喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

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第四章

トラブルメーカーと急展開

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 まさか、二人はここに来るまでワイバーンに気づかれなかったの?
 疑問を抱きつつ、合流するために二人に声をかけようとしたとき、

「待て、フィー。多少ピンチになるまで様子を伺っていよう。
 あいつはもう少し懲りたほうがいい」

 開きかけた口をエルファンス兄様の大きな手で塞がれ、耳元でささやかれる。
 こくこくと頷いて前方に顔を向けた私の瞳に、太陽の光が届かない真っ暗な谷底を、炎の魔力を流したカークの剣の明かりが映る。

「ねえ、お兄様さっきから気になっていたんだけど、変な音がしない」

 再び歩き出したお兄様に耳打ちする。
 谷底に降りてからずっと、繰り返し聞こえる地の底から轟いてくるような重低音が気になっていた。

「……お前にも聞こえるか? 俺の空耳だったらいいと思っていたんだがな」

 ――謎の音の正体は、カークが行き当たった巨大な岩のような物体を照らし始めた直後、判明する――
 なぜなら炎の光に浮かび上がったものは岩ではなく、全身をびっしりと鱗で覆われた恐ろしく巨大なドラゴンだったからだ――
 どうやら先刻から聞こえていた音は鼾のようで、背中が上下していることから寝ているみたい。

 止せばいいのにカークはさらに確認するように照らし続け――とうとう明るい光に目を覚ましたドラゴンが、大きな瞼を開いたかと思うと、口から鋭い咆哮を発する。
 すると、呼ばれたように岩肌に空いた無数の洞穴から、バラバラとワイバーン達が飛び出してきた――

 昨日に引き続き、トラブルメーカーのカークが起こした危機的な状況に、恐怖に目を見張った私は、引きつった喉から「ひっ……!?」と声を漏らす。

 ――目の前に巨大ドラゴン、頭上からはワイバーンの群れ――
 これってかなりやばい状況では?

 と、汗ばむ両手で杖を握り直しつつ、私の頭の隅で何かが引っ掛かる。
 ……待って、私、あのドラゴンを……どこかで見た事がある?

 しかしすでに戦闘は始まっており、ゆっくり思い出している暇なんてない。
 案の定、飛来するワイバーンと戦い始めたキルアスとカークは、あっという間に数が多すぎてさばき切れなくなり、今しも大群に飲み込まれそうになっていた――

「お願いお兄様! あの二人の近くまで連れて行って!」

 とっさに叫ぶ。

「分かった、しっかり掴まっていろ」

 頷くと、エルファンス兄様は片手で素早く私を抱え直し、魔導具を上向き構えてキルアス達の元へ転移した。

 ゴオォオオォオオオッと、轟音をあげて頭上で炎が燃え広がり、一斉にワイバーン達の悲鳴が巻き起こる。
 青白い炎に照らされて煌くお兄様の銀髪を横目に、私は炎が止んだタイミングを見計い、大きく杖を振り上げた。

「光の壁!」

 一言唱え、杖で増幅させた自身の力を一気に解き放ち、全員が入る範囲を囲い込んだドーム状の光の壁を生成する。

「フィー!」

 炎のような髪を振り乱し、金色の瞳を輝かせたカークが驚き叫んで振り返る。
 キルアスも流れる亜麻色の髪を大きく揺らし、ターコイズブルーの瞳を大きく開いてこちらを見た。

「エルも! 二人ともどうしてここに?」

「心配で……助けに来たの!」

 そこで、改めて近くからドラゴンの姿を眺めた私は、突如、思い出す。

 ファン・ディスクだ!

 前世で発売を心待ちにしていた「恋プリ」FDの予告で、たしかドラゴンの背に載ったリナリー・コットと攻略キャラであるラファエルのイラストを見たことがある。
 そのFDのタイトルは「恋と戦のプリンセス~パーティ~」で、発売前情報によると各種キャラごとのサイドストーリーはもちろん、攻略キャラが勢ぞろいした特別編も収録されているらしい。

 背中に乗れるということは全くの敵ではない筈だし、現に今のところこちらを攻撃して来る様子はない。
 ゲーム自体は発売前ゆえに未プレイなので具体的には分からないけど、きっと仲良くなれる方法がある筈!

「みんな、お願いだからドラゴンには攻撃しないで!」

「良く分からないけど、言う通りにするよ」

 私の言葉にやや戸惑いながらも、キルアスが同意する。

 続けてエルファンス兄様も短く「わかった」と、カークも「なんだか知らないけど了解した」と言った。

「エル兄様、私を降ろして」

 返事がわりに地面に降ろされた私は、震える両脚で必死に踏ん張る。
 心臓は破裂しそうなほど激しく高鳴っていて、息苦しさと眩暈に今にも倒れてしまいそう。
 だけど、巻き込んでしまったエルファンス兄様のことを思えば、絶対にここで崩れる訳にはいかない。
 庇うように立つ目の前の愛しいお兄様の背中に勇気を貰い、私は決意を胸に杖を握る手に力をこめた。

 そろそろ光の壁の持続時間が終わる頃合だと注意を促す。

「来るわ! 準備して」

 出来るだけ全員が一箇所に固まってそれぞれ武器を構える。

 まずは光の防護壁が消えるのに合わせ、お兄様が上に向かって青白い炎の範囲攻撃魔法を放った。 
 次の瞬間、ワイバーン達の断末魔の叫びが響き、炎が止んだタイミングですかさずカークとキルアスが攻撃を繰り出す。

 近距離のワイバーンをカークが仕留め、遠方のワイバーンをキルアスが撃ち落としていく。
 合間にエルファンス兄様が範囲攻撃。
 私はワイバーンが吐く火がみんなにあたらないように光の盾を作って防ぐ。

 まさに隙の無い攻守――宿屋でカークが言ったように、完璧なパーティー・バランスだった。

 凄い! これなら本当にカークの言う通りこの谷のワイバーンを全て殲滅出来るかも知れない!
 思わずテンションが上がってそう思いかけたとき――

 ギュオオオオオオーーーーン!

 ドラゴンがぱっくりと巨大な口を開き、赤黒い喉の奥をのぞかせながら、心臓が縮みあがるような咆哮をあたりに轟かせた。

 その声を合図にワイバーン達は一斉に翼を翻し、それぞれ出てきた洞穴へと吸い込まれるように戻っていった。

 シーーーーン。

 急展開に全員が驚いて固まり、少しの間、その場に沈黙と静寂が満ちた――

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