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第二章 森を守れ

第14話-1 まだ余裕の一日目

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 翌日。山の部隊は早朝に出発し、基地には森の部隊と平原の部隊が残された。それからしばらく経った後、森の部隊も、前線にいる隊員たちの援護と持ち場交代のため、出撃した。
 彼らはまだ元気そうに見えるが、油断は禁物だ。この部隊からも山の部隊に人を回したから、戦力が落ちてる。その状態で戦うんだから、今まで以上に苦戦するはずだ。
 それに、敵だってそろそろ猛攻を開始するはず。なにせこちらはボロボロ、突撃をかけるには絶好の状態なんだから。それでもどうにか持ちこたえてくれることを祈るしかない。

 そして俺たち平原の部隊だが、その日の昼近くに出撃命令が下った。今の俺は、すでにヘリエンに乗ってホバー・リグで移動中ってわけだ。
 リグの格納庫は狭く、コクピットはさらに狭い。別に閉所恐怖症ってわけじゃねぇが、ずっとこんなとこにいたら心が圧迫されて息苦しくなりそうだ。
 ただでさえ戦いの緊張感で胸が窒息しそうなのに、その上こんな狭いとこにいるってんじゃ、嫌な気分になって当たり前だわな。

 そんなことを考えていると、隊長が通信システムを通じて俺に話しかけてくる。

「とにかく無理するな。時間稼ぎで十分なんだ、深追いするなよ」
「了解ッス」
「あの金色はあたしが相手する。お前もダーカーもエイミーも、あいつには近づくなよ」
「はい。でも、隊長一人で大丈夫なんですか」
「まぁ何とかしてみせるさ」
「はい」
「くれぐれも殺りく人形に気をつけろよ。マインド・ブラストにつかまるな」
「了解です」

 そんなこといわれてもよ……。あんなにばんばん乱射されるものを避けきるなんて、不可能な話だぜ。あいつの相手はヘリエンじゃ厳しすぎるんだよ。味方の召喚生物で止めるしかない。倒せそうな相手だけを狙っていくことにしよう。
 さて、敵軍らしい連中の姿がレーダーに映ってきた。そろそろ出番らしい。よし、気合いを入れろ! ガンホー!



 場面は変わって、戦場。立ち止まっている俺たち第二部隊の前方には、敵のヘリエン二体とその後ろにいる召喚生物二体が見える。
 あの生物はキマイラだな。ライオンとヤギの顔を持ち、体はライオンだが翼が生えていて、尻尾はヘビだ。空を飛ぶことはできないが、ライオン、ヤギ、ヘビ、三つの顔を使い分けて飛び道具を撃ってくる。

 俺たちの後ろには味方の召喚生物であるケルベロスが二体いる。ケルベロスって、一つの犬に二つの犬の首がついてる、例のあいつだ。どうやら四肢の召喚生物の対決ってわけか、面白い。こんなの初めてだぜ。

 メイユー隊長が、ケルベロス隊のサマナーたちと俺たち、つまりこの場にいる味方の全員に指示を出す。

「ケルベロス隊はこの場で待機。クロベーはキマイラたちに撃ちまくれ」
「了解ッス」
「ダーカーとエイミーはあたしに続け。敵のヘリエンたちを潰す」
「はい」
「了解しました」
「敵に隙が見えたら全員突撃。一気にせん滅する!」

 全員が「了解」と答える。ちなみに、サマナーたちとはテレパシーを使っての通信をしてる。ヘリエンについてる機械が音声情報を疑似的なテレパシーにして送信してくれるって仕組みだ。

 まぁこの話はこれでいいだろ、まずは俺の仕事をしないと。俺は、ヘリエンの態勢を射撃用にするため、こいつの両足についている補助の足を展開して地面にしっかり食いこませる。これで機体の姿勢を安定させて、同時に、射撃時に発生する反動を抑えこむわけだ。
 今日の俺の武器は大型ライフル、通称「ロンゴミナード」。略してロンゴだ。こいつはバトル・ライフルよりもデカく、重く、取り回しが悪い。おまけに連射しにくい。その代わり、強烈な威力と長射程を持ってる。味方に守ってもらいながらこいつをぶっ放すのが今日の俺の仕事、油断せずやるとしようか。

