迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

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第1部 すべては経験

第10話-3 さざ波のローブ/The Spell Bewtiched the Spellcaster

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 デート。キャンディスにとって、それは初めてのことだった。こういう時、どうしたらいいのか、何を喋ったらいいのか、彼女にはわからない。それでも、最低限のことはしなくてはならない。とりあえず彼女は口を開く。

「あの、ここを真っすぐ行ったら、あそこの角を右に曲がるんです。そこから少し歩けば、目的のお店です」

 カールは微笑みながら返す。「分かった。じゃあ、行こうか?」。二人は歩き出す。二人だけで。
 しばらくの間、二人は無言だった。キャンディスの頭は混乱している、上手く思考をまとめられない。今の彼女は、目的地へ向かって歩くだけの人形と化している。
 不意にカールが話しかける。

「キャンディスくんはどうして冒険者になったんだい?」

 何が発生しているのか、キャンディスには分からない。彼女は聞き返す。「あのっ、はい?」。

「はは(苦笑い)。ねぇ、君はどうして冒険者になったんだい?」
「その、色々あったんです。私、白の耳長族で、昔はみんなと一緒に森で暮らしていました。私、もちろん知っています。耳長族は、一つのところで暮らすのが普通で、外の世界にはあまり出て行かない種族だってこと。でも、私はそれが好きではなくて」
「外に行きたかった?」
「はい。私、本が好きで、本に出てくる外の世界とか冒険者が好きなんです。お姫様を助けるためにドラゴンと戦ったり、お宝のために命がけでダンジョンへ潜ったり、そういうことすごく憧れて」
「それで、冒険者になった?」
「はい」
「なるほどねぇ」
「あの、カールさんはなぜ冒険者に?」
「私か。私は……ちょっと人には言えない理由でね」
「あっ、すみません……」
「いや、いいんだ。大したことじゃない。まぁその、簡単に言えば、家族と仲が悪くってね。家族というか父親なんだけど、今でも仲が悪いんだよ。それで、家の外に出たいと思っていて。だから、冒険者になったんだ」
「はい」
「ところで、いったいいつまで歩くんだい?」
「あの、もうすぐ……あの赤い看板のお店がそうです」

 二人は店内へと入る。洒落た雰囲気の店内には、女性用の鎧や武器、指輪や護符などがきれいに並べられている。しばらくの間、二人はいろいろとアイテムを見て回る。……だが、残念なことに、毒よけの装備は見当たらなかった。
 カールは近くにいる店員にたずねる。

「すまない、毒に強くなる指輪とか、ないだろうか?」
「毒よけですか……」

 店員は二人をアクセサリーのあるところへ案内する。そして陳列されている商品を調べる……が、やはり毒よけのものはなかった。

「申し訳ございません、どうやら今は売り切れてしまっているようで……」
「そうか……それは困ったな……」

 その時、キャンディスの視界の端に、一着のローブの姿が飛びこんでくる。それは全体として白く、足元や袖口に近づくにつれて、南国の海のような色が広がっている。生地は質が良さそうで、明らかに高価な品物だった。
 カールはキャンディスの視線に気づく。彼は同じ所へ視線を向ける、それから店員にたずねる。

「君、あのローブはどういうものなんだい?」
「あれは、さざ波のローブといいまして、毒やマヒといった肉体の状態異常の他、混乱や恐怖など、心の異常も防ぐ機能を持っております」
「ほう、それはすごいな。少し見せてもらってもいいかい?」
「えぇ、大丈夫です」

 カールはローブに近づき、それを手に取って調べる。

「……いい。とてもいい、素晴らしいな。……値段もそれなり、か……」

 キャンディスが話しかける。

「あの、それは予算を超えていますし、他のお店で毒よけを探したほうが……」

 カールはキャンディスの言葉など気にしない、さらにローブを調べる。「……キャンディスくん。率直に言って、これ、欲しいかい?」

「えっ?」
「サイズが合うのなら、君はこれを装備すべきだと思う。正直な話、君が着ているそれは、もう限界がきているだ。これをいい機会と思って、新調してみないかい?」
「確かに欲しいですけれど、ただ、お金が……」
「うん、お金か。それなら……」

 カールは、腰につけている物入れから小さな袋を取り出す。それの中から指輪を取り出し、店員に見せる。

「責任者のところにいって、聞いてきてくれないか? この指輪とあのローブ、交換することは可能かどうか、を」
「……少々お待ちください」

 店員は指輪を持って店内に消える。店員が。

「カールさん、あの指輪は……!」
「いいんだ、気にしないでくれ。あれはもう手放すべきなんだ、苦い思い出が詰まっているからね」
「でも!」
「君はパーティーの回復役だ。絶対に倒れてはいけないんだ。もし君が倒れたら、誰が傷を治す? 毒を消す? あの装備、今後を考えたら絶対に必要になる。プレゼントするからもらっておきなさい」
「それは分かりますけれど……」
「あのローブ、きれいだろう?」
「……はい」
「年頃なんだから、少しはお洒落したほうがいい。お金のことは、みんなには黙っておけばいい。特別に安く買えたとか、適当に言っておけばいいんだ」

 店員が戻ってくる。「こちらとしましては問題ありませんが……。本当によろしいのですか、あんなに良い指輪を?」。

「いいんだ、大丈夫。こちらは問題ない」
「では、商談成立ということで間違いないでしょうか?」
「サイズが彼女に合うのなら、OKだ」
「承知しました。では、試着室へご案内いたします……」

 こうして、カールに押し切られる形で、キャンディスはローブを手に入れた。店を出て、彼女はお礼を言う。

「カールさん、本当にありがとうございます。こんなに良いものを……」
「気に入ったかい?」
「……はい!」
「それは良かった」

  カールの顔に優しい微笑みが浮かぶ。キャンディスはそれを魅力的だと思う。思わず彼女も笑顔になる。彼女は言う。

「私、ずっと大事にします……ずっと!」



 二人が宿に帰った後、またみんなから冷やかされたのは言うまでもない。
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