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第五章
恋愛の余波
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「先刻、出立のために荷造りにしていると、急にラファエルが部屋に訪ねて来たの。
二人きりで話がしたいと言われ、最初は断わっていたんだけど、そうしたら耳元でこう囁かれたの。
自分には今、ガウス帝国のミーシャ殿下との縁談が来ている、って」
「ミーシャ殿下!!」
「最悪でしょう?」
「な、なんでそれで、コーデリア姫がラファエルと付き合うことになるの?」
因果関係が理解できなかった。
「あなたも『恋プリ』をやったことがあるなら、考えればこれが何のフラグを示すか分かるはずよ」
コーデリア姫に言われて私は思考を巡らす。
『恋プリ』の戦争シナリオの入り方は、リナリーが誰と交際するかによって複数パターンがある。
自国の攻略キャラを選んだ場合は、いきなり海から帝国に侵攻される。
ラファエルを選んだ場合は、ラディア王国が帝国に寝返る。
カークを選んだ場合は逆にエストリアが寝返るのだ。
問題は、ラディアとエストリアの両国が寝返るきっかけが、いずれも帝国との婚姻による結びつきということ。
つまりガウス帝国の皇女が嫁いだ国は、必ず四カ国同盟を裏切るってしまうのだ。
「――ミーシャ殿下が嫁げば、エストリアがガウス帝国に寝返る?」
「ええ、その可能性は高いと思うわ。
どうやら私とリナリーがラファエルとの接触を避けていたのが本人にもバレていたみたい。
自分は四カ国同盟の姫君二人に嫌われている様子だから、このままだとガウス帝国のミーシャ殿下との縁談話を受けざるを得ないと、こう言うのよ」
「……そ、そんなっ……!?」
それじゃあ、まるで脅しだ。
「私はね、とにかく戦争を回避したいの。そのために必要ならラファエルと親しくするし、婚約することすらいとわないわ」
話を聞いているうちに、罪悪感で血の気が引いて、くらくらしてくる。
「……わ……私……」
「え?」
「私の……せいかも……」
「どういうこと」
コーデリア姫が不思議そうな瞳で私を見た。
「……帝国には、皇女はミーシャ殿下お一人だけで……。
実はついこの前まで、彼女はエルファンス兄様との婚約が、ほぼ決まっていたの……」
「――で、エルファンスは断わったのね?」
私は重く頷く。
「だから、ミーシャ殿下との縁談がラファエルに……」
まさか自分達の恋愛の余波が、こんなところにまで及んでいるなんて……。
「あなたの話が本当なら、エルファンスがミーシャ姫と婚約していれば、少なくとも、婚姻がきっかけの戦争シナリオは起こらなかったでしょうね。
私もラファエルと関わらなくて済んだだろうし、そう考えると口惜しいわ。
――でもね、それは今さら言ってもしょうがないことなのよ。
問題は、これからどう行動するかということよ」
コーデリア姫はそう言ってくれるけど、私ゆえにお兄様は縁談を断り、そのせいで彼女は自分を犠牲にしないといけなくなったのだ。
それを思えば申し訳なさ過ぎて、涙がでてくる。
俯き、震える唇で、
「……ごめんなさい……」
両瞳から涙をこぼしながら謝ると、コーデリア姫がハンカチを差し出してきた。
「謝らないでよ。あなたのせいじゃないわ。
そりゃあ、本音を言うと、フィーが羨ましくて仕方がないし、私だって恋した相手と結ばれたかったわ。
でも元々叶いようもない夢だったのよ。
王女として生まれ、自分の国を愛してしまった時点でね。
――全ては運命だわ――……」
「……でもっ……!?」
ラファエルをあんなに怖がっていたのに、殺されるかもしれないのに!?
