迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

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第1部 すべては経験

第12話-2 旅立ちの時/Bastard

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 それから一週間ほどの間は、特に大きなこともなく、ギンたちは適当に遊んで暮らした。そうった日々の中、ある日、キャンディスはカールと共に買い物へ出かけた。
 いつかの時のように、二人きり、キャンディスたちは街をゆく。今回の行先は薬屋、その日はちょうどセールをする日で、ギンたちは以前からこの機会を狙っていたのだ。冒険者にとって薬は必需品、安い時に買いだめしておくことが大事である。
 昼下がりの街、今日の天気は曇り、それは人をどこか憂うつにする。道を歩きながら、カールはふと、つぶやくように言う。

「実はね、キャンディスくん。私はそろそろ、みんなとお別れしようと思うんだ」
「えっ!?」
「約束のリザード退治も終わったことだし、もう大丈夫だと思ってね」
「あの、それって冗談ですよね?」
「こんな冗談、言うわけないだろう? 私は本気さ」
「……どうしても行くんですか?」
「行って欲しくないのかい?」
「はい」
「……」

 カールとキャンディスは立ち止まる。今の二人は、街の中にある橋の上にいる。カールは体の向きを変え、川の方面に視線を落とす。それから喋り出す。

「私はね、人を不幸にする男なんだ。だから、みんなとお別れしなくちゃいけない」
「えっ? どういうことですか、それは……?」
「私はね、呪われた男なのさ。生まれてこなかったほうが良かった男なんだよ」
「どうしてそんなこと言うんですか? カールさんはいい人じゃないですか、私たちのことだって、命がけで助けてくださった。カールさんのおかげでリザードを倒せたんです、全部カールさんのおかげですよ」
「ふふ、そうかもしれない……」

 カールは冷めた笑顔を浮かべながら言葉を続ける。

「君にだけ、内緒で打ち明けるよ。私はね、ある商人の子どもとして生まれたんだ」
「はい」
「父親は才能のある人で、かなりのお金持ちなんだ。そのせいか、女性関係がだらしなくてね。昔の話さ、メイドに手を出して、孕ませて、そして私が生まれた」
「……はい」
「父からも、父の妻からも、私は罵られた。奴らはよく言ったものさ、「お前が生まれてこなければ、うちは平和だったのに」。そう、私が生まれてこなければ、何もかも平和だったんだ。私は生まれてこなかったほうが良かった男。私のせいで、みんな不幸になってしまった」

 キャンディスは、何と言っていいかわからない。そんな彼女の様子を知ってか知らずか、カールはなおも語る。

「私が買い物好きだったり、物の鑑定力があったり、不思議だったかい? 商人の子どもなんてやっていれば、そういう人間になるんだ。でも、これが何の役に立つのか……。確かに、いろいろ利益をもたらしてくれる。でも、本当の幸せをつかむ助けにはならないんだよ」
「あの、そんなに自分を悪く言わないでください。私、カールさんを尊敬してます。鑑定力だって、私、すごいって思っています。素晴らしい力です」
「そう言ってくれるのかい? ありがとう、君は優しいな」

 カールは優しく微笑む。そして言う。

「もう少し、君や君の仲間たちと一緒に過ごせたら。そう思う気持ちもあるけどね。でも、行かなくちゃいけない。ねぇ、キャンディスくん、分かるだろう? 私は父の浮気な性質を受け継いでいる。誰かと一緒にいれば、恋に落ちて結婚して、そしていずれは父のような過ちをするかもしれない。私はそれが怖い」

 誰かと一緒にいれば、父のような過ちをするかもしれない。その言葉はキャンディスに悪い予感を与える。
 
「君は優しくて、可愛くて、魅力的な女の子だ。だからこそ、私は行かなくちゃいけないんだ。このまま君と一緒にいることはできない」

 キャンディスの心に衝撃が走る。カールはゆっくりと話を続ける。

「浮気、その結果生まれてくる、望まれぬ子ども。もうそういう過ちを繰り返してはダメなんだ、だから、私は冒険者になった。冒険者なら、誰かと一緒になったって、親しくなる前に別れられる。恋愛せずにすむ」

 キャンディスの、必死の反撃。

「それでいいんですか。カールさんは、それでいいんですか。いつも一人で、孤独で、それでいいんですか」
「それでいいんだ。それでいい。一人が一番、気楽だよ。恋愛をしたい人はすればいい、でも、私は遠慮しておく。そういう人生を、私は選んだんだ」

 カールは体の向きを変え、キャンディスの顔を見る。

「何日かしたら旅立つよ。とりあえずコーメルキムに行って、しばらくは、あの学者の彼の世話になるつもりだ。今まで本当に楽しかったよ。ありがとう」

 カールは力なく笑う。それは、キャンディスの今までの人生において、一度も見たことのない種類の笑顔だった。



 それから2日後、カールは旅立ち、ギンたちの仲間ではなくなった。
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