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第9章 この社会を革命するために 前編
第141話 正当防衛への返礼 Who do they think they are
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気の抜けた冴えない1日を終え、ベッドに横たわる。目をつむるとそこは暗黒だ。闇が広がっている。
眠気が少しずつ忍び寄ってくる。思考力がマヒしていき、意識が夢の世界へ消えていく。
さて。”夢のような架空の世界”は、人を苦しみから救うだけの力を真に有するのだろうか。
気づくとプラネットの中だった。まぁ寝る前からそんな予感がしていたよ、つまり、眠れば前回の悪夢の続きを見るハメになるだろうってことだ。
ここはエクレールがアジトにしている建物の一室らしい。簡単にいえば小さな会議室だ。狭い部屋に1台の円卓と数脚の椅子が置いてある。
着席状態の俺は、ここに誰がいるかを確認する。正面の席にはパティとクラン・リーダーのリュミエール・ドレの二人だ。彼らの左右にはテル、ガーベラ、ほか2人。
リュミエール・ドレについての説明が必要だろう。若い白人男性のアバターを使っているワンダラーで、エクレールを設立した張本人、クランの中心的存在だ。
名前はフランス語で「黄金の光」という意味らしい。彼の長い金髪を見ていると、なるほど確かにそうだと感じる。
俺がエクレールに入ったのはこの名前が理由だ。純銀(ソリッド・シルバー)と黄金の光の組み合わせならサマになると考えたのだ。
実際、俺と彼は長いことうまく付き合ってきたと思う。戦いにおいてはもちろん、クランの運営に関しても助け合ってきた。
彼がなにか大事な相談をしたい時、彼はしばしば俺を話し相手に選んだし、重要な会議を開く時は常に俺を呼んだ。
くだらない自慢話になってしまうのを承知で言えば、俺は特別な信頼を得ていたわけだ。そんな俺が今ここで会議に参加している。
それだけの重大事件が発生しているわけだ。まぁいったい何なのかはだいたい想像がつくが、それでもまずはドレの話を聞こう。
「みんな、忙しいところを集まってくれてありがとう。では単刀直入に始めるが、今回の議題はヘル・レイザーズについてだ」
やっぱりこれか。俺は挙手して発言する。
「言わんでもわかるよ。ゴーエンたちに嫌がらせされてんだろう?
奴らとしちゃ、派手に返り討ちにされて恥をかかされたわけだからな。黙って引き下がるわけないんだ」
「……当事者に説明してもらおう。テル、頼む」
名指しされたテルは実にシケたツラで言った。
「この前、ソロで冒険していたら、突然ものすごい数のモンスターが襲ってきて……。逃げる間もなく即死しました。MPKされたわけです。
で、死体になって呆然としていたら、ゴーエンたちがやって来て言いましたよ。
”ザコの分際で俺たちを殺した罰だ! 思い知れ!”
他にもこんなことを言ってました。”お前や仲間が謝るまで徹底的に攻撃してやる、覚えとけ!”」
なぁるほど……。俺はテルと同じようなシケ面になり、ぼやく。
「つまり逆ギレ、逆恨みだろ?」
「えぇ」
「他に被害にあった奴はいるのか?」
ガーベラが手を挙げる。
「あたしはメール爆撃されてるよ」
「爆撃?」
「迷惑メールが毎日毎日たッくさん届くんだ。いま実体化してやるよ、そしたらどれだけひどいか速攻でわかるから……」
彼女は指を軽く鳴らす。円卓の中央に数えきれないほどの封筒が現れ、自動的に開封され、中の便箋が飛び出していく。
ドレは手近な便箋を取り寄せ、読み、呆れ顔で言った。
「なんだこれは……。”暑い”とか”眠い”とか、くだらないことしか書かれてないぞ!」
「そりゃそうだ。嫌がらせ目的のメールなんだから、内容なんてどうでもいい。このゲームは空メールができないから適当に書いておく、それだけのことでね。
おかげであたしはロクにメールできないよ。受け取り箱がいつもパンパンだから、友達のメールが届かない!」
「ひどい……」
俺もドレに同感だ。ひどい、本当にひどい。いくら頭にきたからって普通ここまでやるか? てめぇら何様のつもりだ!
