26 / 66
第二章 森を守れ
第15話-1 チョコ・クッキーで元気になろう
しおりを挟む
どうにか初日の戦闘を終えた俺たち平原部隊は、その後、基地に帰還した。じゃ、次は戦果について説明しよう。
結論から言えば、かなりの損害が出てしまった。サマナー隊の一部隊が戦闘不能、それ以外の部隊にもかなりの被害が出た。気絶して昏睡する者、体に幻の激痛を感じる者、その他さまざまだ。しばらく休まないと戦えないだろう。
ヘリエン隊は、無人機二つが中破、有人機は三つが小破した。それと、エイミーのヘリエンが左腕をギンスキーに深く斬られた。エイミー自身は無事だったが、この結果に彼女はかなりのショックを受けたらしい。基地に戻ってからはずっと部屋に閉じこもっていて、戦いの打ち合わせに来ても顔が暗い。
そして俺は、そんな彼女のお見舞いに行く途中だ。あいつが好きなチョコ・クッキーを基地内の売店(酒保ともいう)で買い、こうして廊下を歩いてる。
あたりはいつもより静かで人が少ない。戦闘員はみんな疲れて部屋で寝てるからな、当たり前か。そういう俺だって疲れてるが、しかし、エイミーを放っとくわけにはいかんだろ? 人との関係は優しさが大事だからな、たまにはこういうことも必要だ。
てくてく歩くこと五分。俺はエイミーの部屋の前に立つ。ドアをノック、トン、トン、トン。
「おーい。俺だ、クロベー。お見舞いに来たぞー」
ややあって、エイミーからの返事が来る。
「わかった。開ける」
電車のドアが脇に吸い込まれていく時のように、俺の目の前にあるドアが開いていく。
視界に飛びこんでくるエイミー、彼女はパイロット・スーツの上にベッドスプレッド(bedspread, かけ布団)をかけた状態で立っている。いや、かけるというよりはくるまっている感じだろうか。その様子はまるで毛布の中にいる子犬を思わせる。
とにかく何か喋ろう。ここでボーッと立っていてもしょうがない。
「どうしたよ、そんなカッコして。寒いのか?」
「ううん。違う」
「なら、他になんか理由でも?」
「こうしてると安心する……」
エイミーの瞳は、どことなく寂しそうな色をしている。それは俺の心を悲しくする。
「とりあえず廊下に来いよ。ジュースおごってやるから、自販機に行こうぜ」
「紅茶はある?」
「もちろん」
「わかった。行く。ちょっと待って、支度する」
ドアが閉じられる。少しの時間が経過、またドアが開く。エイミーは、相変わらずパイロット・スーツを着ているが、もうベッドスプレッドはない。彼女は言う。
「連れてって」
「あいよ、じゃあ行くか……」
二人で廊下を歩き出す。
自販機のあるところには、ベンチと机がいくつかあって、少し休憩できるようになってる。そこに着いた俺たちは、飲み物を買い、向かい合って席に座る。俺もエイミーも紅茶だ、安いものだが味はそれなりにいける。
俺はチョコ・クッキーの入った袋をエイミーの前に置く。
「ほい。これ、お見舞いのお菓子だ」
「チョコ・クッキー?」
「お前が好きだと思ってさ。前、街に遊びに行った時、お菓子屋で試食したろ。あの店だよ、クッキーのうまい店」
「うん。覚えてる」
「あの店に比べりゃ、しょぼいかも知れんけどさ。ここのクッキーだってまぁまぁうまいと思うぜ」
「食べていいの?」
「当たり前だろ、お前のために買ったんだから」
「……ありがとう」
「いいんだよ、お礼なんざ」
彼女は袋の包みを解き、一枚のクッキーを取り出す。それを口に運び、もぐもぐ食べて……つぶやく。
「おいしい……」
「そいつぁいい」
「クロベーも食べる?」
「いや、俺は遠慮しとく」
「なんで?」
「俺はチョコ・アレルギーなんだよ。昔は食べられたんだが、ある日いきなりダメになった」
「そうなの?」
「なんだ、知らなかったのか? 隊長やダーカーは知ってるのに。教えてもらわなかったの?」
「うん」
「そうか、じゃあよかったら覚えてといてくれ」
俺は紅茶を少し飲む。そっとエイミーの顔を観察する。うむ、ちょっと明るくなった気がする。食べ物のは偉大だな。どれ、もう少し一緒の時間を過ごしますかね。
「ギンスキーに負けて辛いだろ」
「うん……」
「大変だったよな。あいつ明らかにエース・パイロットだもんな。でもよ、まだリベンジするチャンスがあるんだ。今はゆっくり休んで、次こそやっつけようぜ」
「でも、私、勝てるかな……」
「勝負は時の運だ。ちょっとしたことで勝ち負けが決まる。元気出せよ、今度はいけるって」
「私、ヘリエンがやられて、怖かった。負ける、死ぬ。そう思った」
「怖かった?」
「うん。すっごく怖かった」
「なら、次にお前がやられそうになったら助けてやる。俺が守ってやる」
「ほんと?」
「あぁ、ほんと、だ。だから安心しろ。大丈夫だからな」
「……ありがとう。クロベー、だいす……き……」
うん? 最後の言葉、小声でよく聞こえない……。
「だいす? ダイスって、サイコロ?」
「……なんでもない」
エイミーの顔は少し赤い。もしかして、やっぱ熱でもあるんじゃねぇの?
