53 / 55
第2部 闇に死す
第10話-5 愚かな風が吹き荒れる
しおりを挟む
ベストゥスはゆっくりと前へ進み出る。
「どうした? 何もせずに死ぬつもりかの」
馬鹿にしたようなその語調はリッチーを怒らせる。
「黙れ、紫ババァ! てめぇなんぞに負けるかよ!」
彼はレーヴに手を差し出し、クロス・ボウを受け取る。もはや衝突はさけられない、ギンたちは戦闘態勢に入る。カールが指示を出す。
「いったんバラバラになろう。固まっていると危険だ、魔法をくらって全滅する」
ギン。「でも、どうやってバラけるんです?」、「私がおとりになる、その隙に!」。カールは剣を構え、ベストゥスに突進する。
「おおおぉおおぉぉっ!」
「あっは!」
ベストゥスは左手を持ち上げる。一瞬でそこに魔法力を集中させて、ウィンド・ブレイド(wind blade, 風の刃)の魔法を放つ。巨大な風の刃がカールへ襲いかかる。
「なんの!」
彼は気合を入れて全身の魔法力を高め、ウィンド・ブレイドに抵抗する。威力を弱めることに成功し、ダメージを最小限に減らす。しかし、それでもかなりの被害が出る。小手や鎧のそこかしこが砕け、一部に大きな裂傷が発生、皮膚が破けて血が流れる。カールは痛みを感じる、だがひるまない。なおも突き進む。
「意外とやるのぉ、面白い……」
ベストゥスの右手に剣が現れる。細身の刀身、豪華な装飾がほどこされた金の柄。すぐに壊れてしまいそうなそれは、武器というよりも美術品という言葉のほうがふさわしそうな様子をしている。それを見たカールが怒鳴る。
「そんなオモチャで戦おうなど!」
彼は白兵戦の間合いに入る。狙うはベストゥスの首、横からの一撃を振るう。ベストゥスはそれを己の剣で受け止め、弾き返す。何度も斬り込むカール、だが、そのたびに弾かれ受け流され、ことごとく防がれる。彼はいったん少し下がり、間合いを取り直す。
「えぇい……!」
「ほぉ、どうした?」
おかしそうに笑うベストゥス。彼女の左手に魔法力が集まる。カールはそれに気づく、だがもう遅い。ベストゥスは叫ぶ。
「あっは、なます切りィ!」
いくつもの小さな風の刃が乱れ飛び、カールの体を切り刻む。
「がっ、あっ……!」
彼は悲鳴を上げ、よろける。刃物で体を傷つけると鋭い痛みが走るが、今の彼はそういう痛みを二十も三十も受けたのだ。失神してもおかしくない。だが、何とか気力で踏みとどまる。ベストゥスをにらみすえる。
「貴様……!」
「至近距離での魔法を耐えるとはのう。ほめてやるぞ?」
「そいつはどうもっ……」
「どうした? 顔が青くなっておるようだが?」
「ぐっ……」
「その様子ではもう戦えまい? どれ、楽にしてやろう」
大量の魔法力がベストゥスの左手に集まり、魔法の光球が現れる。つまらなさそうな声で彼女は言う。
「終わりじゃ」
巨大な風の刃が三つ発射される。カールの抵抗、痛みと疲れが行動を邪魔する、間に合わない! ろくに威力を減衰できず、まともにくらってしまう。
防具が破壊され、体が切り刻まれる。あちこちにできる深い裂傷、流れ出る大量の血。激痛、意識が急速に遠のき、地面へと倒れる。
ベストゥスは声をかける。
「ほれ、まだ生きているなら返事せい」
「……」
「ふむ、死んだかの? まぁ、仮に死んでいなくても、じきに死ぬじゃろ。この出血では助からん」
これ以上、彼に注意を払う必要はない。ベストゥスはカールから目を離し、右手の剣を魔法で消して、それからあたりの様子を見る。
視界正面、彼女から離れた場所にはギン。視界の左端にはリッチー、彼はクロス・ボウを構えて発射寸前の状態になっている。反対側の右端には、魔法を使おうとしているレーヴとキャンディス。ベストゥスは両手に魔法力を貯め、防御態勢に入る。
「やれやれ、面倒じゃな」
リッチーが矢を放つ。それは鋭く飛んで、ベストゥスの心臓を撃ち抜くコースを進み……。到達寸前、彼女が使ったミサイル・ジャミングのせいで、明後日の方向へ飛び去る。続いてレーヴたちの魔法、レーヴのブレイズ・アローはバリアの魔法に阻まれて消失し、キャンディスの放ったショックは完全に無効化される。
ベストゥスは笑う。
「子ども騙しもいいところだの。さて……」
再度、両手に魔法力を貯める。そして、リッチー、レーヴたち、それぞれに対して左手と右手を向ける。
「愚かな風よ、吹き荒れよ!」
両手のそれぞれから魔法光球が発射される。直径一メートルはあろうかという光球は、一瞬にしてリッチーたちの元に到着、爆裂する。衝撃波が発生し、リッチーたちの体を切り刻んでズタズタにする。彼らは血まみれになり、その場に倒れる。死んではいないものの、ほとんど戦闘不能といっていい重傷を負ったのだ。
雑魚を片づけたことに満足したベストゥスは、倒れているカールのそばを歩いて過ぎ去り、ギンへと近づいていく。彼は剣を構えているが、その手は震えている。戦意を失いかけているのだ。
ベストゥスはもう一度、右手に剣を出現させる。にやにや笑いながらつぶやく。
「最後のあいつはみじん切りにしようかのぉ……」
