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第10章 この社会を革命するために 後編
第171話 シンゴの事情 Twisted journalism
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相談は長く続いたが、結局たいした案は出なかった。先ほどカジキが述べた通り、速やかに新しい隠れ家を用意し、それまでは今の場所に潜伏。それだけだ。
潜伏すること自体にはなんの問題もない。このホテルは革命戦団が経営する物件であり、スタッフは全員が戦団のメンバー。もちろん今回の脱出について知っている。
そして宿泊客は事前にすべてチェック・アウトさせているから、要するに今のここは治の貸し切り状態であり、他人を気にする必要はない。
食料はたっぷりと蓄えられているし、武器や弾薬も十分な量が用意されている。ケチの付け所のない完全に安全な巣穴だ。
とはいえ、これはあくまで警官隊との戦いを想定した備えに過ぎない。もし情報局の特殊部隊が襲ってきたら陥落するだろう。
だからこそ一刻も早く次の隠れ家へ引っ越す必要がある。そしてカジキは新しい隠れ家の準備に数日が必要と見積もった。
準備が済む前に局が襲撃してくるか、それとも襲撃前にこのホテルから脱出できるか。
未来は神だけが知っている。
カジキは治に「引き続き3階のこの部屋に住んでくれ」と言い、シンゴには「ここに同居して治を護衛しろ」と命じた。
翌日。雨はやんだが曇り空はいまだ晴れず、湿った空気が支配する中、治とシンゴは部屋の片隅でそれぞれの仕事に打ちこんでいる。
治は机に大型タブレットを広げ、リーク用の情報の整理を。シンゴはベッドに腰かけて読書を。
やがて治が作業を終え、「うーん……」と言いながら背伸びをする。同時にシンゴが読書をやめ、声をかける。
「どうした?」
「ちょっと疲れてね。少し休憩するよ……」
そう言って治はタブレットをスリープ状態にし、椅子の背もたれへ体重を預ける。ぼやく。
「はぁ、いくら作業してもぜんぜん終わらない……」
「頑張るのもいいが、ほどほどにしとけよ。気合いの入れ過ぎで倒れちゃしょうがねぇ」
「心配ありがとう。でもさ……」
「(遮り、)まぁとにかく一息入れようぜ。へばったままじゃ捗らねぇよ」
「うん、そうだね……」
シンゴは本を閉じ、傍らに置く。言う。
「にしても、なんだってお前はリークを決意したんだ? そんなことすりゃ情報局に殺されるってのに」
「だってインチキを見過ごすわけにはいかないだろ。いつか誰かが問題を解決してくれる、だから自分は何もしない、そんな生き方とは縁を切ったんだ」
「よくわかんねぇが、なにか事情があるってことか?」
「そうゆうこと。逆に聞くけどさ、じゃあシンゴはなんで革命活動を始めたの? それこそ命がけじゃないか」
「俺にもいろいろ事情があんだよ」
「具体的にいうと?」
「まぁ本当、いろいろだ。いろいろ」
「はぐらかさないでちゃんと教えてくれ」
「なんだよ、しつこいな……。じゃあ少しだけだぞ?」
ングッと軽く咳払いして、シンゴは語り出す。
「革命戦団に参加する前、俺はテレビ局に勤めてた。ま、単なる平社員だったがな」
「うん」
「昔の俺は情熱に燃えていた。「権力者の不正を暴き、真実を報道して国民のために働く」、そんな感じにな。でも現実は残酷で、いわゆる忖度報道ばかりだった。
たとえば政治家の汚職について特集番組を作るとするだろう。すると首相官邸から電話がきて、番組をやめろと圧力をかけてくる」
「圧力?」
「日本の権力者は、直接的な圧力をかけることはしない。むしろ遠回りなやり方を好む。
奴らはいつだって穏やかに言う。「その番組はすこし公平ではないように思えますが、それでも放送するんですか?」。紳士淑女の小さなご意見ってわけだ。
ふん! この優しい言葉の裏にあるのは、番組をやめなきゃ痛い目にあわすって脅しだ」
「情報局にプロデューサーを暗殺させるとか、そういうことか?」
「いや、もっと陰湿で汚い。たとえば、番組の中止が決まるまでそのテレビ局を記者会見に参加させないとか、そういう嫌がらせをしてくる。
もちろんお前が言ったように、いよいよとなれば暗殺部隊を送りこんでくる。そんなわけだから、どんなプロデューサーも最後の最後は負けを認めちまう。
で、神妙な声で首相官邸に申し上げるのさ。「今回の番組につきましては取りやめを決定いたしました」。後はひたすらぺこぺこ平謝り!」
実に不快といった顔で治は言う。
「なんだよ、インチキじゃないか!」
「あぁそうさ、インチキさ。けど、日本のマス・メディアなんて100年前からずーっとこんな調子だぜ? いつだって政権に媚びる忖度報道だ!
