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第2部 闇に死す
第7話-1 食事と幸福の関係
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翌日の午前。カールは宿屋でくつろいでいる。ベッドに寝転がり、何もせず、目をつむってあれこれと考えたり、空想したり。少しずつ時間が流れる、やがて、彼の心の中に空想の世界の風景が広がる。
そこは小さな町で、どこか田舎っぽく、のんびりとした雰囲気がそこかしこに漂っている。街の通り、食料品店だの薬屋だのが並ぶ場所。そこを歩けば一軒の店にたどり着く。それは古物商で、洒落た造りの店、中には人間族の若い夫婦がいる。
その夫婦のうち、男性のほうはカールで、店の奥にある机の前に座っていて、柄の部分に装飾が施された短剣をルーペで調べている。
その夫婦のうち、女性のほうはメーユイで、カウンターの内側に座り、小さな金属製のチャームを布で磨いている。首には、先日カールがプレゼントしたネックレスがかかり、アメシストが美しく光っている。
ふいにカールは作業をやめ、短剣を机の上に置き、今は自分の妻となったメーユイに話しかける。
「メーユイ、そろそろ食事にしないか?」
「もうそんな時間なの?」
「いや、少し早いさ。でも、お腹が空いてしまって……」
「あなた、結婚してから食欲増えたんじゃない?」
「そうかもしれないな。君の料理が美味しいものだから、つい食べ過ぎてしまって」
「もしかして、前より太った?」
「まぁ、少し……」
「気をつけないと太鼓腹になりますよ」
「はは、それは嫌だな。でも、少し贅肉がつくなんて、大したことじゃない。幸せ太りだと思えば我慢できることさ」
「ねぇ、あなた。私と結婚して、幸せ?」
メーユイはカールへと体を向け、微笑みかける。カールは彼女の言葉に返事をしようとする……。
ノックの音、コン、コン、コン。現実世界、カールの部屋、それのドアを誰かが外から叩いている。この音はカールを空想から現実へと無理やり連れ戻した。カールは少し不機嫌になりながら、ノックの主に対して返事をする。
「誰ですか、用事ですか?」
三十代半ばくらいに思える女性の声。
「カールさん、あなたの友だちだという人たちがお呼びです」
「友だち?」
「若い女の子二人ですよ。キャンディスさんとレーヴさんだそうです」
「あぁ、はい……」
カールはベッドから降りる。
「その二人、今どこに?」
「下の待合室です」
「すぐ行くと伝えてください」
「承知しました」
ドアの外の人物は足音を立てながら去る。カールは簡単な身支度を始める。
その日の夜、中級に分類される大衆料理店。テーブルの周りにはギンたち四人とカール、合計五人。テーブルの上には、ピッツァやサンドイッチが並んでいる。
ピッツァを食べながらカールは言う。
「まさか、こうして食事に招待されるとはね」
ギンが返す。
「以前お世話になったお礼ですよ。どうですか、ここ? なかなかいいでしょう」
「うん、いいね。すごく美味しいよ。これでこの値段、安さとは、ちょっと信じられないな」
「地元の人に教えてもらったんですよ。本当、美味しいですよね」
ギンはニコニコと笑っている。カールもつられて笑顔になる。そんなところへ、ウェイターが料理を持ってやってくる。
「お待たせしました。魚パイをご注文のお客様……」
「はい、私です」
ウェイターは魚パイをキャンディスの前に置く。この料理については、少し説明が必要だろう。
魚パイ。それはなかなか興味深い料理である。パイ料理の一種だが、特徴的なのは、魚がそのまま突っこまれていることだ。分かりやすく考えるなら、グラタンに細長い魚が縦型に刺さっているものを想像すればよい。
カールは魚パイをちらっと見る。パイから突き出ている魚の頭部、それの死んだ目が彼を見つめている(と、彼は思った)。このままずっと見つめ続けていると、食欲が消えていきそうである。彼は魚パイから素早く目をそらす、視線をレーヴに向け、話しかける。
「レーヴくん、そのスパゲティはどうなんだい?」
「(口に食べ物が入ったまま喋る)エビの味ひホマホの味が混はり合って、おいひいれすよ」
リッチーが呆れたように言う。
「そんな口いっぱいに頬張るなよ……。人と食事をする時は、一口の量を少なめにしとくもんだぜ」
「(レーヴ、食べ物を飲み込んでから)わかってるよ、そんくらい。もぉ、うるさいなぁ」
「まったく……」
ギンが笑う。
「二人とも仲いいよねー。いつも思うけど、二人とも付き合っちゃえば?」
付き合っちゃえば? その言葉を聞いたキャンディスの表情が少し緊張する。だが、誰もそれに気づかない。彼女の変化など知らないレーヴとリッチーが喋る。
「付き合うー? こいつとー? いやー、冗談キツいよ! こんなデリケシー(delicacy, 思いやり、気遣い)のない奴、お断りだよ」
「俺だってお断りだ、もっと色気のある女が俺の好みなんだ」
「ちょっと、それってあたしが色気ないってワケ?」
「そうだよ」
「はー、センスのない男はなんも分かんないんだね~。あたしの魅力がわからないなんて、同情しちゃうわ~」
「はいはい、勝手に言ってろ」
カールも笑う。
「二人とも、本当に仲がいいな。うらやましいよ」
仲がいいな、うらやましいよ。キャンディスの表情がさらに固くなる。彼女の心に、昨日の夕方に見た光景が広がる。自分の知らぬ女性と共に歩く、着飾った姿のカール。カールは楽しそうに笑っていて、それは女性も同じように見えた。あれは何だったのか……。
