迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

文字の大きさ
22 / 55
第1部 すべては経験

第11話-4 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ/Ice the Lizard

しおりを挟む
 ギンは目の前のリザードをにらむ。彼よりもはるかに背が高いそれは、強烈な威圧感を漂わせている。「グォォ……」、リザードのうなり声。ギンの背筋に震えが走る。彼の胸の鼓動は、テンション(tension)と興奮でどんどん速くなっていく。まるで溺れる人がワラをつかむように、彼は剣をギュッと握りしめる。

「グォォォーーーッ!」

 リザードが戦闘開始の雄たけびをあげる。その場の全員に緊張が走る。リザードは、威嚇した勢いのまま、大きく息を吸って吐き出す。毒のブレスがギンを襲う。

「うっ……ゴッ、ゴホッ!」

 彼は思わず咳き込む。ブレスを吸い込んでしまったからだ。特大リザードから放たれたブレスは強烈であり、それは、毒よけイヤリングの魔法的な守りを突破するのに十分すぎるほどだった。彼の体は毒におかされて、全身のところどころに焼けつくような痛みが発生する。彼は態勢を崩しそうになる。
 この様子を見ていたキャンディスは、即座にカウンターアクションの魔法を使う。

「ギンさん、しっかり!」

 魔法はギンに命中し、毒を消し去る。体が楽になったギンは、これ以上ブレスをくらわないために後ろへ下がる。だがリザードはギンを逃がさない、走って彼を追いかけて攻撃射程内にとらえ、自慢の鋭い爪を振るう。命中、それはギンを切り裂いて、ダメージと毒を与える。リッチーが悪態をつく。

「Hell,  このままじゃやられちまう!」

 キャンディスが再度のカウンターアクションを使おうとする。彼女は意識を集中して光球を作る、だがそれは少し遅い、彼女よりも先にリザードが魔法を使う。リザードの手に生まれる光球、それは弾けて風となり、ギンを襲う。彼の体内の毒が威力を増して、針で刺されたような痛みを大量発生させる。

「ぐほっ、ぐほっ……ゴホッ!」

 激しく咳きこむギン、その時ようやくカウンターアクションの魔法光球が到着し、毒を消す。毒の痛みが消える、しかし今までに受けたダメージまで消えたわけではない。損傷した体の各部が痛みの悲鳴をあげている。もしこのまま戦い続ければ、間違いなく、いずれ彼は殺されるだろう。
 リッチーは焦りながら言う。

「やべぇ、おい、レーヴ!」
「分かってるって!」

 レーヴの手からアイス・ダガーが発射される。多数の氷の短剣がリザードに刺さる。リザードは軽く怯む、だがすぐに態勢を立て直す。レーヴは驚く。

「あいつ、なんて抵抗力! 大してダメージになってない!」

 リッチーが返す。

「それでも撃ち続けるしかねぇだろ! 俺はカールさんを助けに行ってくる、その間、ギンを頼むぜ!」
「頼むって言われても!」
「時間がねぇ、任せたぞ!」

 リッチーは全力で走り出す。犬耳族の彼にとって、素早く走ることは簡単なことだ。そもそも犬耳族は、人間族よりも寿命が短いかわりに犬のような身体能力を持っているのだ。リッチーはあっと言う間にカールのもとへたどり着く、剣を杖にして立っている彼に声をかける。

「おい、カールさん、おい!」
「リッチーくんか……!」
「これを使ってくれ!」

 リッチーは、腰につけている小型バッグからトローチを取り出し、カールに差し出す。カールはそれを受け取って口に放り込む、トローチは即座に溶けて、その薬効を発揮する。魔法的な回復力がカールのダメージを取り去って、気分を楽にする。

「ありがとう、リッチーくん」
「いいんだそんなことは、それより戦闘だ!」
「分かっている、あのままでは、ギンくんは死んでしまう」
「どうすりゃいい!?」
「トローチ以外、何かアイテムは?」
「魔法力を回復するポーシェンが一つ」
「……魔法力か……」

 カールは少しだけ考える。魔法力。それは魔法を使うための力、では、魔法とは何か? それは奇跡を起こす力、暗闇を照らす灯りを作り、道をふさぐ岩を砕く力。彼は遠くのリザードを見る。多少は傷ついているものの、まだ元気なリザード。それとは対照的に、血だらけになってボロボロのギン。彼は決心する、静かに言う。

「ポーシェンをくれ。それを飲んだら、私は奴へ突撃する」
「突撃って、なにか作戦でもあるのかよ!?」
「一か八かだが、まだ奥の手がある。さぁ早く、迷っている時間などないぞ!」
「……信じるぜ!」

 リッチーはポーシェンを渡す。カールはそれを一気に飲み干して、失われた魔法力を回復する。頭が冴えわたり、集中力が戻ってくる。それから、剣をしっかりと握りしめたのち、リッチーに言う。

「チャンスがあったら援護してくれ。では、行ってくる!」

 カールは駆けだす。目指すはリザードの背中、リザードにとって、最も守りにくい場所。今のリザードはギンに気を取られていて、カールの存在も背後の守りも忘れている。そこに付け入る隙がある。
 全力の疾走、ついに彼はリザードのそばまで来る。大きくジャンプ、剣を上下が逆になるように持って、背中を狙い、突っ込む。重力を利用してのその一撃は、見事にリザードのウロコを貫き、その下にまで到達する。「グォォォォォッ!?」、リザードの悲鳴、無理もない、剣が深々と突き刺さったのだ。この状態から、カールは奥の手を放つ。

 彼の右手、剣の柄を握っている部分に魔法力が集まる。全てを凍らせるかのような冷気、彼はそれを、剣を介してリザードの体内へ送り込む。だがリザードが抵抗する、リザードの体内にある魔法力がカールの魔法力を押し返そうとする。その結果、カールの魔法力の一部がカールへと逆流する。
 逆流する魔法力は、その冷気をカールの手へと伝える。発生する激痛、それはまるで、液体窒素を皮膚に塗った時のような痛み。「ぐっ……」、カールは必死にそれをこらえる。彼の手がぼろぼろになっていく、それでも彼はこの行為をやめない。必死に魔法力をリザードへ送り続ける。

「グォォォッ、グォォオッ!」

 リザードは体を振ってカールを振り落そうとする。カールは振り落とされまいともがく。逆流する魔法力がついにカールの腕までも焼き始める、気絶しそうなほの痛みがカールを切り刻む。彼は気合の叫びをあげる。

「うおおぉおぉぉぉっ!」

 痛みに逆らい、カールはひたすら冷気を送り続ける。そのかいあってか、リザードの動きが鈍り始める。爬虫類の宿命、体が冷えたことで活動力が失われているのだ。今なら大振りな一撃であっても命中させられるだろう。このチャンス見逃すカールではない。

「ギンくん、今だ! 全力で奴の頭を砕け!」
「カールさん!」
「私のことは気にするな! いいから、奴を!」

 ここで勝負を決めなければ、二度と勝ち目は来ない。そう悟ったギンは覚悟を決める。剣を手にリザードへ突進、強く地面を蹴って宙へ跳び上がり、リザードの頭へ剣を打ちこむ。ドゴッ、鈍い音がして、リザードの頭が割れる。それは致命傷、リザードを殺すには十分すぎるほどの攻撃だった。



 リザードは地面に倒れる。そしてその背中のカールも地面に落ちて動かなくなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...