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第2部 闇に死す
第6話 アメシストのネックレス
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翌日の昼下がり。セラの街の広場。そこには吟遊詩人の一座があって、何人かの団員たちが、楽器を手にしながら演奏の準備をしている。あたりには人だかりができていて、その中にはカールとメーユイの姿も見える。メーユイが何かを喋っている。
「私、音楽って好きだな。ただ聞いているだけで、楽しくなったり悲しくなったり。小さいころからずっと好き。私自身はあんまり楽器とかできないんだけど、聞くだけでも好きで、この人たちのことも楽しみにしてたんだ。ねぇ、カールさんは?」
「えっ?」
「カールさん、音楽、好き?」
「いや、私はあまり、そういうのは詳しくなくて……」
「もったいないなぁ、それ。音楽ってすごくいいのに。好きな曲とかないの?」
「好きな曲か……」
カールは少し考えてみる。
「昔、私が実家にいた頃、街の吟遊詩人がよくライヴ・コンサートをやっていて。その人が歌っていた曲、今でも好きかもしれません」
「へぇ。それ、なんて曲?」
「”剣にさよなら”、そんな感じの名前で……」
二人がそんな会話をしていると、詩人一座のリーダー格に見える男が人々の前に進み出て、ライヴの開始を告げた。
「ようこそ皆様、good day, ごきげんよう。この度はお集まりいただきまして、まことに……」
少し興奮気味にメーユイは言う。
「うわぁ、いい声! あの人、歌手なのかな!」
彼女の声は弾み、顔はヴェルヴェットように輝いている。カールはそれらを、宝石よりも美しいと思う。
ついにライヴが始まる。一座の面々が楽器を構え、雷の魔法がかかったギターがエレアコな音を出し、曲を奏でる。先ほどのリーダー格の男が歌いだす。
♪金が必要さ お前と暮らすために だから剣を売るさ 剣を売るさ
もう必要ない 冒険から引退 だってお前と暮らすから 暮らすから
カールは驚く。「この曲は……」。曲はまだ続く。
♪戦いの日々が終わり 愛の日々が始まる
冒険の中で死ぬ それよりも
お前の腕の中で死にたい
死ぬまで一緒にいよう 死ぬまで一緒に
死ぬまで一緒にいよう 死ぬまで一緒に……
メーユイはいたずらっ子のように笑いながらカールに言う。「カールさん。私もこれ、好きですよ?」。まだまだライヴは続く。
♪剣にさよなら あばよ、荒事 君を迎えにいくぜ 妻に迎えるぜ
迎えにいくぜ 妻に迎えるぜ
今、二人は熱心に曲を聴いている。ライヴはまだ始まったばかり、これからいくらでも、二人を盛り上げてくれる曲が出てくるだろう。
ライヴが終わった後、二人は街をぶらぶら散歩して帰ることにした。大通りの店を覗いて回り、次は露天商でごった返す市場へ行き、冷やかし半分に見て回る。道を歩く二人に、猫耳を頭に生やした……つまり、猫耳族の女性が声をかける。
「ねぇ、そこのお二人さん! ちょっと見ていってよ、指輪とかあるから!」
メーユイは反応する。「指輪?」。カールは言う、「見ていきますか?」。メーユイは言葉で返事せず、猫耳の女性へ歩いていくことで意志を示す。カールも彼女を追って移動する。
猫耳女性の前には何かの箱があり、それは布で覆われていて、布の上には商品が並んでいる。どれも、指輪やチャーム(charm, この場合は”お守り”の意味)といったアクセサリー類である。アイテムにはまっている色とりどりの石や宝石が、太陽の光を反射してキラキラ光っている。
猫耳女性は話を切り出す。
「デートの記念に、どうだい、一つ? 安くしとくよ?」
メーユイは女性にたずねる。「触ってもいいですか?」、「あいよ、大丈夫」。メーユイは、紫の石がついているネックレスを手に取り、ながめてみる。
「きれい……」
カールがコメントする。「それはアメシスト(amethyst, 紫水晶)ですね。私も見ていいですか?」。メーユイはカールにネックレスを渡し、カールはそれを品定めする。
「何か、強い魔法力を感じるな。店主、これは?」
「さぁ、なんだろうね。実を言うと、あたしにも正体がわからないんだ。冒険で手に入れたんだけど、珍しい魔法がかかってるみたいで、誰にも鑑定できなかったのさ。たぶん魔除けとか、そういうのじゃない?」
「ふむ……」
カールは少し考えこむ。商談が成立しそうだと見た猫耳店主は攻勢をかける。
「そこのお姉さん、名前は?」
「メーユイですが……」
「これ、どう思うのさ? すごくキレイだって、あたしは思うんだけどねぇ……」
「えぇ、えぇ、そうですよね! 本当キレイで、私、びっくりしちゃって……」
「彼氏さん、どうだい? 彼女さんはこう言ってるよ?」
カールは苦笑いしながら返す。
「いえ、そんな、彼氏とかそういうわけではなくて……」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。それで、どう? メーユイさんは欲しいみたいだけど?」
「……いくらなんです?」
「3万……と言いたいけど、2万8000にしとこう」
2万8000。その数字を聞いて、メーユイは不安そうに言う。
「あの、カールさん。私、おねだりするつもりはないですし、無理はやめて……」
「心配しないでください。この程度、ちゃんと払える」
「でも……」
「まぁ、少し高いかな。負けてもらえば、私としては助かるけれど……」
それからしばらくの間、カールと猫耳店主の間でやり取りが行われた。その結果、カールはそのネックレスを手に入れ、メーユイにプレゼントした。
今、二人は帰り道。メーユイはネックレスを見ながら言う。
「すみません、こんな立派なものを……」
「はは、大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ありがとうございます。私、大切にしますから」
「いえいえ、こちらこそ」
二人の間に柔らかい雰囲気が流れる。カールは、デートに誘ってよかったと心の底から感じる。
その時、そんなカールたちを、キャンディスとレーヴが遠くから眺めていた。
「私、音楽って好きだな。ただ聞いているだけで、楽しくなったり悲しくなったり。小さいころからずっと好き。私自身はあんまり楽器とかできないんだけど、聞くだけでも好きで、この人たちのことも楽しみにしてたんだ。ねぇ、カールさんは?」
「えっ?」
「カールさん、音楽、好き?」
「いや、私はあまり、そういうのは詳しくなくて……」
「もったいないなぁ、それ。音楽ってすごくいいのに。好きな曲とかないの?」
「好きな曲か……」
カールは少し考えてみる。
「昔、私が実家にいた頃、街の吟遊詩人がよくライヴ・コンサートをやっていて。その人が歌っていた曲、今でも好きかもしれません」
「へぇ。それ、なんて曲?」
「”剣にさよなら”、そんな感じの名前で……」
二人がそんな会話をしていると、詩人一座のリーダー格に見える男が人々の前に進み出て、ライヴの開始を告げた。
「ようこそ皆様、good day, ごきげんよう。この度はお集まりいただきまして、まことに……」
少し興奮気味にメーユイは言う。
「うわぁ、いい声! あの人、歌手なのかな!」
彼女の声は弾み、顔はヴェルヴェットように輝いている。カールはそれらを、宝石よりも美しいと思う。
ついにライヴが始まる。一座の面々が楽器を構え、雷の魔法がかかったギターがエレアコな音を出し、曲を奏でる。先ほどのリーダー格の男が歌いだす。
♪金が必要さ お前と暮らすために だから剣を売るさ 剣を売るさ
もう必要ない 冒険から引退 だってお前と暮らすから 暮らすから
カールは驚く。「この曲は……」。曲はまだ続く。
♪戦いの日々が終わり 愛の日々が始まる
冒険の中で死ぬ それよりも
お前の腕の中で死にたい
死ぬまで一緒にいよう 死ぬまで一緒に
死ぬまで一緒にいよう 死ぬまで一緒に……
メーユイはいたずらっ子のように笑いながらカールに言う。「カールさん。私もこれ、好きですよ?」。まだまだライヴは続く。
♪剣にさよなら あばよ、荒事 君を迎えにいくぜ 妻に迎えるぜ
迎えにいくぜ 妻に迎えるぜ
今、二人は熱心に曲を聴いている。ライヴはまだ始まったばかり、これからいくらでも、二人を盛り上げてくれる曲が出てくるだろう。
ライヴが終わった後、二人は街をぶらぶら散歩して帰ることにした。大通りの店を覗いて回り、次は露天商でごった返す市場へ行き、冷やかし半分に見て回る。道を歩く二人に、猫耳を頭に生やした……つまり、猫耳族の女性が声をかける。
「ねぇ、そこのお二人さん! ちょっと見ていってよ、指輪とかあるから!」
メーユイは反応する。「指輪?」。カールは言う、「見ていきますか?」。メーユイは言葉で返事せず、猫耳の女性へ歩いていくことで意志を示す。カールも彼女を追って移動する。
猫耳女性の前には何かの箱があり、それは布で覆われていて、布の上には商品が並んでいる。どれも、指輪やチャーム(charm, この場合は”お守り”の意味)といったアクセサリー類である。アイテムにはまっている色とりどりの石や宝石が、太陽の光を反射してキラキラ光っている。
猫耳女性は話を切り出す。
「デートの記念に、どうだい、一つ? 安くしとくよ?」
メーユイは女性にたずねる。「触ってもいいですか?」、「あいよ、大丈夫」。メーユイは、紫の石がついているネックレスを手に取り、ながめてみる。
「きれい……」
カールがコメントする。「それはアメシスト(amethyst, 紫水晶)ですね。私も見ていいですか?」。メーユイはカールにネックレスを渡し、カールはそれを品定めする。
「何か、強い魔法力を感じるな。店主、これは?」
「さぁ、なんだろうね。実を言うと、あたしにも正体がわからないんだ。冒険で手に入れたんだけど、珍しい魔法がかかってるみたいで、誰にも鑑定できなかったのさ。たぶん魔除けとか、そういうのじゃない?」
「ふむ……」
カールは少し考えこむ。商談が成立しそうだと見た猫耳店主は攻勢をかける。
「そこのお姉さん、名前は?」
「メーユイですが……」
「これ、どう思うのさ? すごくキレイだって、あたしは思うんだけどねぇ……」
「えぇ、えぇ、そうですよね! 本当キレイで、私、びっくりしちゃって……」
「彼氏さん、どうだい? 彼女さんはこう言ってるよ?」
カールは苦笑いしながら返す。
「いえ、そんな、彼氏とかそういうわけではなくて……」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。それで、どう? メーユイさんは欲しいみたいだけど?」
「……いくらなんです?」
「3万……と言いたいけど、2万8000にしとこう」
2万8000。その数字を聞いて、メーユイは不安そうに言う。
「あの、カールさん。私、おねだりするつもりはないですし、無理はやめて……」
「心配しないでください。この程度、ちゃんと払える」
「でも……」
「まぁ、少し高いかな。負けてもらえば、私としては助かるけれど……」
それからしばらくの間、カールと猫耳店主の間でやり取りが行われた。その結果、カールはそのネックレスを手に入れ、メーユイにプレゼントした。
今、二人は帰り道。メーユイはネックレスを見ながら言う。
「すみません、こんな立派なものを……」
「はは、大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ありがとうございます。私、大切にしますから」
「いえいえ、こちらこそ」
二人の間に柔らかい雰囲気が流れる。カールは、デートに誘ってよかったと心の底から感じる。
その時、そんなカールたちを、キャンディスとレーヴが遠くから眺めていた。
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