自分から仕掛けたPKなんだから、逆に殺されたとしても自己責任、悪いのはお前ら自身だろうが。なのにこっちのせいにして当たり散らす。
結局ゴーエンたちは幼児だ。物事が思い通りにいかないと狂ったように怒るお子様なんだ。そうでなきゃ、この世のすべてを支配したと勘違いしてる王様だな。
クソッタレ……。俺がそうして憤慨する中、パティがややイラついた口調で言った。
「嘆きたい気持ちはわかりますが、えぇ、実際わたしも嘆きたいんですが、しかしまずは彼らへの対策を考えないとなりません。ですから……」
テルの横にいる女性が手を挙げる。
「今、”わたしも嘆きたい”って言いましたけど、パトリシアさんも嫌がらせされてるんですか?」
「正直にいえばその通り。テルと同じくMPKされたし、ガーベラと同じくメール爆撃されてる。それどころか、ただ街を歩いてるだけで災難が襲ってくる。
このあいだ、リベルタドの広場を歩いてたら、偶然ゴーエンと出くわしてね。あいつ、あたりにあれだけ人がいるのに怒鳴り散らして……。
”絶対お前を許さねぇ、いつかぶっ殺してやる!”、そんなことを叫んでました。そういえばドレ、一つ思い出したんだけどね……」
「なんだ?」
「ゴーエンたちはどんどん過激になってきて、このクランそのものを攻撃目標にしてるらしいのよ。既に被害が出てる。
ここ数日、いろんな人から相談されたけど、あいつらうちのメンバーを見つけるとすぐに近寄って罵倒して、ログ・アウトするまでストーキングして……」
「(無理にさえぎり、)わかった、パティ、よくわかった! だから頼む、もうやめてくれ。これ以上は耐えられない!」
俺だって耐えられんさ。不愉快だ! ゲームというのは楽しむためにするものなのに、どうして逆に嫌な思いをしなくちゃならん?
なぜこのゲームをしていると、しばしば憎しみの渦に巻きこまれるのだろう。まるで誰かがそれを望んでいるかのようだ。
眠気が少しずつ忍び寄ってくる。思考力がマヒしていき、意識が夢の世界へ消えていく。
さて。”夢のような架空の世界”は、人を苦しみから救うだけの力を真に有するのだろうか。
気づくとプラネットの中だった。まぁ寝る前からそんな予感がしていたよ、つまり、眠れば前回の悪夢の続きを見るハメになるだろうってことだ。
ここはエクレールがアジトにしている建物の一室らしい。簡単にいえば小さな会議室だ。狭い部屋に1台の円卓と数脚の椅子が置いてある。
着席状態の俺は、ここに誰がいるかを確認する。正面の席にはパティとクラン・リーダーのリュミエール・ドレの二人だ。彼らの左右にはテル、ガーベラ、ほか2人。
リュミエール・ドレについての説明が必要だろう。若い白人男性のアバターを使っているワンダラーで、エクレールを設立した張本人、クランの中心的存在だ。
名前はフランス語で「黄金の光」という意味らしい。彼の長い金髪を見ていると、なるほど確かにそうだと感じる。
俺がエクレールに入ったのはこの名前が理由だ。純銀(ソリッド・シルバー)と黄金の光の組み合わせならサマになると考えたのだ。
実際、俺と彼は長いことうまく付き合ってきたと思う。戦いにおいてはもちろん、クランの運営に関しても助け合ってきた。
彼がなにか大事な相談をしたい時、彼はしばしば俺を話し相手に選んだし、重要な会議を開く時は常に俺を呼んだ。
くだらない自慢話になってしまうのを承知で言えば、俺は特別な信頼を得ていたわけだ。そんな俺が今ここで会議に参加している。
それだけの重大事件が発生しているわけだ。まぁいったい何なのかはだいたい想像がつくが、それでもまずはドレの話を聞こう。
「みんな、忙しいところを集まってくれてありがとう。では単刀直入に始めるが、今回の議題はヘル・レイザーズについてだ」
やっぱりこれか。俺は挙手して発言する。
「言わんでもわかるよ。ゴーエンたちに嫌がらせされてんだろう?
