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第7章 革命前夜

第117話 邪推 Everything is in suspicion

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《パトリシアの視点》
 私が思うに、アップルはレッド・マスクが嫌いだろう。あのよそよそしい様子を見ているとそう感じる。
 まぁ、かく言うわたしも嫌いなのだが。だって、このゴマすり野郎は疑わしい。

 たとえば、マスクは3億のパワーを持っている。それだけ強ければもっと上位のクランに移籍できるだろうに、なぜしないのか? 未だにエクレールにいるのか?
 おかしなところは他にもある。なぜこいつは事あるごとに他者へ課金を勧めるのか? また、引退しそうな人が出ると熱心に引き留めるのか?

 マスクの言動を観察していると、ネットに飛び交う”ある噂”をどうしても考えてしまう。その真偽を本人に聞いてみるのは面白そうだ。

「ねぇ、レッド・マスク。ちょっと質問があるんだけど」
「はいはい?」
「ネットでこんな噂を耳にしたことない? ”プラネットには、運営のスパイとして活動するワンダラーが存在する”……」
「……アハハ! そんなの馬鹿な陰謀論、精神病の妄想症状っすよ」
「ふぅん?」
「俺、こんな話を知ってるっすよ。シェイクスピアの『テンペスト』だったかなぁ、登場人物がいうんですよ。

(引用)”なにか理由があるから嫉(や)くのではない、嫉かずにいられないから嫉くだけのこと”

 つまり、嫉妬するとか疑うとか、そういう行動をするのは、合理的な理由によるものじゃないんです。
 そうじゃなく、ただ単に疑り深い性格だから何でもかんでも疑う。そういうわけでして」
「それ、『テンペスト』じゃなくて、『オセロー』のエミリアの台詞でしょ」
「あー、そういやそうだ! 間違えちまった(笑)! パトリシアさん詳しいっすねぇ、シェイクスピアが好きなんすか?」
「別に。あと、わたしのことはパティでいいって、前に言わなかった?」
「はは……」
「みんなわたしをパティと呼ぶし、あなたもそれでいいから」
「了解っす。ところで、話題変わりますけど、そろそろハンドがいる場所ですよ。作戦を考えましょう」

 ちっ……はぐらかしたか。
 もっと追求したいところだが、またごまかされてもつまらない。ここはひとまず諦めよう。


《赤羽/レッド・マスクの視点》
 うはー、やべぇやべぇ。俺の正体、すなわち、エージェントの赤羽であることがバレる寸前だったわ。
 以前のパティはすっかり俺を信じてたんだけどな~。”あの抗争”が終わったあたりから、じわじわ疑いを強めてる。困ったねぇ。

 そりゃ、元はといえば俺が悪いさ。課金煽りだなんだと、目立つ動きをしすぎた。今後はおとなしくした方がいいかもしれん。
 面倒くさいねぇ……うん? エージェント専用の秘密メール? 差出人は……白木か。

(赤羽さん、レーヴェのことで報告したいことがあるんで、後でお時間お願いします)

 ふぅん。いいんじゃね、ちょうど俺からも連絡とりたかったし。この冒険が終わったらリアルで会うか。
 そうと決まればさっさとハンドを倒しちまおう、どんな手を使ってもな。治さんへの秘密チャット回線を開いて、っと……。

(リーダー、ちょっとお時間いいですか)
(なんだい急に……)
(あのですね、いまスエナたちと冒険してんですよ。で、ハンドを倒す予定なんすが、ちょっと治さんにも手伝って欲しくて)
(つまり?)
(率直に言えば、ハンドを弱くして欲しいっす)

 わはは! これぞまさしく公式チート! 俺の強さがこんなインチキによるものだなんて、スエナたちは夢にも思うまい。

(……わかった、すぐ作業する。でも少し時間がかかるぞ)
(そのへんは俺がなんとかします)
(了解。終わったら連絡するから、それまで頼む)
(ラジャー!)

 時間を稼ぐなんぞお茶の子さいさいよ。ちょうどいい会話のネタがあるわけだからな。俺は口を開く。

「さて、スエナさん。ハンド攻略作戦、なんかアイデアあります?」





引用元
『オセロー』、新潮文庫
著者:シェイクスピア、訳者:福田恆存
出版:新潮社、二十二刷
ページ:113
第3幕、第4場の10
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