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第2部 闇に死す
第9話-3 盗賊が奪ったもの
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イーホウ邸は街の中心部から離れた場所にあって、警備隊の巡回コースからも少し外れており、それゆえに不審人物から狙われやすい。また、以前にも描写された通り、イーホウ邸には値打ちのある物が多く、それだけでも盗賊のターゲットとなる理由としては十分すぎる。
メーユイにしろ、イーホウにしろ、これらのことは良くないと思っていたのだ。だから彼女たちは、ずっと以前は、カールを泊めることで用心棒代わりにし、安全を確保していた。
だが彼は屋敷を去った。そう、今のイーホウ邸には、セキュリティ・ガードが一人もいない。そして、こういった情報は、闇の社会にすぐ広まるものなのだ。
ギンとカールが戦った日、深夜、イーホウ邸。ある人間族の男がそこに忍び込んだ。目的は、言うまでもない、泥棒だ。彼は魔法で足音を消し、夜目が利くようにして、それから物色を始める。静かに侵入、静かに仕事、静かに撤退。計画では、これで良かったはずなのだ。計画では。
その夜、メーユイは眠れなかった。カールのことを考えると、あれやこれやの考えが心に浮かんできて、眠気を追い払ったからだ。彼女はベッドの中でため息をつき、身を起こし、ベッドから降りる。そのまま移動、二階にある自室から出て一階を目指す。台所で何か飲んで、気分を紛らわそうと思ったのだ。
一階へ到着。その時、壺か何かが割れるような、大きな音が発生した。彼女は驚く、「何!?」。物音は廊下の奥から聞こえたらしい。何があったのかを確かめるため、彼女は恐る恐る、その場所へ向かって歩き出す。
それは、ある程度の距離を歩いた時だった。彼女は、廊下の奥からやってくる謎の男と遭遇した。思わず悲鳴をあげる。
「キャーッ!」
男の舌打ち、「チッ!」。彼は近くにあった花瓶を手に取り、メーユイへ向かって思いっきり投げつける。花瓶は鋭く宙を飛んでメーユイの頭に当たり、直後、彼女は崩れ落ちる。好機到来、男はその隙に走り去る。
メーユイの頭からはたくさんの血が流れ出ている。顔色が少しずつ青ざめていく。彼女はまったく動かない。呼吸が徐々に弱くなっていく……。
翌日、朝。街の病院。霊安室。そこにはカールとイーホウがいて、二人の前には、寝台の上に横たえられたメーユイの遺体がある。
メーユイは穏やかな顔でそこに寝ている。寝ているが、目を覚ますことはない。救い主による救いの時が来るまで、彼女は眠り続けるだろう。ずっと。ずっと。
イーホウが口を開き、少しずつ、少しずつ、話す。
「僕が、もっと、しっかりするべきだったんだ。今さら、遅いけれど」
沈黙が場を支配する。カールは黙っている。
「君にいてもらう、べき……だったのかも、しれない。いや、君を責めるわけじゃないんだ。そうじゃなくて、君のような強い人を用心棒に雇って……」
カールは黙っている。
「最近、治安が、悪くなってるって、それは……分かって、いたのに」
「……。あぁ……。姉さん……」
イーホウの目から涙が流れる、静かに。カールは黙っている。
それから数日後、宿屋の一階。ギンたちは、隅にあるテーブルの周りに集まり、トランプでセヴン・ブリッジをしている。リッチーが手札からクラブの7と8を出し、テーブルの上に捨てて、言う。
「とりあえず出しとくわ。そいで、もう一枚捨てて、っと。はい、ギン」
ギンの手番。彼はテーブルの山札から一枚を引いて手札に加え、何をすべきか考える。考えながら言う。
「ねぇ、ずーっとこうやって遊んでるけどさ。どうしようか、冒険?」
彼はハートの4、5、6を場に出す。それからスペードの2を捨てる。番はレーヴに移る。彼女は山札から一枚引いて手札に入れ、あれこれ考えるフリをしながら喋る。
「カールさん、メーユイさんのお葬式終わってからずーっとふさぎこんでるしさ。そんな状態の人を冒険に連れてくって、無理だよぉ。まぁ、あたしらだけで行くしかないっしょ」
レーヴはハートの9を捨てる。キャンディスの番、山札から一枚引いて手札に入れて、ぼんやりとそれを見ながら話す。
「この冒険、やめたほうがいいんじゃないんでしょうか。なんだか不吉な感じになってきた、そう思うんですよ……」
彼女は、スペードのK、クラブのK、ダイヤのK、これら三枚を場に出し、それから手札の一枚を捨てて、番をリッチーに回す。
リッチーは山札から一枚引き、引いてきたそのカードをながめながら言う。
「キャンディスの言う通り、今回はやめたほうがいいかもしれねぇなぁ……。さて、どうしようか……」
彼はダイヤの9、10、J、Qを場に出す。それから、手札にあるハートのKを、キャンディスが出した先ほどの三枚にくっつける。最後に、手札から一枚を捨てて宣言。
「はい、上がり。やれやれ……」
レーヴが文句を垂れる。「ちょっとー、上がるの早すぎー!」。リッチー、ダルそうな声で「うるせぇ」と返し、その勢いで「ちょっと外の空気吸ってくるわ……」と言って席を立ち、宿屋から出る。