俺は、最初のうちこそ我慢してた。いつか時代の流れが変わる、言論の自由が戻ってくる、だからそれまではおとなしくしてよう、そう思ってた。
でも何年経ってもなんも変わらねぇ。そのうち悟ったね、真実に基づく報道をしたいならテレビ局なんてやめたほうがいいって。
だからやめた。そしてかわりに革命戦団に入り、政府や金持ちが隠したがる真実を暴露してるってわけさ」
「なるほどね……」
どんな人にも事情があり、それに応じた人生がある。シンゴもまた、シンゴなりの事情を背負って革命家になったのだ。最初からこうだったわけではない。
権力に逆らう人間が生み出されるのは、権力が腐敗していることが原因だといえるだろう。
潜伏すること自体にはなんの問題もない。このホテルは革命戦団が経営する物件であり、スタッフは全員が戦団のメンバー。もちろん今回の脱出について知っている。
そして宿泊客は事前にすべてチェック・アウトさせているから、要するに今のここは治の貸し切り状態であり、他人を気にする必要はない。
食料はたっぷりと蓄えられているし、武器や弾薬も十分な量が用意されている。ケチの付け所のない完全に安全な巣穴だ。
とはいえ、これはあくまで警官隊との戦いを想定した備えに過ぎない。もし情報局の特殊部隊が襲ってきたら陥落するだろう。
だからこそ一刻も早く次の隠れ家へ引っ越す必要がある。そしてカジキは新しい隠れ家の準備に数日が必要と見積もった。
準備が済む前に局が襲撃してくるか、それとも襲撃前にこのホテルから脱出できるか。
未来は神だけが知っている。
カジキは治に「引き続き3階のこの部屋に住んでくれ」と言い、シンゴには「ここに同居して治を護衛しろ」と命じた。
翌日。雨はやんだが曇り空はいまだ晴れず、湿った空気が支配する中、治とシンゴは部屋の片隅でそれぞれの仕事に打ちこんでいる。
治は机に大型タブレットを広げ、リーク用の情報の整理を。シンゴはベッドに腰かけて読書を。
やがて治が作業を終え、「うーん……」と言いながら背伸びをする。同時にシンゴが読書をやめ、声をかける。
「どうした?」
「ちょっと疲れてね。少し休憩するよ……」
そう言って治はタブレットをスリープ状態にし、椅子の背もたれへ体重を預ける。ぼやく。
「はぁ、いくら作業してもぜんぜん終わらない……」
「頑張るのもいいが、ほどほどにしとけよ。気合いの入れ過ぎで倒れちゃしょうがねぇ」
「心配ありがとう。でもさ……」
「(遮り、)まぁとにかく一息入れようぜ。へばったままじゃ捗らねぇよ」
「うん、そうだね……」
シンゴは本を閉じ、傍らに置く。言う。
「にしても、なんだってお前はリークを決意したんだ? そんなことすりゃ情報局に殺されるってのに」
「だってインチキを見過ごすわけにはいかないだろ。いつか誰かが問題を解決してくれる、だから自分は何もしない、そんな生き方とは縁を切ったんだ」
「よくわかんねぇが、なにか事情があるってことか?」
「そうゆうこと。逆に聞くけどさ、じゃあシンゴはなんで革命活動を始めたの? それこそ命がけじゃないか」
「俺にもいろいろ事情があんだよ」
「具体的にいうと?」
「まぁ本当、いろいろだ。いろいろ」
「はぐらかさないでちゃんと教えてくれ」
「なんだよ、しつこいな……。じゃあ少しだけだぞ?」
ングッと軽く咳払いして、シンゴは語り出す。
「革命戦団に参加する前、俺はテレビ局に勤めてた。ま、単なる平社員だったがな」
「うん」
「昔の俺は情熱に燃えていた。「権力者の不正を暴き、真実を報道して国民のために働く」、そんな感じにな。でも現実は残酷で、いわゆる忖度報道ばかりだった。
たとえば政治家の汚職について特集番組を作るとするだろう。すると首相官邸から電話がきて、番組をやめろと圧力をかけてくる」
「圧力?」
「日本の権力者は、直接的な圧力をかけることはしない。むしろ遠回りなやり方を好む。
奴らはいつだって穏やかに言う。「その番組はすこし公平ではないように思えますが、それでも放送するんですか?」。紳士淑女の小さなご意見ってわけだ。
ふん! この優しい言葉の裏にあるのは、番組をやめなきゃ痛い目にあわすって脅しだ」
「情報局にプロデューサーを暗殺させるとか、そういうことか?」
「いや、もっと陰湿で汚い。たとえば、番組の中止が決まるまでそのテレビ局を記者会見に参加させないとか、そういう嫌がらせをしてくる。
もちろんお前が言ったように、いよいよとなれば暗殺部隊を送りこんでくる。そんなわけだから、どんなプロデューサーも最後の最後は負けを認めちまう。
で、神妙な声で首相官邸に申し上げるのさ。「今回の番組につきましては取りやめを決定いたしました」。後はひたすらぺこぺこ平謝り!」
実に不快といった顔で治は言う。
「なんだよ、インチキじゃないか!」
「あぁそうさ、インチキさ。けど、日本のマス・メディアなんて100年前からずーっとこんな調子だぜ? いつだって政権に媚びる忖度報道だ!
俺は、最初のうちこそ我慢してた。いつか時代の流れが変わる、言論の自由が戻ってくる、だからそれまではおとなしくしてよう、そう思ってた。
でも何年経ってもなんも変わらねぇ。そのうち悟ったね、真実に基づく報道をしたいならテレビ局なんてやめたほうがいいって。
だからやめた。そしてかわりに革命戦団に入り、政府や金持ちが隠したがる真実を暴露してるってわけさ」
「なるほどね……」
どんな人にも事情があり、それに応じた人生がある。シンゴもまた、シンゴなりの事情を背負って革命家になったのだ。最初からこうだったわけではない。
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参考文献
松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集
船山信次 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり
齋藤勝裕 毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで
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