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第1章 下流階級で低収入の俺が本気出したら無双してしまった

第9話 何も怖いものなどない Reckless

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 その日はかなり遅い時間に帰宅した。
 玄関を開けて明かりをつけ、壁についてるスマート・スピーカーに話しかける。

「ただいま。明日の夜はコンビニ弁当にするから、予約してくれ」
「何になさいますか?」
「牛丼ひとつ。大盛りで」
「かしこまりました。他になにか注文なさいますか?」
「いや、結構。それじゃよろしく」
「はい」
「あと風呂わかしといて。今すぐに」
「かしこまりました」

 会話を終え、部屋のカウチに腰を下ろす。やれやれ、今日も疲れた……。ホント、転職したいぜ。
 にしても便利だよな、スマート・スピーカーって。こいつに話せばたいていの雑事をやってくれる。発明者は天才だ。

 さて、風呂がわくまでボーッとしよう。気がゆるむ……心に大量の札束のイメージが思い浮かぶ。
 金か。金だよな。金があればこういうキツい生活からおさらばできる。ゲームだっていくらでも課金できる。なんとしてでもガッポリ稼ぎたいもんだ。

 ピピピッ! 電子音が響き、スピーカーが告げる。

「お風呂がわきました」

 俺は「おう」と返事して立ち上がり、風呂場へ向かう。
 やれやれ、こうも毎日疲れてちゃ、儲け話なんて思いつくわけねぇよ。生きてくだけで精いっぱいだ。

 時々こう感じるね。労働のせいで誰かに人生を横取りされ、時間を吸い取られてるみたいだって。



 数日後、プラネットで冒険してるときに嫌な事件が起きた。ぶっちゃけ話したくないんだが、しかし、お前には言うべきだろうな。だから話すよ。
 その時の俺は、マサル……いや、今はマサキングと呼んでおこう。とにかく、マサキングとアンズさん、そして俺の三人で冒険してた。

 ところで、PKって知ってるか? 違う、サッカーの話じゃねぇ。ゲーム内において他のプレイヤーを殺すこと、それがPK(player killing)だ。
 レヴェリー・プラネットでは、運営によってPKが禁止されている。街中であれダンジョンであれ、プレイヤー間での殺し合いはできない。

 だが、PK好きな人たちのために、例外的にPKが可能なダンジョンがいくつか用意されてもいる。
 そしてそういうダンジョンは、PK禁止ダンジョンに比べておいしいんだ。モンスターの経験値が多かったり、レア・アイテムのドロップ率が高かったり。

 こういうことを承知してもらった上で話を進めるが、お察しの通りさ。その日の俺たちは可能ダンジョンに行ったんだ。
 行こうって言ったのはアンズさんだよ。でも彼女が悪いんじゃない、だって俺もマサキングも最初から乗り気だったからな。

 俺たちに悪かった点があるとすれば、PKされるリスクを過小評価したことだろう。でも言い訳させてくれ、パワー的には何の問題もなかったはずなんだ。
 パワーってのは、プレイヤーの強さを数字で表現したものだ。あくまで大雑把な数値に過ぎないが、簡単な目安としては役に立つ。

 記憶が正しければ、出撃した時点での俺たちのパワーは平均1億5000万。
 そして、攻略目標としたダンジョン、真紅の森は、通常は1億2000万のプレイヤーが狩場にする所だ。

 1億2000万ばっかのところに1億5000万の三人組が出かけるんだから、普通に考えれば安心だわな。
 もちろん2億や3億とケンカしたら勝てないさ。でも、そんだけ強い連中は、もっと稼げるダンジョンに行くのが普通だ。遭遇するわけない。

 魔王を倒せるほど強い勇者は、序盤のダンジョンでオークを狩るなんて非効率的なことはしないってこと。
 だから俺たちは、「まず襲われない」という慢心を抱え、出撃しちまったんだ。
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