 敵部隊が動き出す。同時に、メイユー隊長から命令が飛ぶ。

「戦闘開始だ!」

 いくぜ! ロンゴの引き金を引く時だ! ドンッという重い発射音、大型の弾丸が一体のキマイラの顔面に直撃する。悲鳴が上がる。

「ウォーーーッ!」

 そいつは頭をぐったり下げ。体をブルブルと震わせる。あんな急所に一発もらったんだ、相当キツいはず。よし、第二弾を装填、もう一発! ドォォン、命中、弾丸は敵の額に直撃する。敵の動きが止まる、軽い脳震とうでも起きたか? しばらくは動けねぇだろ。
 俺がそうしている間、ケルベロス隊がその三つ首からいくつもの火球を吐き出す。それらは敵ヘリエンたちのいる場所へ飛ぶ、相手は素早く火球をよけてこちらへ突っ込む進路を取り、アサルト・ライフルを撃ちながら突っこんでくる。

 まだ何のダメージも受けていないキマイラが、隊長たちに火球を連射する。彼女たちはそれをよけながら敵部隊の左へ回り込み、ハンドガンやアサルト・ライフルで攻撃を加えていく。「ウォォッ!」、大量の弾丸をくらったキマイラが苦痛の叫びをあげる。
 敵のヘリエンたちが俺の左右から迫ってくる。俺はケルベロス隊に連絡を飛ばす。

「すみません、左右の敵機をお願いします!」
「了解!」

 ケルベロスたちは前へ進み出る。こちらへ突っ込んでくる敵のヘリエンたち、ケルベロスたちはそれらに火球を連発する。さっきみたいにお互いの距離が遠ければよけられたんだろうが、残念ながら奴らは近づき過ぎた。俺の右側にいるヘリエンはよけたものの、左側にいるヘリエンがもろに火球をくらう。
 そいつの機体が炎上、動きが止まる。そこへさらに火球が飛ぶ。命中、地獄の炎がそのヘリエンを包み、高熱が装甲を溶かしていく。うわぁ、あれ、中のパイロットは蒸し焼きになってるぜ。この超火力があるから召喚生物は怖ぇんだ。

 残っている一体の敵ヘリエンにもケルベロスの攻撃が襲いかかる。そのケルベロスは素早く前へ飛びこんでヘリエンとの間合いを詰め、前足を横薙ぎに振るう。攻撃命中、まるでおもちゃの人形が吹き飛ぶようにそのヘリエンは吹き飛ぶ。
 そいつは空中をビュゥゥンと飛んで地面に落ち、ガシャァァァンという派手な音を立て、そのまま動かなくなる。どうやら足が壊れたっぽいな。腕も変な方向に曲がってる、関節がやられたらしい。あれじゃあどうにもならんだろ。よし、こっちは一段落。残っているキマイラを片づけよう。

 俺はロンゴを構え、隊長たちが攻めているキマイラに狙いを定める。シュート! 命中、ドォォンッ! 悲鳴、「ウォォォッ!」。こいつの痛みは特上だ、鉄パイプで殴られたみたいにキツいはず。よし、相手の動きが止まってる。チャンス!

「隊長、いけます!」
「わかってる! お前ら、ロケット弾を使え!」

 隊長たちのヘリエンから大量のロケット弾が放たれる。キマイラは火球で迎撃するが、当然、すべては撃ち落とせない。いくつものロケット弾がキマイラに命中し、大きな傷を作る。あまりの痛さに相手は動けない、なら、撃つべき時は今! 俺はロンゴの引き金を引く。

「とどめだッ!」

 ロンゴが弾丸を放つ。それは敵の側頭部に命中する。「ウォオォォオォッ!」、そのキマイラは大きな悲鳴をあげ、そのまま地面に倒れていく。どうやら今の攻撃で、キマイラを操っていたサマナーが気絶したらしい。
 こうなればこちらの勝利だ。召喚生物の体を作り、動かしているのは、サマナーから送られてくるサイコ・エナジー。そのサマナーが気絶したんだ、もう送れるわけがない。キマイラの体は氷が溶ける時のように少しずつ消失していく。



 この勢いに乗って、残り一体のキマイラもつぶす!
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