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第10章 この社会を革命するために 後編
第160話 弱者を見殺しにして安楽に暮らす Ultimate vicious
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診察を終えてクリニックから出た治は、近くの薬局に行き、処方箋と引き換えに薬をもらい、そのまま帰宅のために歩き出した。
夕暮れの光に照らされて彼は思う。結局なんの問題も解決しなかった、時間とお金を無駄遣いする結果に終わってしまったな、と。
家に帰ればリジーが「診察の結果はいかがでしたか?」などと質問攻めをしてくるに違いない。そしてそれをやり過ごして明日を迎えると、今度は仕事が始まる。
想像するだけでウンザリだ。イライラがこみあげてくる。ドクター南原は「薬を使えばイライラが和らぐ」と言ったが、ふん、それが何の解決になるんだ?
こういう薬をゲロ吐きそうなくらいガブガブ飲んだとしても、イライラの原因が存在し続ける限り、どうせまた同じ不快感を繰り返す。
薬なんて所詮はその場しのぎだ。事態を根本的に解決したければ、ますその原因を解決するしかない。でもどうやって? そう考えた瞬間、心中に声が響き渡る。
”人生において重要なのは、物の見方、考え方です。さまざまな出来事をうまく解釈できるようになれば、ストレスはとても小さくなる”
”物事から受けるストレスはけっきょく解釈次第なのです”
”他人を変えるのではなく自分を変える。それによってストレスに対処する”
思わず治は立ち止まる。深いため息をつく。
「はぁ……」
どうにかして己の思考を変え、チェスナット社の各種インチキをうまく許せるようになれば、確かにストレスの少ない人生を送れるだろう。
だがそれが出来ないからこうして悩むのだ。(いったいどうすればいい?)。何度も繰り返した疑問をまた繰り返し、治は途方に暮れる。
次に、彼は近くに公園があることに気づく。ここを散歩して、ついでに自販機でなにか買って飲めば、少しは気が晴れるかもしれない。彼は寄っていくことに決める。
自販機の前に立ち、(何があるかな?)と考え、商品棚をながめる。それは上中下の三段構成になっていて、上段の中央部には小型の防犯カメラが置かれている。
カメラは無言で治に話す。(俺はお前を見ている、監視しているぞ。もし妙なマネをすれば、警察や情報局に速攻でデータを送るからな)。
巨大なプレッシャーだ。治はそれを強引に無視してオレンジ・ジュースを買い、グッと飲んで一息つく。そしてそっとあたりの様子をうかがう。
電灯のついた金属柱があちこちに立っていて、それら全てに防犯カメラがついているのが分かる。もちろんこいつらも主張している。(治、お前を見ているぞ)。
気が狂いそうな監視社会だ! クソッ、クソッ、クソッ! 治はヤケ酒のようにジュースを飲み干し、空き缶をゴミ箱にぶちこみ、今度は遠くへ視線を移す。
遊具の並ぶ開けた場所に、小学校低学年くらいの男の子たち数人がいる。そのうちの1人は白人と日本人の混血児だ。治は(そういや僕も混血だっけ……)と思う。
白人の子を取り囲むような形で3人の日本人の子が立っている。彼らの中で最も体格のいい、いわゆるガキ大将の子が白人の子に襲いかかり、力ずくで何かを奪う。
それは小さなルービック・キューブだ。治は、(僕も子どもの頃によく夢中になって遊んだよな……)と思い返す。そんなことの間に白人の子が抗議する。
「返して! 返してよ、宝物なんだ!」
ガキ大将はニヤニヤ笑いで話す。
「バァーカ! 誰が返すかよ? 欲しけりゃ力で取り返せ!」
白人の子は「ちくしょう!」と叫んでガキ大将に突進する。ガキ大将は体当たりされる前に「ほら!」と言って別の男児にキューブを投げ渡す。その男児は嘲笑する。
「ボケ、どこ見てんだ? こっちだ、こっち!」
「やめて! 返してよ、ねぇ、返して!」
たくさんの涙が白人の子の両目からあふれる。彼は必死に男児へ向かっていく。男児はまた別の子へとキューブを投げ渡し、受け取ったその子は罵る。
「間抜け、間抜け! ほらほら、今度はこっちだぞ!」
「やめてよ、やめて! お願いだから返してよ!」
「弱虫の言うことなんか聞くわけないじゃん! 死んでも返すもんか!」
治は(こんなイジメは見ちゃいられない!)と感じ、止めに入ろうと思う。だがもしその場を警察に見られたら、児童に暴力を振るっていると誤解されるかもしれない。
厄介事はご免だ。彼は自身に言い聞かす。(落ち着け、思考を変えろ。自分を変えろ、見て見ぬふり……。このまま立ち去れば、後は誰かが何とかしてくれる)。
夕暮れの光に照らされて彼は思う。結局なんの問題も解決しなかった、時間とお金を無駄遣いする結果に終わってしまったな、と。
家に帰ればリジーが「診察の結果はいかがでしたか?」などと質問攻めをしてくるに違いない。そしてそれをやり過ごして明日を迎えると、今度は仕事が始まる。
想像するだけでウンザリだ。イライラがこみあげてくる。ドクター南原は「薬を使えばイライラが和らぐ」と言ったが、ふん、それが何の解決になるんだ?