奴らとしちゃ、派手に返り討ちにされて恥をかかされたわけだからな。黙って引き下がるわけないんだ」
「……当事者に説明してもらおう。テル、頼む」
名指しされたテルは実にシケたツラで言った。
「この前、ソロで冒険していたら、突然ものすごい数のモンスターが襲ってきて……。逃げる間もなく即死しました。MPKされたわけです。
で、死体になって呆然としていたら、ゴーエンたちがやって来て言いましたよ。
”ザコの分際で俺たちを殺した罰だ! 思い知れ!”
他にもこんなことを言ってました。”お前や仲間が謝るまで徹底的に攻撃してやる、覚えとけ!”」
なぁるほど……。俺はテルと同じようなシケ面になり、ぼやく。
「つまり逆ギレ、逆恨みだろ?」
「えぇ」
「他に被害にあった奴はいるのか?」
ガーベラが手を挙げる。
「あたしはメール爆撃されてるよ」
「爆撃?」
「迷惑メールが毎日毎日たッくさん届くんだ。いま実体化してやるよ、そしたらどれだけひどいか速攻でわかるから……」
彼女は指を軽く鳴らす。円卓の中央に数えきれないほどの封筒が現れ、自動的に開封され、中の便箋が飛び出していく。
ドレは手近な便箋を取り寄せ、読み、呆れ顔で言った。
「なんだこれは……。”暑い”とか”眠い”とか、くだらないことしか書かれてないぞ!」
「そりゃそうだ。嫌がらせ目的のメールなんだから、内容なんてどうでもいい。このゲームは空メールができないから適当に書いておく、それだけのことでね。
おかげであたしはロクにメールできないよ。受け取り箱がいつもパンパンだから、友達のメールが届かない!」
「ひどい……」
俺もドレに同感だ。ひどい、本当にひどい。いくら頭にきたからって普通ここまでやるか? てめぇら何様のつもりだ!
自分から仕掛けたPKなんだから、逆に殺されたとしても自己責任、悪いのはお前ら自身だろうが。なのにこっちのせいにして当たり散らす。
結局ゴーエンたちは幼児だ。物事が思い通りにいかないと狂ったように怒るお子様なんだ。そうでなきゃ、この世のすべてを支配したと勘違いしてる王様だな。
クソッタレ……。俺がそうして憤慨する中、パティがややイラついた口調で言った。
「嘆きたい気持ちはわかりますが、えぇ、実際わたしも嘆きたいんですが、しかしまずは彼らへの対策を考えないとなりません。ですから……」
テルの横にいる女性が手を挙げる。
「今、”わたしも嘆きたい”って言いましたけど、パトリシアさんも嫌がらせされてるんですか?」
「正直にいえばその通り。テルと同じくMPKされたし、ガーベラと同じくメール爆撃されてる。それどころか、ただ街を歩いてるだけで災難が襲ってくる。
このあいだ、リベルタドの広場を歩いてたら、偶然ゴーエンと出くわしてね。あいつ、あたりにあれだけ人がいるのに怒鳴り散らして……。
”絶対お前を許さねぇ、いつかぶっ殺してやる!”、そんなことを叫んでました。そういえばドレ、一つ思い出したんだけどね……」
「なんだ?」
「ゴーエンたちはどんどん過激になってきて、このクランそのものを攻撃目標にしてるらしいのよ。既に被害が出てる。
ここ数日、いろんな人から相談されたけど、あいつらうちのメンバーを見つけるとすぐに近寄って罵倒して、ログ・アウトするまでストーキングして……」
「(無理にさえぎり、)わかった、パティ、よくわかった! だから頼む、もうやめてくれ。これ以上は耐えられない!」
俺だって耐えられんさ。不愉快だ! ゲームというのは楽しむためにするものなのに、どうして逆に嫌な思いをしなくちゃならん?
なぜこのゲームをしていると、しばしば憎しみの渦に巻きこまれるのだろう。まるで誰かがそれを望んでいるかのようだ。
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