VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第11章 この社会の平和を守るために

第174話 閑話 An ordinary holiday

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 まるで人気のない寂しい川べりで、釣り人の服をした理堂とデンマが折り畳み椅子に座って釣りをしている。二人の頭上には曇り空が広がり、全くいい天気ではない。
 だが釣りにとってはむしろ晴れよりも曇りのほうが都合がいい。曇っていれば人影が生まれず、魚に不審がられないからだ。

 二人の釣り竿には何の反応もない。まぁ釣りとはそういうものだ、釣れない時は辛抱強く待つしかない。
 退屈した理堂は空を見上げる。遠くの空を一機のドローンが飛んでいくのが分かる。小さな疑問が理堂の心中に浮かび、言う。

「デンマさん。やっぱりあのドローンも、僕たちを監視してるんですかね?」
「当ッたり前だろ」
「ですよね……」
「俺たちゃただ単に釣りしてるだけだ。監視されたって何の問題もねぇ」
「まぁそうですが、でも、”見られてる”、”監視されてる”ってプレッシャーを感じるのは、やっぱり気分がよくないなって……」
「2084年の監視社会で楽に生きていきたいなら、そういうことを気にしない精神力を身につけろ。
 動物園の動物は檻に入れられた状態で客にジロジロ見られる。プライバシーなんてない。そのせいでストレスがたまって心を病む動物もいるが、誰も問題にしねぇ。
 ささいなストレスで病気になるような、弱っちい心の動物が悪いのさ。たとえクソを垂れる瞬間を見られようと全く気にしない、そういう根性が必要なんだ」
「じゃあデンマさんはトイレの場面を見られても気にしないんですか?」
「気にするにきまってんだろ!」
「んな無茶苦茶な……」
「慣れだよ、慣れ! 慣れの問題だ! 最初は監視されてることを苦痛に感じる、でも長いことその状態が続くとだんだん慣れてきて、どうでもよくなる。
 感覚がマヒして何も感じなくなるんだ。時々は監視のことを思い出してムカつくが、そういう時は酒でも飲んで忘れちまえ! とにかく監視社会に適応するんだよ」
「適応……」

 いい加減な返事をして理堂は思う。なんとも酷い話だよな、と。同時に、この監視社会はどうにかならないのかと思う。

「デンマさん、僕たちの社会はこんな調子で大丈夫なんですかね。あれも監視、これも監視、ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
「いや全然。いいか理堂、社会を犯罪者やテロリストから守るには、これだけ監視してもまだまだ努力が足りないくらいだ」
「本当ですか? そもそもの話、国民は監視を望んでるんですか?」
「理堂、こいつは前に言ったかもしれんがな。あえて繰り返そう。
 かつて国民みずからが、”プライバシーなんていらない、それが犠牲になってもいいから平和を守ることが必要”、そう主張したんだ。
 その結果、うさん臭い奴を監視することを認める法律が成立し、監視を実行するための組織、リトル・マザーや情報局が設立された。
 全ては合法的、民主的な手続きによって行われた改革だぜ。どこに問題がある?」
「でも……」
「監視のことを考えたってしょうがねぇだろ。それよりもっと他に考えるべきことがあるんじゃねぇか?」
「たとえば?」
「今の社会の根本的な問題点についてだ」

 いきなり飛び出した抽象的で難しい話についていけず、理堂は困惑する。

「あの、どういうことですか?」
「監視社会が始まって以来、日本は実に元気のない国になっちまった。多くの人が向上心を持たず、己を鍛えず努力せず。つまりやる気を失ってんだ」
「言いたいことは分かりますが、それと監視社会と何の関係があるんですか」
「この監視社会でいわゆる支配的な立場にいる連中って誰だと思う?」
「権力者と金持ち……ですか?」
「ご名答。特に金持ちの支配力は圧倒的だ。ところで理堂、この世界じゃいつでも生存競争が行われてるが、それに効率よく勝ち続けるにはどうしたらいいか分かるか?」
「いえ……」
「簡単な話だ。競争相手がいつも負け組の立場でいてくれればいいんだ。さらに言えば、勝ち組だけがレベルアップできるような状況が固定化されれば最高だ。
 もしそうなれば、時間が経つほど勝ち組と負け組の差が広がり、勝ち組に有利な状況になる。
 勝ち組はどんどん成長してゾウのようにデカくなるが、負け組はいつまで経っても弱いネズミ。これなら勝ち組はいつまでも勝ち続けられる」
「でもどうやったらそんな都合のいい話を成立させられるんですか?」
「よし、じゃあ課外授業で今から教えてやる……」
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