こういう薬をゲロ吐きそうなくらいガブガブ飲んだとしても、イライラの原因が存在し続ける限り、どうせまた同じ不快感を繰り返す。
薬なんて所詮はその場しのぎだ。事態を根本的に解決したければ、ますその原因を解決するしかない。でもどうやって? そう考えた瞬間、心中に声が響き渡る。
”人生において重要なのは、物の見方、考え方です。さまざまな出来事をうまく解釈できるようになれば、ストレスはとても小さくなる”
”物事から受けるストレスはけっきょく解釈次第なのです”
”他人を変えるのではなく自分を変える。それによってストレスに対処する”
思わず治は立ち止まる。深いため息をつく。
「はぁ……」
どうにかして己の思考を変え、チェスナット社の各種インチキをうまく許せるようになれば、確かにストレスの少ない人生を送れるだろう。
だがそれが出来ないからこうして悩むのだ。(いったいどうすればいい?)。何度も繰り返した疑問をまた繰り返し、治は途方に暮れる。
次に、彼は近くに公園があることに気づく。ここを散歩して、ついでに自販機でなにか買って飲めば、少しは気が晴れるかもしれない。彼は寄っていくことに決める。
自販機の前に立ち、(何があるかな?)と考え、商品棚をながめる。それは上中下の三段構成になっていて、上段の中央部には小型の防犯カメラが置かれている。
カメラは無言で治に話す。(俺はお前を見ている、監視しているぞ。もし妙なマネをすれば、警察や情報局に速攻でデータを送るからな)。
巨大なプレッシャーだ。治はそれを強引に無視してオレンジ・ジュースを買い、グッと飲んで一息つく。そしてそっとあたりの様子をうかがう。
電灯のついた金属柱があちこちに立っていて、それら全てに防犯カメラがついているのが分かる。もちろんこいつらも主張している。(治、お前を見ているぞ)。
気が狂いそうな監視社会だ! クソッ、クソッ、クソッ! 治はヤケ酒のようにジュースを飲み干し、空き缶をゴミ箱にぶちこみ、今度は遠くへ視線を移す。
遊具の並ぶ開けた場所に、小学校低学年くらいの男の子たち数人がいる。そのうちの1人は白人と日本人の混血児だ。治は(そういや僕も混血だっけ……)と思う。
白人の子を取り囲むような形で3人の日本人の子が立っている。彼らの中で最も体格のいい、いわゆるガキ大将の子が白人の子に襲いかかり、力ずくで何かを奪う。
それは小さなルービック・キューブだ。治は、(僕も子どもの頃によく夢中になって遊んだよな……)と思い返す。そんなことの間に白人の子が抗議する。
「返して! 返してよ、宝物なんだ!」
ガキ大将はニヤニヤ笑いで話す。
「バァーカ! 誰が返すかよ? 欲しけりゃ力で取り返せ!」
白人の子は「ちくしょう!」と叫んでガキ大将に突進する。ガキ大将は体当たりされる前に「ほら!」と言って別の男児にキューブを投げ渡す。その男児は嘲笑する。
「ボケ、どこ見てんだ? こっちだ、こっち!」
「やめて! 返してよ、ねぇ、返して!」
たくさんの涙が白人の子の両目からあふれる。彼は必死に男児へ向かっていく。男児はまた別の子へとキューブを投げ渡し、受け取ったその子は罵る。
「間抜け、間抜け! ほらほら、今度はこっちだぞ!」
「やめてよ、やめて! お願いだから返してよ!」
「弱虫の言うことなんか聞くわけないじゃん! 死んでも返すもんか!」
治は(こんなイジメは見ちゃいられない!)と感じ、止めに入ろうと思う。だがもしその場を警察に見られたら、児童に暴力を振るっていると誤解されるかもしれない。
厄介事はご免だ。彼は自身に言い聞かす。(落ち着け、思考を変えろ。自分を変えろ、見て見ぬふり……。このまま立ち去れば、後は誰かが何とかしてくれる)。
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