「どうした? 何もせずに死ぬつもりかの」
馬鹿にしたようなその語調はリッチーを怒らせる。
「黙れ、紫ババァ! てめぇなんぞに負けるかよ!」
彼はレーヴに手を差し出し、クロス・ボウを受け取る。もはや衝突はさけられない、ギンたちは戦闘態勢に入る。カールが指示を出す。
「いったんバラバラになろう。固まっていると危険だ、魔法をくらって全滅する」
ギン。「でも、どうやってバラけるんです?」、「私がおとりになる、その隙に!」。カールは剣を構え、ベストゥスに突進する。
「おおおぉおおぉぉっ!」
「あっは!」
ベストゥスは左手を持ち上げる。一瞬でそこに魔法力を集中させて、ウィンド・ブレイド(wind blade, 風の刃)の魔法を放つ。巨大な風の刃がカールへ襲いかかる。
「なんの!」
彼は気合を入れて全身の魔法力を高め、ウィンド・ブレイドに抵抗する。威力を弱めることに成功し、ダメージを最小限に減らす。しかし、それでもかなりの被害が出る。小手や鎧のそこかしこが砕け、一部に大きな裂傷が発生、皮膚が破けて血が流れる。カールは痛みを感じる、だがひるまない。なおも突き進む。
「意外とやるのぉ、面白い……」
ベストゥスの右手に剣が現れる。細身の刀身、豪華な装飾がほどこされた金の柄。すぐに壊れてしまいそうなそれは、武器というよりも美術品という言葉のほうがふさわしそうな様子をしている。それを見たカールが怒鳴る。
「そんなオモチャで戦おうなど!」
彼は白兵戦の間合いに入る。狙うはベストゥスの首、横からの一撃を振るう。ベストゥスはそれを己の剣で受け止め、弾き返す。何度も斬り込むカール、だが、そのたびに弾かれ受け流され、ことごとく防がれる。彼はいったん少し下がり、間合いを取り直す。
「えぇい……!」
「ほぉ、どうした?」
おかしそうに笑うベストゥス。彼女の左手に魔法力が集まる。カールはそれに気づく、だがもう遅い。ベストゥスは叫ぶ。
「あっは、なます切りィ!」
いくつもの小さな風の刃が乱れ飛び、カールの体を切り刻む。
「がっ、あっ……!」
彼は悲鳴を上げ、よろける。刃物で体を傷つけると鋭い痛みが走るが、今の彼はそういう痛みを二十も三十も受けたのだ。失神してもおかしくない。だが、何とか気力で踏みとどまる。ベストゥスをにらみすえる。
「貴様……!」
「至近距離での魔法を耐えるとはのう。ほめてやるぞ?」
「そいつはどうもっ……」
「どうした? 顔が青くなっておるようだが?」
「ぐっ……」
「その様子ではもう戦えまい? どれ、楽にしてやろう」
大量の魔法力がベストゥスの左手に集まり、魔法の光球が現れる。つまらなさそうな声で彼女は言う。
「終わりじゃ」
巨大な風の刃が三つ発射される。カールの抵抗、痛みと疲れが行動を邪魔する、間に合わない! ろくに威力を減衰できず、まともにくらってしまう。
防具が破壊され、体が切り刻まれる。あちこちにできる深い裂傷、流れ出る大量の血。激痛、意識が急速に遠のき、地面へと倒れる。
ベストゥスは声をかける。
「ほれ、まだ生きているなら返事せい」
「……」
「ふむ、死んだかの? まぁ、仮に死んでいなくても、じきに死ぬじゃろ。この出血では助からん」
これ以上、彼に注意を払う必要はない。ベストゥスはカールから目を離し、右手の剣を魔法で消して、それからあたりの様子を見る。
視界正面、彼女から離れた場所にはギン。視界の左端にはリッチー、彼はクロス・ボウを構えて発射寸前の状態になっている。反対側の右端には、魔法を使おうとしているレーヴとキャンディス。ベストゥスは両手に魔法力を貯め、防御態勢に入る。
「やれやれ、面倒じゃな」
リッチーが矢を放つ。それは鋭く飛んで、ベストゥスの心臓を撃ち抜くコースを進み……。到達寸前、彼女が使ったミサイル・ジャミングのせいで、明後日の方向へ飛び去る。続いてレーヴたちの魔法、レーヴのブレイズ・アローはバリアの魔法に阻まれて消失し、キャンディスの放ったショックは完全に無効化される。
ベストゥスは笑う。
「子ども騙しもいいところだの。さて……」
再度、両手に魔法力を貯める。そして、リッチー、レーヴたち、それぞれに対して左手と右手を向ける。
「愚かな風よ、吹き荒れよ!」
両手のそれぞれから魔法光球が発射される。直径一メートルはあろうかという光球は、一瞬にしてリッチーたちの元に到着、爆裂する。衝撃波が発生し、リッチーたちの体を切り刻んでズタズタにする。彼らは血まみれになり、その場に倒れる。死んではいないものの、ほとんど戦闘不能といっていい重傷を負ったのだ。
雑魚を片づけたことに満足したベストゥスは、倒れているカールのそばを歩いて過ぎ去り、ギンへと近づいていく。彼は剣を構えているが、その手は震えている。戦意を失いかけているのだ。
ベストゥスはもう一度、右手に剣を出現させる。にやにや笑いながらつぶやく。
「最後のあいつはみじん切りにしようかのぉ……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる