迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

文字の大きさ
47 / 55
第2部 闇に死す

第9話-3 盗賊が奪ったもの

しおりを挟む
 イーホウ邸は街の中心部から離れた場所にあって、警備隊の巡回コースからも少し外れており、それゆえに不審人物から狙われやすい。また、以前にも描写された通り、イーホウ邸には値打ちのある物が多く、それだけでも盗賊のターゲットとなる理由としては十分すぎる。
 メーユイにしろ、イーホウにしろ、これらのことは良くないと思っていたのだ。だから彼女たちは、ずっと以前は、カールを泊めることで用心棒代わりにし、安全を確保していた。
 だが彼は屋敷を去った。そう、今のイーホウ邸には、セキュリティ・ガードが一人もいない。そして、こういった情報は、闇の社会にすぐ広まるものなのだ。

 ギンとカールが戦った日、深夜、イーホウ邸。ある人間族の男がそこに忍び込んだ。目的は、言うまでもない、泥棒だ。彼は魔法で足音を消し、夜目が利くようにして、それから物色を始める。静かに侵入、静かに仕事、静かに撤退。計画では、これで良かったはずなのだ。計画では。
 
 その夜、メーユイは眠れなかった。カールのことを考えると、あれやこれやの考えが心に浮かんできて、眠気を追い払ったからだ。彼女はベッドの中でため息をつき、身を起こし、ベッドから降りる。そのまま移動、二階にある自室から出て一階を目指す。台所で何か飲んで、気分を紛らわそうと思ったのだ。

 一階へ到着。その時、壺か何かが割れるような、大きな音が発生した。彼女は驚く、「何!?」。物音は廊下の奥から聞こえたらしい。何があったのかを確かめるため、彼女は恐る恐る、その場所へ向かって歩き出す。
 それは、ある程度の距離を歩いた時だった。彼女は、廊下の奥からやってくる謎の男と遭遇した。思わず悲鳴をあげる。

「キャーッ!」

 男の舌打ち、「チッ!」。彼は近くにあった花瓶を手に取り、メーユイへ向かって思いっきり投げつける。花瓶は鋭く宙を飛んでメーユイの頭に当たり、直後、彼女は崩れ落ちる。好機到来、男はその隙に走り去る。
 メーユイの頭からはたくさんの血が流れ出ている。顔色が少しずつ青ざめていく。彼女はまったく動かない。呼吸が徐々に弱くなっていく……。



 翌日、朝。街の病院。霊安室。そこにはカールとイーホウがいて、二人の前には、寝台の上に横たえられたメーユイの遺体がある。
 メーユイは穏やかな顔でそこに寝ている。寝ているが、目を覚ますことはない。救い主による救いの時が来るまで、彼女は眠り続けるだろう。ずっと。ずっと。
 イーホウが口を開き、少しずつ、少しずつ、話す。

「僕が、もっと、しっかりするべきだったんだ。今さら、遅いけれど」

 沈黙が場を支配する。カールは黙っている。

「君にいてもらう、べき……だったのかも、しれない。いや、君を責めるわけじゃないんだ。そうじゃなくて、君のような強い人を用心棒に雇って……」

 カールは黙っている。

「最近、治安が、悪くなってるって、それは……分かって、いたのに」

「……。あぁ……。姉さん……」

 イーホウの目から涙が流れる、静かに。カールは黙っている。



 それから数日後、宿屋の一階。ギンたちは、隅にあるテーブルの周りに集まり、トランプでセヴン・ブリッジをしている。リッチーが手札からクラブの7と8を出し、テーブルの上に捨てて、言う。

「とりあえず出しとくわ。そいで、もう一枚捨てて、っと。はい、ギン」

 ギンの手番。彼はテーブルの山札から一枚を引いて手札に加え、何をすべきか考える。考えながら言う。

「ねぇ、ずーっとこうやって遊んでるけどさ。どうしようか、冒険?」

 彼はハートの4、5、6を場に出す。それからスペードの2を捨てる。番はレーヴに移る。彼女は山札から一枚引いて手札に入れ、あれこれ考えるフリをしながら喋る。

「カールさん、メーユイさんのお葬式終わってからずーっとふさぎこんでるしさ。そんな状態の人を冒険に連れてくって、無理だよぉ。まぁ、あたしらだけで行くしかないっしょ」

 レーヴはハートの9を捨てる。キャンディスの番、山札から一枚引いて手札に入れて、ぼんやりとそれを見ながら話す。

「この冒険、やめたほうがいいんじゃないんでしょうか。なんだか不吉な感じになってきた、そう思うんですよ……」

 彼女は、スペードのK、クラブのK、ダイヤのK、これら三枚を場に出し、それから手札の一枚を捨てて、番をリッチーに回す。
 リッチーは山札から一枚引き、引いてきたそのカードをながめながら言う。

「キャンディスの言う通り、今回はやめたほうがいいかもしれねぇなぁ……。さて、どうしようか……」

 彼はダイヤの9、10、J、Qを場に出す。それから、手札にあるハートのKを、キャンディスが出した先ほどの三枚にくっつける。最後に、手札から一枚を捨てて宣言。

「はい、上がり。やれやれ……」

 レーヴが文句を垂れる。「ちょっとー、上がるの早すぎー!」。リッチー、ダルそうな声で「うるせぇ」と返し、その勢いで「ちょっと外の空気吸ってくるわ……」と言って席を立ち、宿屋から出る。

 外の空気は少しホコリっぽく、あまりいい味ではない。それでも、室内にいるよりはマシだとリッチーは思う。宿のそばにある壁にもたれかかり、ボーッとする。

「だりぃなぁ……」

 彼のもとへ、宿屋のおかみさんが走ってくる。彼女は息を弾ませながら言う。



「あんた、大変だよ! こないだの事件、犯人が捕まって、これから公開処刑って話だよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...