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第三章 あばよ課金ゲー

第5話 あばよ課金ゲー

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 そう思った時、ギルド・メンバーからの音声メッセージが耳に飛びこんでくる。

「騎馬隊、敵の後ろに回り込みました! これで挟み撃ちできます!」
「よっしゃ、ナイス!」
「はい!」
「全軍に次ぐ! 全力で戦え! 左翼も右翼も突っ込め!」

 みんなの叫び声が戦場にとどろく。

「うぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 あたしは画面に表示されている戦力ゲージを見る。
 やった……! こっちが優勢だ、相手をどんどん削ってる!

「見たかマイカル! タイマンじゃ負けてもね、戦争そのものはあたしらの勝ちだ! このまま押し切ってやる!」
「ちっ……」
「あたしなんか放っといて騎馬隊をつぶしにいけば良かったんだ。なのに、ずーっとあたしの相手してるからこうなる」
「負けるなんてつまんねぇなぁ……。やっぱヘルヴァスってクソゲーかも」
「クソなのはあんたのほうだ! 頭を使って遊ぶことを知らないあんたがクソなんだ!」
「まぁいいや。こいつぶっ殺して終わりにしよ」
「少しは人の話を聞けって!」
「あーはいはい! うぜぇなぁ!」

 不快そうな顔をあたしに向け、マイカルが剣を構える。

「一発で殺す」
「死ぬのはあんただよ」
「三百万の俺が負けるわけねぇじゃん」

 金、金、金! うんざりだ、もううんざりだ!
 しっかりと正国を握り締め、あたしは叫ぶ。

「みんなくたばっちまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「殺すッ!」

 このままぶつかればあたしが負ける。でも、この技なら!

「裂光剣!」

 正国を振って衝撃波を出し、マイカルにぶつける。威力はしょぼい、だが……。

「ぐっ……目が、見えねぇ!」
「殺ったッ!」

 全力の一撃を叩きこんでマイカルの体力すべてを奪う。致死ダメージを受け、彼は倒れる。

「マイカル。貧乏人に負けた気分はどう?」
「クソうぜぇ……」
「裂光剣は威力が低い、でも、追加効果で相手の目を見えなくする。攻めるだけじゃなく状態異常も使ってこそ一流だ」
「そりゃそうだけど、目つぶしの効果が出るかどうかは運次第、確率次第でしょ」
「小梅がくれたジェムのおかげだ。発生率が上昇してる」
「はぁ……?」
「あんたには関係ない話だよ」

 戦いの終了を告げるラッパが鳴る。

「パパァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 戦力ゲージを確認する。よし、これなら間違いなくこっちの勝利だ。やれやれ……。



 それにしても、ゲームってなんだろう。金をたくさん出した奴が勝ち、まぁ、そういう話も分かるよ。あたしだって課金しまくってきたし。
 でも、なんかそれって違うっていうかさ。うまく言えないけど、あたしが慣れ親しんだゲーム文化からすると、すっごく変な感じがするよ。

 確かにマイカルの言うとおり、ヘルヴァスはクソゲーなのかもしれない。勝つのはいつも金持ち、貧乏人は何もできずになぶり殺しにされる。
 現実の世界だってそうなのに、ゲームまでそれじゃあたまらない。せめてゲームくらいお金とは関係ない力で勝ちたいよ。知力とか、キャラの操作技術とか、そういうのでさ。あとはいくらかの幸運、そんな感じでね。

 引退しよう。今まで楽しかったよ、ヘルヴァス。ありがとう。そしてさようなら。
 あばよ課金ゲー。




〇作者より
 最後までお読み頂きありがとうございました。楽しんでもらえたなら嬉しいです。
 ヘルヴァスを舞台にした別の作品が読みたいという方は、その旨を感想欄にお書きください。頑張ります。
 また次の作品でお会いしましょう。 
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