたの気分を害さないことだけを考えて生きてきた。だからルーベンス様にはいっさい口答えせず、あなたを叱ることも出来ず、好き勝手させて来ました……女主人としても母親としても情けない、軽蔑されても仕方がない人間存でした……」

 ハンカチで顔を覆い、冷めざめと泣いて語るお母様の姿は、見ていて胸が締め付けられる。

 そうか、この人はこの控えめ過ぎる性格のせいで、夫にも娘にも逆らえなかったんだ。
 これまでずっとそんな自分を不甲斐なく思って生きてきたんだ。

 私は扉の前に立ったままのお母様に近づき、初めて自分から向かい合った。

「何も、お母様は悪くありません。私が強情で反抗的だったんです……!」
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