外の空気は少しホコリっぽく、あまりいい味ではない。それでも、室内にいるよりはマシだとリッチーは思う。宿のそばにある壁にもたれかかり、ボーッとする。
「だりぃなぁ……」
彼のもとへ、宿屋のおかみさんが走ってくる。彼女は息を弾ませながら言う。
「あんた、大変だよ! こないだの事件、犯人が捕まって、これから公開処刑って話だよ!」
メーユイにしろ、イーホウにしろ、これらのことは良くないと思っていたのだ。だから彼女たちは、ずっと以前は、カールを泊めることで用心棒代わりにし、安全を確保していた。
だが彼は屋敷を去った。そう、今のイーホウ邸には、セキュリティ・ガードが一人もいない。そして、こういった情報は、闇の社会にすぐ広まるものなのだ。
ギンとカールが戦った日、深夜、イーホウ邸。ある人間族の男がそこに忍び込んだ。目的は、言うまでもない、泥棒だ。彼は魔法で足音を消し、夜目が利くようにして、それから物色を始める。静かに侵入、静かに仕事、静かに撤退。計画では、これで良かったはずなのだ。計画では。
その夜、メーユイは眠れなかった。カールのことを考えると、あれやこれやの考えが心に浮かんできて、眠気を追い払ったからだ。彼女はベッドの中でため息をつき、身を起こし、ベッドから降りる。そのまま移動、二階にある自室から出て一階を目指す。台所で何か飲んで、気分を紛らわそうと思ったのだ。
一階へ到着。その時、壺か何かが割れるような、大きな音が発生した。彼女は驚く、「何!?」。物音は廊下の奥から聞こえたらしい。何があったのかを確かめるため、彼女は恐る恐る、その場所へ向かって歩き出す。
それは、ある程度の距離を歩いた時だった。彼女は、廊下の奥からやってくる謎の男と遭遇した。思わず悲鳴をあげる。
「キャーッ!」
男の舌打ち、「チッ!」。彼は近くにあった花瓶を手に取り、メーユイへ向かって思いっきり投げつける。花瓶は鋭く宙を飛んでメーユイの頭に当たり、直後、彼女は崩れ落ちる。好機到来、男はその隙に走り去る。
メーユイの頭からはたくさんの血が流れ出ている。顔色が少しずつ青ざめていく。彼女はまったく動かない。呼吸が徐々に弱くなっていく……。
翌日、朝。街の病院。霊安室。そこにはカールとイーホウがいて、二人の前には、寝台の上に横たえられたメーユイの遺体がある。
メーユイは穏やかな顔でそこに寝ている。寝ているが、目を覚ますことはない。救い主による救いの時が来るまで、彼女は眠り続けるだろう。ずっと。ずっと。
イーホウが口を開き、少しずつ、少しずつ、話す。
「僕が、もっと、しっかりするべきだったんだ。今さら、遅いけれど」
沈黙が場を支配する。カールは黙っている。
「君にいてもらう、べき……だったのかも、しれない。いや、君を責めるわけじゃないんだ。そうじゃなくて、君のような強い人を用心棒に雇って……」
カールは黙っている。
「最近、治安が、悪くなってるって、それは……分かって、いたのに」
「……。あぁ……。姉さん……」
イーホウの目から涙が流れる、静かに。カールは黙っている。
それから数日後、宿屋の一階。ギンたちは、隅にあるテーブルの周りに集まり、トランプでセヴン・ブリッジをしている。リッチーが手札からクラブの7と8を出し、テーブルの上に捨てて、言う。
「とりあえず出しとくわ。そいで、もう一枚捨てて、っと。はい、ギン」
ギンの手番。彼はテーブルの山札から一枚を引いて手札に加え、何をすべきか考える。考えながら言う。
「ねぇ、ずーっとこうやって遊んでるけどさ。どうしようか、冒険?」
彼はハートの4、5、6を場に出す。それからスペードの2を捨てる。番はレーヴに移る。彼女は山札から一枚引いて手札に入れ、あれこれ考えるフリをしながら喋る。
「カールさん、メーユイさんのお葬式終わってからずーっとふさぎこんでるしさ。そんな状態の人を冒険に連れてくって、無理だよぉ。まぁ、あたしらだけで行くしかないっしょ」
レーヴはハートの9を捨てる。キャンディスの番、山札から一枚引いて手札に入れて、ぼんやりとそれを見ながら話す。
「この冒険、やめたほうがいいんじゃないんでしょうか。なんだか不吉な感じになってきた、そう思うんですよ……」
彼女は、スペードのK、クラブのK、ダイヤのK、これら三枚を場に出し、それから手札の一枚を捨てて、番をリッチーに回す。
リッチーは山札から一枚引き、引いてきたそのカードをながめながら言う。
「キャンディスの言う通り、今回はやめたほうがいいかもしれねぇなぁ……。さて、どうしようか……」
彼はダイヤの9、10、J、Qを場に出す。それから、手札にあるハートのKを、キャンディスが出した先ほどの三枚にくっつける。最後に、手札から一枚を捨てて宣言。
「はい、上がり。やれやれ……」
レーヴが文句を垂れる。「ちょっとー、上がるの早すぎー!」。リッチー、ダルそうな声で「うるせぇ」と返し、その勢いで「ちょっと外の空気吸ってくるわ……」と言って席を立ち、宿屋から出る。
外の空気は少しホコリっぽく、あまりいい味ではない。それでも、室内にいるよりはマシだとリッチーは思う。宿のそばにある壁にもたれかかり、ボーッとする。
「だりぃなぁ……」
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