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第四章

寝言と冗談

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「パーティーメンバー? 寝言は寝てから言え」

 エルファンス兄様は切れ長の瞳を細めて、怒りと毒を吐き出すように言った。

「寝言? それはどういう意味だ?」

 カークが挑むような目で問う。

「お前のような死にたがりと一緒に行動するのはご免だという意味だ」

「死にたがりだと?」

 エルファンス兄様の深い青の瞳には、見る者を竦み上がらせるほどの、激しい怒りの炎が燃えさかっていた。

「まさか、お前達の無謀な行動にフィーを巻き込み、命の危機に晒した事を忘れた訳じゃないだろうな?
 俺が行くのがあと少しでも遅れていたら、フィーは生きて今この腕の中にいなかったかもしれない。
 もしもそうなっていたら、原因であるお前らを決して許さず、瞬殺していたところだ!」

 言いながら、お兄様の私を抱える腕に力がこもる。
 瞬殺! ――本当にそうする能力がある人が言うととってもリアルな言葉。

「……確かにあの時はちょっと危なかったかもしれないけれど、死にたがりという言葉は撤回しろ!
 俺は死ぬつもりなんてこれっぽっちも無かった!」

 お兄様の鋭い眼光にも怯まず不満もあらわにカークが言い返す。

「自覚が無いならなおさら性質が悪い!
 いいか、無謀な行動をするのはお前らの自由だが、二度とフィーを巻き込むな!
 今後は一切、自殺志願者のようなお前らと、フィーを関わらせるつもりは無い」

 エルファンス兄様は軽蔑しきったような眼差しをカークに向け、苛立だった声で断言する。

 自覚の無い自殺志願者……というのは言い過ぎかもしれないけど、カークの無鉄砲さが命の危険を晒すレベルである事は明白よね。
 時には兄様のように厳しい意見をはっきり言ってくれる人が彼には必要なのかも。

 なおも不満そうに開きかけたカークの口をキルアスが手で抑えモゴモゴとした音になる。

「止せ、カーク。何もかもこの人の言う通りだ。
 ……昨日は無謀な行動をして、あなたの大切な人を巻き込んで、すみませんでした。
 フィー、君にも謝るよ。ごめんね。俺がいながら……」

 なんだか一番悪いカークが開き直っているのに、キルアスが必死に謝っているのは可愛そうに思えた。
 それにエルファンス兄様は二人を責めるけれど、私が死にそうになった一番の原因は、断わりきれなかったこのヘタレな性格のせい。
 反省して落ち込んでいると、エルファンス兄様が「話しは終わりだ」と言って私を抱き上げたまま食堂の奥へと歩き出した。

「あ……待って!」

 キルアスがあわてて屈みこみ、机の下から杖を取り出し、差し出してくる。

「フィー、これを……昨日谷に忘れてた!」

「あっ!!」

 キルアスの手にあったのはセイレム様から貰った私の大切な杖だった。
 そういえば昨日地面に落としたままだったのだ。
 しかも今まで忘れていたとか、我ながら最低すぎる!
 セイレム様に心の中で詫びつつ涙目で「ありがとう」と受け取り、大切に腕に抱え込んだところで、お兄様が再び歩き始めた。

 エルファンス兄様は二人の席から離れた奥のテーブルまで行くと、壊れ物のように優しく私を椅子の上に下ろしてくれた。
 その後、四角い四人がけのテーブルなのにあえて隣の席に椅子を寄せて座ると、エルファンス兄様は感心するような声を上げた。

「物凄い杖だな」

 純粋に褒めている訳で無い事は、杖を眺めるお兄様の不機嫌そうな顔が十二分に語っている。

「うん……セイレム様が貸してくれて……」

 言い訳がましくしどろもどろに答える私。

「そんな物まで貢ぐとは、あの大神官は相当お前に入れ込んでいたようだな。
 まあ、忌々しい杖だが、なかなか餞別としては気がきいている。
 それだけばかでかい聖石を売れば一生遊んで暮らせるからな」

 耳を疑う発言に反射的にガバッと顔を上げ、お兄様を瞳を見返す。

「ま、まさか、売る気なの?」

 この杖の価値を知りながら、本気なの?
 焦って問いかける私を、お兄様は無表情にじっと眺めたあと、

「冗談だ」

 にやっと意地悪な笑顔を浮かべ、通りかかった店員を呼び止め注文を始めた。
 安堵に私ははーっと息をつく。
 なにせコミュ障の私には冗談と本気の判断つけるのが難しいのだ。

 注文から数十分後に料理が届き、テーブルの上にはパンとスープに肉料理というメニューが並んでいた。

「ほら、フィー、たくさん食べて体力をつけるんだ」

 言われなくても物凄くお腹が空いていた私は、パンを掴むと大きく千切った塊を口に入れて、いきなり喉が詰まりそうになる。
 急いでスープで流し込もうしたが、熱過ぎて、きゃっと悲鳴をあげつつ、噴出する。

「よく噛まないから喉が詰まるんだ」

 呆れたような声で言われ、お兄様に背中をとんとんと叩かれ、なんとか飲み下して窒息死をまぬがれる。
 それから顎を掴まれ、濡れた口周りをハンカチで拭かれてしまう。
 我ながら子供みたいで恥ずかしい。
 それに比べてお兄様ってばいつもハンカチを持ち歩いるし、食事の食べ方もとても上品で綺麗。
 手ぶらでパン粕をこぼしたり、スープを吐き出したりしている私と大違い。
 急に貴族の令嬢として恥ずかしくなり、パンを小さく千切るように心がけて食べていると、

「フィー」

 ふいに名前を横から呼ばれ、見ると枯葉色の踝丈の長衣を着て、弓矢を背負ったキルアスが近くに立っていた。
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