「よし、クッキー食べたら戻ろうぜ。とにかく休んで体力回復しなくちゃな」
「うん」
「いつ出撃になるかわからねぇ。気合い入れてこうぜ」
きっとそろそろ次の戦いが始まる。そんな予感がするな。
結論から言えば、かなりの損害が出てしまった。サマナー隊の一部隊が戦闘不能、それ以外の部隊にもかなりの被害が出た。気絶して昏睡する者、体に幻の激痛を感じる者、その他さまざまだ。しばらく休まないと戦えないだろう。
ヘリエン隊は、無人機二つが中破、有人機は三つが小破した。それと、エイミーのヘリエンが左腕をギンスキーに深く斬られた。エイミー自身は無事だったが、この結果に彼女はかなりのショックを受けたらしい。基地に戻ってからはずっと部屋に閉じこもっていて、戦いの打ち合わせに来ても顔が暗い。
そして俺は、そんな彼女のお見舞いに行く途中だ。あいつが好きなチョコ・クッキーを基地内の売店(酒保ともいう)で買い、こうして廊下を歩いてる。
あたりはいつもより静かで人が少ない。戦闘員はみんな疲れて部屋で寝てるからな、当たり前か。そういう俺だって疲れてるが、しかし、エイミーを放っとくわけにはいかんだろ? 人との関係は優しさが大事だからな、たまにはこういうことも必要だ。
てくてく歩くこと五分。俺はエイミーの部屋の前に立つ。ドアをノック、トン、トン、トン。
「おーい。俺だ、クロベー。お見舞いに来たぞー」
ややあって、エイミーからの返事が来る。
「わかった。開ける」
電車のドアが脇に吸い込まれていく時のように、俺の目の前にあるドアが開いていく。
視界に飛びこんでくるエイミー、彼女はパイロット・スーツの上にベッドスプレッド(bedspread, かけ布団)をかけた状態で立っている。いや、かけるというよりはくるまっている感じだろうか。その様子はまるで毛布の中にいる子犬を思わせる。
とにかく何か喋ろう。ここでボーッと立っていてもしょうがない。
「どうしたよ、そんなカッコして。寒いのか?」
「ううん。違う」
「なら、他になんか理由でも?」
「こうしてると安心する……」
エイミーの瞳は、どことなく寂しそうな色をしている。それは俺の心を悲しくする。
「とりあえず廊下に来いよ。ジュースおごってやるから、自販機に行こうぜ」
「紅茶はある?」
「もちろん」
「わかった。行く。ちょっと待って、支度する」
ドアが閉じられる。少しの時間が経過、またドアが開く。エイミーは、相変わらずパイロット・スーツを着ているが、もうベッドスプレッドはない。彼女は言う。
「連れてって」
「あいよ、じゃあ行くか……」
二人で廊下を歩き出す。
自販機のあるところには、ベンチと机がいくつかあって、少し休憩できるようになってる。そこに着いた俺たちは、飲み物を買い、向かい合って席に座る。俺もエイミーも紅茶だ、安いものだが味はそれなりにいける。
俺はチョコ・クッキーの入った袋をエイミーの前に置く。
「ほい。これ、お見舞いのお菓子だ」
「チョコ・クッキー?」
「お前が好きだと思ってさ。前、街に遊びに行った時、お菓子屋で試食したろ。あの店だよ、クッキーのうまい店」
「うん。覚えてる」
「あの店に比べりゃ、しょぼいかも知れんけどさ。ここのクッキーだってまぁまぁうまいと思うぜ」
「食べていいの?」
「当たり前だろ、お前のために買ったんだから」
「……ありがとう」
「いいんだよ、お礼なんざ」
彼女は袋の包みを解き、一枚のクッキーを取り出す。それを口に運び、もぐもぐ食べて……つぶやく。
「おいしい……」
「そいつぁいい」
「クロベーも食べる?」
「いや、俺は遠慮しとく」
「なんで?」
「俺はチョコ・アレルギーなんだよ。昔は食べられたんだが、ある日いきなりダメになった」
「そうなの?」
「なんだ、知らなかったのか? 隊長やダーカーは知ってるのに。教えてもらわなかったの?」
「うん」
「そうか、じゃあよかったら覚えてといてくれ」
俺は紅茶を少し飲む。そっとエイミーの顔を観察する。うむ、ちょっと明るくなった気がする。食べ物のは偉大だな。どれ、もう少し一緒の時間を過ごしますかね。
「ギンスキーに負けて辛いだろ」
「うん……」
「大変だったよな。あいつ明らかにエース・パイロットだもんな。でもよ、まだリベンジするチャンスがあるんだ。今はゆっくり休んで、次こそやっつけようぜ」
「でも、私、勝てるかな……」
「勝負は時の運だ。ちょっとしたことで勝ち負けが決まる。元気出せよ、今度はいけるって」
「私、ヘリエンがやられて、怖かった。負ける、死ぬ。そう思った」
「怖かった?」
「うん。すっごく怖かった」
「なら、次にお前がやられそうになったら助けてやる。俺が守ってやる」
「ほんと?」
「あぁ、ほんと、だ。だから安心しろ。大丈夫だからな」
「……ありがとう。クロベー、だいす……き……」
うん? 最後の言葉、小声でよく聞こえない……。
「だいす? ダイスって、サイコロ?」
「……なんでもない」
エイミーの顔は少し赤い。もしかして、やっぱ熱でもあるんじゃねぇの?
「よし、クッキー食べたら戻ろうぜ。とにかく休んで体力回復しなくちゃな」
「うん」
「いつ出撃になるかわからねぇ。気合い入れてこうぜ」
きっとそろそろ次の戦いが始まる。そんな予感がするな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる