VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第8章 マフィア・ラプソディ

第130話 小さなお母さんは皆さんを心配しています Watching you

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 オレンジ色のインターネット空間にウーファンが浮かんでいる。かたわらにいるのは前回と同じフェアリーだ、彼女は不安そうにたずねる。

「大将……ホントにやるんですか?」
「当ったり前でしょ~! ほら、準備準備!」
「わかりましたぁ」

 彼女たちの周囲にいくつものウィンドウが出現する。ウーファンはいちばん大きなサイズのそれを目の前に呼び出し、言う。

「よーし……作戦開始!」

 あたりの風景が変化する。オレンジ色がネイビーへと切り替わり、二人の前に巨大な白い円が出現する。まるで銀行の金庫室の扉のようだ。
 それもそのはず、これはアメリカのある大手自動車会社のサーバーに繋がるゲートなのだ。侵入者を威圧するためにこのような仰々しい造りになっている。

 彼女たちはここをセサミするつもりで訪れた。なぜなら、ブリキ野郎との取引のためにはどうしてもこのサーバー内のデータが必要だから。
 そんなに難しい仕事ではない。パロするデータは機密性が比較的低いもので、充分に注意していればまず問題なく持ち出せる。

 後はくだらない悪運に襲われないことを祈るだけだ。ウーファンは真面目な顔つきになってフェアリーに命令する。

「身代わり展開!」
「あい!」

 水晶に似た物体が宙に5本登場し、ウーファンを取り囲む。セキュリティ・ソフトから攻撃された時は彼女に代わってこれらがダメージを受ける。
 こうして安全を確保したのちにセサミを開始する。ゲートに意識をつないで話しかける。

「入室許可をよろしく」

 ゲートは中年男性の声でこたえる。

「パスワードを入力してください」

 新しいウィンドウが表示される。フェアリーが近寄り、右手に持っているスライムのような灰色の物体、すなわちコンピューター・ウィルスを貼りつける。
 ウィルスはアイスのようにドロドロと溶けて消滅し、ゲートの中に侵入してその機能を破壊していく。数秒が経過……ゲートが告げる。

「パスワードを確認しました。それではご入室くださいませ」

 ゲート中央に緑色のモヤが浮かぶ。ここに身を投じるとサーバー内に転送され、持ち出しが許可されたデータを好きなだけパロできるというわけだ。
 ウーファンは静かに言う。「いこう……」。フェアリーは無言でうなずく。二人はモヤへと進んでいく。



 翌日の夜。ピーターのジャンク・ジョイントからジェーンが出てくる。彼女はジョイントから少し離れたところに停車中の赤いアルファ・ロメオまで歩いていく。
 後部ドアを開ける。運転席の後ろのシートに静かに座る。運転席のウーファンが話しかけてくる。

「姐さん、どうでした?」
「ピーターの言い分を信じるなら、3人の不良が怪しいでしょうね。馬場英知、加瀬マサル、鈴川亮太。彼らのデータをもらいましたから、後で見ておきます」
「犯人の可能性はどれくらいですかねぇ」
「十中八九そうでしょう」
「じゃあ早速ガラを取りにいって……」
「まぁ待ちなさい。いくら私たちがマフィアといっても、証拠もなく捕まえるわけにはいかない。もし人違いならメンツが丸つぶれです」
「あはは、確かに」
「ブリキ野郎との取引は明日なんでしょう? 彼がくれるデータを調べてから結論を出しても遅くない。もう少し様子を見ましょう」
「了解!」
「じゃ、出して。安全運転でね」

 ウーファンは「かしこまりぃ!」と元気に答え、車を夜の闇へと走らせていく。



 ある防弾サーバー内に1つの密会用の部屋が設けられている。それは窓のない監房に似ていて、どこも白く塗られ、壁はタイル貼りだ。内装は何もない。
 明かりが全てを照らしているせいで、どこにも闇が存在しない。なんとなく手術室を連想させる。

 部屋の中央付近に緑のモヤが出現する。そこからウーファンとフェアリーが姿を現す。彼女たちは視線を正面へ向ける、そこに立っているブリキ野郎を見るために。
 いつこいつを見てもウーファンは(まるで安物のおもちゃ)と思う。なるほど、『オズの魔法使い』のブリキ人形みたいと言えば聞こえはいい。

 だがその顔は〇や―といった記号を組み合わせただけのお粗末な造りだ。小学生の落書きといい勝負だろう。
 身体も極端にデフォルメされている。もし誰かがその気になれば、いくつかの空き缶を使って簡単に類似品を作り出せるに違いない。

 どうしてブリキ野郎の操作主は、こんなたわけたアバターを使っているんだろう? そんな疑問を心に隠し、ウーファンは挨拶する。

「こんちは、ブリキさん」
「コニチワ、ウーファンサン。ソルデハ、トリヒキオー、シマショオ」
「やり方はいつものでOK?」
「イエス」

 ブリキ野郎の言葉を受け、フェアリーがデータ転送を始める。ブリキ野郎の目の前にバスケット・ボールほどの大きさの青いモヤが現れる。
 それは転送が進むにつれて徐々に実体化していき、ついにボールそのものになる。ブリキ野郎は左手を伸ばしてボールに触り、数秒で中を確認し、言う。

「ナカミワ、モンダイアルマセン」
「じゃあ次はこっちのをよろしく」
「ラジャー」

 ウーファンの前に似たような青いモヤが現れる。今度は殆ど一瞬で実体化してボールになる、ブリキ野郎の転送力がそれだけ速いことの証だ。
 彼女は慎重に触り、まずウイルス・チェックを行う。検査中……問題ない。じゃあ次は中身の確認だ、パスワードを入力する画面が表示され、打ちこむ。

(LittleMotherIsWorriedAboutYou)

 小さなお母さんは皆さんを心配しています。リトル・マザーすなわち国民安全保障特別委員会が使うフレーズだ。彼女のことを宣伝する広告ポスターによく登場する。
 こんなものをパスワードに使うこと自体がブリキ野郎の正体を示唆している。やはり何らかの形でLMや情報局と繋がりがあるということなのだ。

 ウーファンは(クソ野郎!)と思う。それってつまり、「LMはこんなことすらもお見通し」ってプレッシャーを暗黙のうちに語ってるのと同じじゃないか!
 いや待て、落ち着け。とにかく受領したデータの確認だ。ざっと目を通す……信頼できそうなブツのようだ。

「ウーファンサン。カクニンワ、オワルマスタカ?」
「うん、大丈夫」
「カスコマルマスタ。デワ、トリヒキセイリツデス。マタヨルシク、オネガイスマス」

 言い終わってすぐにブリキ野郎の姿が消失する。ログ・アウトしたのだ。こちらもそうしたほうがいいだろう、ウーファンとフェアリーも同様にいなくなる。
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