そんな彼女の思いを感じ取ったのだろうか。レーヴが質問をする。
「そういえば、カールさん。昨日、女の人と一緒にいたけど、あれってデート?」
そこは小さな町で、どこか田舎っぽく、のんびりとした雰囲気がそこかしこに漂っている。街の通り、食料品店だの薬屋だのが並ぶ場所。そこを歩けば一軒の店にたどり着く。それは古物商で、洒落た造りの店、中には人間族の若い夫婦がいる。
その夫婦のうち、男性のほうはカールで、店の奥にある机の前に座っていて、柄の部分に装飾が施された短剣をルーペで調べている。
その夫婦のうち、女性のほうはメーユイで、カウンターの内側に座り、小さな金属製のチャームを布で磨いている。首には、先日カールがプレゼントしたネックレスがかかり、アメシストが美しく光っている。
ふいにカールは作業をやめ、短剣を机の上に置き、今は自分の妻となったメーユイに話しかける。
「メーユイ、そろそろ食事にしないか?」
「もうそんな時間なの?」
「いや、少し早いさ。でも、お腹が空いてしまって……」
「あなた、結婚してから食欲増えたんじゃない?」
「そうかもしれないな。君の料理が美味しいものだから、つい食べ過ぎてしまって」
「もしかして、前より太った?」
「まぁ、少し……」
「気をつけないと太鼓腹になりますよ」
「はは、それは嫌だな。でも、少し贅肉がつくなんて、大したことじゃない。幸せ太りだと思えば我慢できることさ」
「ねぇ、あなた。私と結婚して、幸せ?」
メーユイはカールへと体を向け、微笑みかける。カールは彼女の言葉に返事をしようとする……。
ノックの音、コン、コン、コン。現実世界、カールの部屋、それのドアを誰かが外から叩いている。この音はカールを空想から現実へと無理やり連れ戻した。カールは少し不機嫌になりながら、ノックの主に対して返事をする。
「誰ですか、用事ですか?」
三十代半ばくらいに思える女性の声。
「カールさん、あなたの友だちだという人たちがお呼びです」
「友だち?」
「若い女の子二人ですよ。キャンディスさんとレーヴさんだそうです」
「あぁ、はい……」
カールはベッドから降りる。
「その二人、今どこに?」
「下の待合室です」
「すぐ行くと伝えてください」
「承知しました」
ドアの外の人物は足音を立てながら去る。カールは簡単な身支度を始める。
その日の夜、中級に分類される大衆料理店。テーブルの周りにはギンたち四人とカール、合計五人。テーブルの上には、ピッツァやサンドイッチが並んでいる。
ピッツァを食べながらカールは言う。
「まさか、こうして食事に招待されるとはね」
ギンが返す。
「以前お世話になったお礼ですよ。どうですか、ここ? なかなかいいでしょう」
「うん、いいね。すごく美味しいよ。これでこの値段、安さとは、ちょっと信じられないな」
「地元の人に教えてもらったんですよ。本当、美味しいですよね」
ギンはニコニコと笑っている。カールもつられて笑顔になる。そんなところへ、ウェイターが料理を持ってやってくる。
「お待たせしました。魚パイをご注文のお客様……」
「はい、私です」
ウェイターは魚パイをキャンディスの前に置く。この料理については、少し説明が必要だろう。
魚パイ。それはなかなか興味深い料理である。パイ料理の一種だが、特徴的なのは、魚がそのまま突っこまれていることだ。分かりやすく考えるなら、グラタンに細長い魚が縦型に刺さっているものを想像すればよい。
カールは魚パイをちらっと見る。パイから突き出ている魚の頭部、それの死んだ目が彼を見つめている(と、彼は思った)。このままずっと見つめ続けていると、食欲が消えていきそうである。彼は魚パイから素早く目をそらす、視線をレーヴに向け、話しかける。
「レーヴくん、そのスパゲティはどうなんだい?」
「(口に食べ物が入ったまま喋る)エビの味ひホマホの味が混はり合って、おいひいれすよ」
リッチーが呆れたように言う。
「そんな口いっぱいに頬張るなよ……。人と食事をする時は、一口の量を少なめにしとくもんだぜ」
「(レーヴ、食べ物を飲み込んでから)わかってるよ、そんくらい。もぉ、うるさいなぁ」
「まったく……」
ギンが笑う。
「二人とも仲いいよねー。いつも思うけど、二人とも付き合っちゃえば?」
付き合っちゃえば? その言葉を聞いたキャンディスの表情が少し緊張する。だが、誰もそれに気づかない。彼女の変化など知らないレーヴとリッチーが喋る。
「付き合うー? こいつとー? いやー、冗談キツいよ! こんなデリケシー(delicacy, 思いやり、気遣い)のない奴、お断りだよ」
「俺だってお断りだ、もっと色気のある女が俺の好みなんだ」
「ちょっと、それってあたしが色気ないってワケ?」
「そうだよ」
「はー、センスのない男はなんも分かんないんだね~。あたしの魅力がわからないなんて、同情しちゃうわ~」
「はいはい、勝手に言ってろ」
カールも笑う。
「二人とも、本当に仲がいいな。うらやましいよ」
仲がいいな、うらやましいよ。キャンディスの表情がさらに固くなる。彼女の心に、昨日の夕方に見た光景が広がる。自分の知らぬ女性と共に歩く、着飾った姿のカール。カールは楽しそうに笑っていて、それは女性も同じように見えた。あれは何だったのか……。
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