コーデリア姫は悲しそうに伏せていた瞳を上げ、私の瞳をまっすぐ見据えて言った。
「フィー、私はこれから少しラディアに滞在したあと、ラファエルと一緒にエストリアへ行く約束をしているの。
だから、もう、あなたと共に旅に出ることはできないわ。
非常に残念だし寂しいけど、ここでお別れよ――」
「……お別れ?」
「そうよ、死神の呪いにあなたまで巻き込むわけにはいかないもの。
短い間だったけど、同じ転生者同士、いっぱい話せて楽しかったわ。
どうかいつまでも元気で、エルファンスと幸せになってね」
そう言うとコーデリア姫はベンチからすくっと立ち、最後に「じゃあね」と笑って言うと、涙を隠すように顔を背けて一気に走り去って行った。
あまりにも突然のコーデリア姫とのお別れだった。
遠ざかる彼女の背を見つめながら、私はとにかく悲しくて、涙が溢れて止まらなかった――
二人きりで話がしたいと言われ、最初は断わっていたんだけど、そうしたら耳元でこう囁かれたの。
自分には今、ガウス帝国のミーシャ殿下との縁談が来ている、って」
「ミーシャ殿下!!」
「最悪でしょう?」
「な、なんでそれで、コーデリア姫がラファエルと付き合うことになるの?」
因果関係が理解できなかった。
「あなたも『恋プリ』をやったことがあるなら、考えればこれが何のフラグを示すか分かるはずよ」
コーデリア姫に言われて私は思考を巡らす。
『恋プリ』の戦争シナリオの入り方は、リナリーが誰と交際するかによって複数パターンがある。
自国の攻略キャラを選んだ場合は、いきなり海から帝国に侵攻される。
ラファエルを選んだ場合は、ラディア王国が帝国に寝返る。
カークを選んだ場合は逆にエストリアが寝返るのだ。
問題は、ラディアとエストリアの両国が寝返るきっかけが、いずれも帝国との婚姻による結びつきということ。
つまりガウス帝国の皇女が嫁いだ国は、必ず四カ国同盟を裏切るってしまうのだ。
「――ミーシャ殿下が嫁げば、エストリアがガウス帝国に寝返る?」
「ええ、その可能性は高いと思うわ。
どうやら私とリナリーがラファエルとの接触を避けていたのが本人にもバレていたみたい。
自分は四カ国同盟の姫君二人に嫌われている様子だから、このままだとガウス帝国のミーシャ殿下との縁談話を受けざるを得ないと、こう言うのよ」
「……そ、そんなっ……!?」
それじゃあ、まるで脅しだ。
「私はね、とにかく戦争を回避したいの。そのために必要ならラファエルと親しくするし、婚約することすらいとわないわ」
話を聞いているうちに、罪悪感で血の気が引いて、くらくらしてくる。
「……わ……私……」
「え?」
「私の……せいかも……」
「どういうこと」
コーデリア姫が不思議そうな瞳で私を見た。
「……帝国には、皇女はミーシャ殿下お一人だけで……。
実はついこの前まで、彼女はエルファンス兄様との婚約が、ほぼ決まっていたの……」
「――で、エルファンスは断わったのね?」
私は重く頷く。
「だから、ミーシャ殿下との縁談がラファエルに……」
まさか自分達の恋愛の余波が、こんなところにまで及んでいるなんて……。
「あなたの話が本当なら、エルファンスがミーシャ姫と婚約していれば、少なくとも、婚姻がきっかけの戦争シナリオは起こらなかったでしょうね。
私もラファエルと関わらなくて済んだだろうし、そう考えると口惜しいわ。
――でもね、それは今さら言ってもしょうがないことなのよ。
問題は、これからどう行動するかということよ」
コーデリア姫はそう言ってくれるけど、私ゆえにお兄様は縁談を断り、そのせいで彼女は自分を犠牲にしないといけなくなったのだ。
それを思えば申し訳なさ過ぎて、涙がでてくる。
俯き、震える唇で、
「……ごめんなさい……」
両瞳から涙をこぼしながら謝ると、コーデリア姫がハンカチを差し出してきた。
「謝らないでよ。あなたのせいじゃないわ。
そりゃあ、本音を言うと、フィーが羨ましくて仕方がないし、私だって恋した相手と結ばれたかったわ。
でも元々叶いようもない夢だったのよ。
王女として生まれ、自分の国を愛してしまった時点でね。
――全ては運命だわ――……」
「……でもっ……!?」
ラファエルをあんなに怖がっていたのに、殺されるかもしれないのに!?
コーデリア姫は悲しそうに伏せていた瞳を上げ、私の瞳をまっすぐ見据えて言った。
「フィー、私はこれから少しラディアに滞在したあと、ラファエルと一緒にエストリアへ行く約束をしているの。
だから、もう、あなたと共に旅に出ることはできないわ。
非常に残念だし寂しいけど、ここでお別れよ――」
「……お別れ?」
「そうよ、死神の呪いにあなたまで巻き込むわけにはいかないもの。
短い間だったけど、同じ転生者同士、いっぱい話せて楽しかったわ。
どうかいつまでも元気で、エルファンスと幸せになってね」
そう言うとコーデリア姫はベンチからすくっと立ち、最後に「じゃあね」と笑って言うと、涙を隠すように顔を背けて一気に走り去って行った。
あまりにも突然のコーデリア姫とのお別れだった。
遠ざかる彼女の背を見つめながら、私はとにかく悲しくて、涙が溢れて止まらなかった――
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