VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第8章 マフィア・ラプソディ

第129話 情報を知る者は無知なる者を支配する Ergo they COLLECT IT ALL

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 組織が保有するビルの上層階にジェーンの部屋がある。もちろん住居ではない、たとえて言うなら執務室だ。彼女は普段ここで仕事を行う。
 縦に長いこの部屋の奥にはオフィス用の戸棚とパソコンの載った机があり、それらとドアとの中間地点にはソファ2脚と円形の机1つがある。

 ソファは机を囲んでくの字の形になるように置かれていて、下側に置かれたソファにはウーファンが、上側の1つにはジェーンが座っている。
 ジェーンは机に置かれたカップを手にして紅茶を少し飲み、言う。

「その取引、オーケーしましょう」
「姐さん……本気ですか?」
「だってリスクに見合うだけの価値がありますからね。むしろ問題は、取引に必要なデータです」
「いやぁ~どうします? えらいたっぷり要求されてますけど……」
「私はそろそろ例の定期回収があります。それでかき集めます」
「定期回収って、警備会社の?」
「えぇ。七寺英太は優秀な情報源です、今まで通りに会社のデータを盗んで売ってくれるでしょう」
「でもそれで足りるんですか?」
「あぁいった密売人は他にもたくさん確保してあります。心配いりません」
「姐さんもうまいこと考えましたよねぇ。金に困ってる会社員をそそのかしてデータを盗ませ、あたしたちが買い取る。
 もし警察に見つかってもその会社員が逮捕されるだけで、後は組織が口封じして終わり。あたしらはノー・ダメージ」
「ウーファンのようにセサミで情報を盗むのが一番スマートなんでしょうが、私はそんなスキルありませんから……。だからこういう買収作戦をするわけです」
「でもそーゆう古典的なやり方は結構いいものですよ。何といってもリスクが低い!
 セサミは下手すりゃ死にますしねー、それに、ネットに繋がってないパソコンのデータなんてまずパロできない」
「どんなネットワークにも繋がったことのない情報機器を”エア・ギャップ”と呼ぶのでしたっけ? 確かにそれなら簡単には手出しできませんね」
「だからこそ、ハードウェアよりもそいつを取り扱う人間を攻略するのがいい解決策なわけです!」

 どんなにIT技術が発展してもそれを使うのは人間だ。そして人間は技術と違ってなかなか進歩しない、だからいつの時代でもあらゆるトラブルの元となる。
 人類がまったく新しい種族に進化してすべてが変わるようなことでもない限り、孫氏兵法の「人の心を攻めることが上策」という主張は滅びないだろう。

 今回の盗難事件だって同じこと。犯人が人間である以上、必ずどこかで油断や慢心、虚栄心によるボロを出している。
 もしかすると誰かに犯行を目撃されたかもしれない。それに、パロった金を派手に使えば、家族や友達といった付き合いのある人たちに噂されるはずだ。

 ピーターはこの手の話を素早く嗅ぎつける能力を持っている。そろそろ何かの情報をつかんでいてもおかしくない。
 この会話が終わったらいったん彼のジャンク・ジョイントに行こう、ジェーンはそう思ってまた紅茶を飲み、カップを置く。



 内密の話をしたい時は人払いをしておくに限る。だからジェーンはジョイントに行く前に連絡して、準備中の札を出すように頼んだ。
 おかげで今のジョイント内にはジェーンとピーターしかいない。彼女は以前に来た時と同じようにカウンター席に座り、コップの密造酒をちびちびやっている。

 彼女は皿を磨いているピーターに話しかける。

「あれからどう、進展は?」
「臭せぇのが何人か見つかった。いつも「金がない」ってわめいてる連中さ」
「なるほど……」
「今は探りを入れてる。最近どう暮らしてるとか、仕事はうまくいってるかとか、そんな感じでな」
「成果は上がりそう?」
「さて、な……。もうちょい詳しくやらねぇと、何とも言えん」
「頑張ってよ」
「別に予防線を張るわけじゃねぇが、そもそも犯人はうちの客じゃないって可能性もあるからな? 俺ばかりアテにしてもしょうがねぇぞ」
「もちろん私だっていろんな方面を調べてます」
「ならいいけどな……」

 店内に流れている曲が終わり、次へと切り替わる。ジェーンは耳を傾ける、なんとも形容しがたいデジタルな音楽だ。

「ねぇ、これ何てチューン?」
「核P-MODELの "Big Brother" だ」
「結構いい感じね」
「だがおっかない歌詞だぜ? だって監視社会が題材なんだからな。今の日本そのまんま!」
「ふふ……(力なく笑う)」
「うんざりするほど大量の防犯カメラ! 盗聴マイク! 空にはドローン! スマホには緊急警報アプリ、くそったれ、正体はスパイウェアだろうが!
 企業は企業で、客の住所だろうが電話番号だろうが情報局に教えるしよ。馬鹿どもがあぁして監視を手伝う限り、いつまでもこんな息苦しい社会だ」
「でも批難できる権利なんて私たちにはないでしょ? アウトローの私たちですら、局にいろんなデータを渡しているんだから」
「ふん……」
「実はね、こないだあのブリキ野郎がウーファンにメールしてきてね。前から思ってるんだけど、あいつ情報局のメンバーでしょ。
 ウーファンがいくら調べても正体つかめないなんて、そんなことできる組織はあそこしか思い浮かばない」
「証拠や根拠はあるのか?」
「なんにも。でも、じゃあ聞くけど、いったいどこの誰だったらあれだけの技術を使えるの? わざわざヤバいネタをマフィアから買おうとするの?」
「みなまで喋るな……俺だって分かってる。実際お前の推測は正しいだろう、局しか考えられねぇ」
「どうしても欲しいけど何らかの理由で手に入れられないデータ、奴らはそれを私たちに盗ませて買い取る。
 ふん……。むこうは楽なもんだわ、だって取引に出すデータは合法的にいくらでも入手できるんだから。極限のロー・リスク!
 それに比べてこっちは何? 逮捕覚悟でかき集めたり、命がけのパロやったり、とことんハイ・リスクを強いられる」
「けど、ブリキ野郎がよこすインテル無しじゃあ俺たちここまでやってこられなかった。悔しくても奴の手のひらで踊るしかねぇだろ?」
「まぁね……」
「こうして俺たちも取引を通じて局に手を貸してるわけだ。さぁ集めるべし汝すべての情報を、支配せよ愚かなる民草たち!」

 曲の躁的な盛り上がりがむしろジェーンを鬱的にする。少しでも愉快になりたくて彼女は酒を飲む、お世辞にも美味いとは言えない液体が胃へ滑り落ちていく。
 つぶやく。「くだらない……」。ピーターは何も答えない。曲が終わっていく。
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