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第1章 下流階級で低収入の俺が本気出したら無双してしまった

第8話 ちょっと一服 Cheap hip boys

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 俺の家から歩いて15分のとこに、シケたジャンク・ジョイント(junk joint)がある。
 どういう所って、居酒屋だよ。そして、俺やダチの集合場所でもある。

 仕事が終わったらすぐに帰宅してゲームってのはいい考えだ。でもたまにはジョイントも悪くねぇ。
 だからその日の俺はジョイントに向かった。



 道路を歩く俺の視界に、千年は使われてんじゃねぇかってくらいボロくて汚い小屋が見える。中に入る。
 経営者のピーターさんが挨拶してくる。

「よう、久しぶり」
「うっす。ごぶさたしてます」

 軽く頭を下げる。
 ピーターさんはいい人だ。もう中年のアフリカンなんだけど、引き締まった筋肉質な体をしてて、若い頃はケンカ無敗だったらしい。

 ほんとにいい人だよ。俺やダチが相談すれば親切にきいてくれるし、場合によっちゃ助けてくれる。
 昔、ダチの一人がマフィアとケンカして大ケガさせたことがあってさ。その時だってピーターさんが何とかしてくれた。

 もちろんタダで助けてもらえるわけじゃなくて、荷物の配達を頼まれたりとか見返りの要求はあるんだけど、その程度なら安いもんだよな。とにかくいい人だよ。
 ピーターさんはコップを磨きながら喋る。

「景気はどうだ、馬場の兄ちゃん?」
「相変わらずです。ひどい金欠。どっかに儲け話でもあればいいんですが……。なんか教えてもらえませんか」
「バカ野郎、そういうのは自分で見つけ出すもんだ。他人が持ってくる儲け話なんて、十中八九はロクでもない」
「はは……確かに」

 俺は店の奥にあるテーブルに目をやる。知った顔の男が一杯やっているのが分かる。近づいて話しかける。

「おっす、マサキング」

 嫌そうな声の返事が響く。

「ここはプラネットじゃなくて現実、だから今の俺はマサキングじゃない。マサルだ。ちゃんと使い分けてくれ」
「どっちも同じだろ」
「違うね。マサキングはマサキング、マサルはマサル。別物だ」
「アーティストみてぇな難しいこと言ってんじゃねぇよ」
「いいから座れ。立ち話は疲れるだろ」

 どっこいしょと椅子に座り、話を続ける。

「それでだな、マサル。ちょっと聞きたいんだが。昨日みせてもらったスカージだけどよ、あれって結構するわけだろ。そんな金、どこでゲットした?」
「借金だよ。クレジット・カードでの課金」
「お前また使ったの?」
「いいだろ別に。俺の金だ。それに、毎月ちゃんと返済してる」
「金の使いすぎと酒の飲みすぎは体に毒だぞ」
「適切なレベルならむしろ健康的だね」
「よく言うよ、まったく……」

 ぼやき、近くの給仕用ロボットに声をかける。オンボロの男性型だ。可愛い女の子なんて、たとえロボットだろうとジョイントにはいねぇ。

「おい! こいつが飲んでるのと同じのを一杯!」
「かしこまりました」

 旧式のロボットにありがちな堅苦しい返事の後、そいつはピーターさんのところへ歩いていく。その後ろ姿を見ながら俺は言う。

「あの、さ。ラファールって、やっぱもう旧式かな?」
「気にしてんのか?」
「まぁ……」
「お前も新しいの買えばいいだろ」
「金がねぇ」
「カードで払え」
「借金は嫌だ。現金決済にしたいんだよ」
「デカい儲け話がありゃ、俺だってそうするぜ。でもそんなアテないだろ」
「まぁな」

 ロボットが酒を持ってくる。

「お待たせいたしました」
「おう」

 ひとくち飲む。マサルが聞いてくる。

「どう?」
「まずい」
「でも安い」
「あぁ。安いことはいいことだ」
「そしてゲームの新作アイテムは高い」
「クソくらえだ……」

 金さえあれば。金さえあれば何でも買えるんだ。金さえあれば……。
 スカージの青白い光が脳内にちらつく。カッコいい。どうしても欲しくなる。なんとかしなくっちゃ。なんとしてでも金を手に入れなくちゃ!
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