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第2部 闇に死す

第10話-4 すべての真相

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 苦戦に次ぐ苦戦。その末に見つかったお宝、赤い宝珠。嬉しそうにレーヴが言う。

「すごい、すごーい! あれ売ったらいくらするかな~?」

 カールの顔も思わずほころぶ。

「さて、見当もつかないな。何十万、いや、ひょっとすると百万を超えるかもしれない……」
「百万! うわぁ~、王様みたいにお金持ち!」

 リッチーが催促する。

「まだ手に入れたわけじゃねえ。難しい罠があるかもしれねぇんだ、安心するのは、きちんと手に入れてからだ」

 彼は宝珠へ向かって歩き出す。それを追って全員が移動する。

「待ってくれ、魔法陣の中に入るのは俺だけだ。みんなで行くと、罠が動いた時に援護する奴がいねぇからな……。レーヴ、こいつの面倒よろしく」

 リッチーはクロス・ボウをレーヴに預け、ゆっくりと歩き、魔法陣内に入る。そのまま進み続けて宝珠がある台座の前に立ち、あたりの様子を確認する。特に異常はなさそうだ。かがみこみ、魔法陣に手を当ててみる。非常に難しい魔法らしく、何のためのものなのか、彼の力では理解できない。
 続いて台座、恐る恐る触ってみる。別におかしなところはない。宝珠に手をかけ、取ろうとする。……まるで接着されているかのように動かない、持ち上げられない。

 彼は台座に円形のくぼみがあることに気付く。腰のバッグから例のメダルを取り出し、そこにはめこんでみる。そして、再度、宝珠に手をかける。思ったよりも重いそれは、あっさり台座から外れて彼の手に収まる。なめらかな表面に目立つような傷は無く、美しい輝きを放っている。「ヤクいぜ……」、落とさないようしっかりとつかみ、仲間たちのところへ戻る。

「ほらよ。お待ちかね、お宝だ」

 全員、リッチーの周りに集まって宝珠を見る。「すごーい!」、「とてもキレイですよね……」、「こんな値打ち物は初めて見るよ」、「苦労した甲斐があったよな、本当」。喜びが一同の胸を満たす。その時。

 ギンたちの背後にある魔法陣が起動する。陣から立ち上る巨大な光の柱、台座が粉々に壊れて吹き飛ぶ。彼らは驚いて振り返る、その視界に、一人の女性の姿が飛びこんでくる。
 その女性は眠そうな声で言う。

 彼女は、西の国の貴婦人たちがよく着ているような形のドレスを着ている。それは紫色で、彼女の青白い肌と上手く調和している。顔は美しく、金色の髪は長く。一言でいうなら、美人だった。だが、どこかがおかしい。人間らしくない。ギンは質問する。

「あの、あなたは……?」
「我は魔女ベストゥス。病の風を吹かせ、人を滅ぼす者なり」

 言い終わり、ベストゥスはクスクスと笑った。



 ベストゥスは語る。

「お前たちも愚かよのう。自分たちのご先祖様が、たくさんの命と引き換えに封印した魔女。それをわざわざ、自らの手で復活させたのだから」

 震え声になりながらギンが言う。

「まさか、この塔は……」
「我を封印するためのものじゃ。まさか、知らなかったのか?」
「……」
「とことん愚かよのう。どうやら、話が伝わっていなかったとみえる」
「お前……!」
「まぁ、無理もない。我が封印されたのは大昔だからの。たくさんの月日が流れれば、言い伝えも本もなくなって当たり前。お前たちのご先祖様は、きちんと資料を残す努力をすべきだった」
「くそっ!」

 ギンは歯噛みする。そんな彼の姿を面白そうに見ながら、ベストゥスはまだ喋る。

「我の封印を解いたということは、あのメダルを完成させたのだろうが、途中でおかしいと思わなかったのか? どんどんメダルの欠片が集まってくることを」
「どういうことだ?」
「元の形に戻るため、欠片たちは集まろうとする。我がそういう呪いをかけておいたからの。お前たちは、自分の意志で欠片を集めてメダルにしたと思っていたのだろうが、それは違う。呪いによって集まったに過ぎぬ。お前たちなど、メダルを運ぶ使い走りをしただけの存在じゃ」
「そんな……」
「愚かという病はたちが悪いのう……あっは!」

 心の底から面白そうに笑うベストゥス。汚らしいニヤニヤ顔をしながら彼女は言う。



「さて、お喋りは終わりじゃ。封印を解いた褒美に殺してやろう」
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