迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

文字の大きさ
40 / 55
第2部 闇に死す

第6話 アメシストのネックレス

しおりを挟む
 翌日の昼下がり。セラの街の広場。そこには吟遊詩人の一座があって、何人かの団員たちが、楽器を手にしながら演奏の準備をしている。あたりには人だかりができていて、その中にはカールとメーユイの姿も見える。メーユイが何かを喋っている。

「私、音楽って好きだな。ただ聞いているだけで、楽しくなったり悲しくなったり。小さいころからずっと好き。私自身はあんまり楽器とかできないんだけど、聞くだけでも好きで、この人たちのことも楽しみにしてたんだ。ねぇ、カールさんは?」
「えっ?」
「カールさん、音楽、好き?」
「いや、私はあまり、そういうのは詳しくなくて……」
「もったいないなぁ、それ。音楽ってすごくいいのに。好きな曲とかないの?」
「好きな曲か……」

 カールは少し考えてみる。

「昔、私が実家にいた頃、街の吟遊詩人がよくライヴ・コンサートをやっていて。その人が歌っていた曲、今でも好きかもしれません」
「へぇ。それ、なんて曲?」
「”剣にさよなら”、そんな感じの名前で……」

 二人がそんな会話をしていると、詩人一座のリーダー格に見える男が人々の前に進み出て、ライヴの開始を告げた。

「ようこそ皆様、good day,  ごきげんよう。この度はお集まりいただきまして、まことに……」

 少し興奮気味にメーユイは言う。

「うわぁ、いい声! あの人、歌手なのかな!」

 彼女の声は弾み、顔はヴェルヴェットように輝いている。カールはそれらを、宝石よりも美しいと思う。
 ついにライヴが始まる。一座の面々が楽器を構え、雷の魔法がかかったギターがエレアコな音を出し、曲を奏でる。先ほどのリーダー格の男が歌いだす。


♪金が必要さ お前と暮らすために だから剣を売るさ 剣を売るさ
もう必要ない 冒険から引退 だってお前と暮らすから 暮らすから


 カールは驚く。「この曲は……」。曲はまだ続く。


♪戦いの日々が終わり 愛の日々が始まる
冒険の中で死ぬ それよりも
お前の腕の中で死にたい
 
死ぬまで一緒にいよう 死ぬまで一緒に
死ぬまで一緒にいよう 死ぬまで一緒に……



 メーユイはいたずらっ子のように笑いながらカールに言う。「カールさん。私もこれ、好きですよ?」。まだまだライヴは続く。


♪剣にさよなら あばよ、荒事 君を迎えにいくぜ 妻に迎えるぜ
迎えにいくぜ 妻に迎えるぜ


 今、二人は熱心に曲を聴いている。ライヴはまだ始まったばかり、これからいくらでも、二人を盛り上げてくれる曲が出てくるだろう。



 ライヴが終わった後、二人は街をぶらぶら散歩して帰ることにした。大通りの店を覗いて回り、次は露天商でごった返す市場へ行き、冷やかし半分に見て回る。道を歩く二人に、猫耳を頭に生やした……つまり、猫耳族の女性が声をかける。

「ねぇ、そこのお二人さん! ちょっと見ていってよ、指輪とかあるから!」

 メーユイは反応する。「指輪?」。カールは言う、「見ていきますか?」。メーユイは言葉で返事せず、猫耳の女性へ歩いていくことで意志を示す。カールも彼女を追って移動する。

 猫耳女性の前には何かの箱があり、それは布で覆われていて、布の上には商品が並んでいる。どれも、指輪やチャーム(charm,  この場合は”お守り”の意味)といったアクセサリー類である。アイテムにはまっている色とりどりの石や宝石が、太陽の光を反射してキラキラ光っている。
 猫耳女性は話を切り出す。

「デートの記念に、どうだい、一つ? 安くしとくよ?」

 メーユイは女性にたずねる。「触ってもいいですか?」、「あいよ、大丈夫」。メーユイは、紫の石がついているネックレスを手に取り、ながめてみる。

「きれい……」

 カールがコメントする。「それはアメシスト(amethyst,  紫水晶)ですね。私も見ていいですか?」。メーユイはカールにネックレスを渡し、カールはそれを品定めする。

「何か、強い魔法力を感じるな。店主、これは?」
「さぁ、なんだろうね。実を言うと、あたしにも正体がわからないんだ。冒険で手に入れたんだけど、珍しい魔法がかかってるみたいで、誰にも鑑定できなかったのさ。たぶん魔除けとか、そういうのじゃない?」
「ふむ……」

 カールは少し考えこむ。商談が成立しそうだと見た猫耳店主は攻勢をかける。

「そこのお姉さん、名前は?」
「メーユイですが……」
「これ、どう思うのさ? すごくキレイだって、あたしは思うんだけどねぇ……」
「えぇ、えぇ、そうですよね! 本当キレイで、私、びっくりしちゃって……」
「彼氏さん、どうだい? 彼女さんはこう言ってるよ?」

 カールは苦笑いしながら返す。

「いえ、そんな、彼氏とかそういうわけではなくて……」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。それで、どう? メーユイさんは欲しいみたいだけど?」
「……いくらなんです?」
「3万……と言いたいけど、2万8000にしとこう」

 2万8000。その数字を聞いて、メーユイは不安そうに言う。

「あの、カールさん。私、おねだりするつもりはないですし、無理はやめて……」
「心配しないでください。この程度、ちゃんと払える」
「でも……」
「まぁ、少し高いかな。負けてもらえば、私としては助かるけれど……」

 それからしばらくの間、カールと猫耳店主の間でやり取りが行われた。その結果、カールはそのネックレスを手に入れ、メーユイにプレゼントした。
 今、二人は帰り道。メーユイはネックレスを見ながら言う。

「すみません、こんな立派なものを……」
「はは、大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ありがとうございます。私、大切にしますから」
「いえいえ、こちらこそ」

 二人の間に柔らかい雰囲気が流れる。カールは、デートに誘ってよかったと心の底から感じる。



 その時、そんなカールたちを、キャンディスとレーヴが遠くから眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...