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第2章 2084年

第38話 もしもの時はよろしく頼むよ No one can save you

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 ベアたちはカタラ荒野を訪れている。西部劇に出てくるような砂漠じみた場所で、どこも黄土色に染まっている。
 人工物として存在しているのは道路のみ。それ以外にあるのは、大きな岩石や枯れた木、植物の茂みだ。

 ここはPK可能なダンジョンで、それゆえにおいしいモンスターが出現する。しかし具体的にはどんなモンスターなのか?
 ポールはその答えを知っているらしい。彼は話す。

「今日はゴースト・キラー見つかりますかねぇ?」

 アイテム・ボックスを漁っている最中のタイガーが答える。

「運が良ければな。簡単には出会えないから、あいつはレア・モンスターなんだろ」
「そりゃそうですけど、俺たち、一度は遭遇したわけです。またそういうラッキーが発生するかも……」
「仮に遭遇できたとして、そもそも勝てるのか? 前回みたいに返り討ちって可能性もある」
「あん時はステルス奇襲されたから負けただけです。あれさえ封じれば楽勝だ」
「分かってる。だからこいつが必要なんだろ」

 空中に小さな青い四角錐が出現し、風船のように浮かぶ。
 満足そうにそれを見てタイガーは言う。

「これぞ、課金版のモバイル・ジャマー! へへ……」

 モバイル・ジャマー。これは短縮された名前で、正しくはモバイル・ステルス・ジャマーという。
 一定時間、ステルスを妨害する電波を発生するアイテムだ。ステルス奇襲を防ぐのに威力を発揮する。

 ただし乾電池のように使い捨てだから、むやみな乱用はできない。
 そしてジャマーは、低級品なら無課金でも手に入るが、高級品は課金限定となっている。

 今回タイガーはそういう貴重なものを使ったのだ。ポールが恩を感じるのは当たり前といえる。

「提供ありがとうございます」
「気にすんな、大したことじゃねぇ。とにかく起動するぞ……」

 ジャマーがホタルのような淡く美しい光を放ち始める。ベアがタイガーにたずねる。

「これって効き目は何分?」
「120分。すなわち2時間」
「マジ?」
「そりゃ課金限定アイテムだからな。低級品よりずっと長持ちよ」
「なるほどね……」
「前回、ここに来た時は、ケチって30分の安物を使った。そのせいですぐ効果が切れて、直後、キラーに奇襲された。
 その過ちを繰り返さないための、この高級ジャマーよ!」

 過ち。そう聞いたベアの不安が高まる。

「タイガー、本当にこれで大丈夫か? これ、人間のステルスも妨害できるのか?」
「相手のステルス・スキルがしょぼけりゃ可能だ」
「しょぼくなかったら?」
「ステルスされるな」
「……」
「そんなビビるなって。PK野郎はこんなとこ来ねぇよ、だって待ち伏せに使える障害物が少ないからな」
「でも……」
「いざとなったら俺が守る! 心配すんな!」
「もしもの時はよろしく頼むよ、マジ」
「おう!」

 こうして喋っている間にもジャマーの有効時間は過ぎていく。三人はきりのいいところで話を終わりにして、本格的にモンスター探しを始める。
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