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第10章 この社会を革命するために 後編

第173話 死神たちの到来 Time to realise

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 治はたずねる。

「イェーリングの話はわかったよ。で、いったんそれは終わりにして、今度は別のことを話し合いたいんだけど……」
「なんだ?」
「今さらこんなこと聞くのはタイミングが遅すぎかもしれないけど、でもやっぱり聞きたくてさ。
 革命戦団が僕のリークを手伝うのは、戦団にとって本当に利益になることなの?」

 ハハ、と苦笑いしてシンゴは答える。

「おいおい、本当に今さらだな! それについては前に教えただろ?
 戦団の活動目的は、LMに都合の悪い情報を暴露すること。そしてお前がやろうとしてることはまさに暴露、戦団にとっての利益だ」
「そこをもっと詳しく知りたいんだよ。そもそもの話、なんで革命戦団は暴露なんてやってるんだ?」
「革命を成し遂げるためには暴露が必要だからさ」
「だから、革命と暴露と、その二つになんの関係があるんだよ?」
「OK、じゃあ説明しよう」

 シンゴは立ち上がってベッドから離れ、治が座っている席のそばにあるカウチに腰かけ、話す。

「革命ってのは国民の多くから支持されなきゃ成功しない。ごく少数の人々しか共感できないような独りよがりの理屈を振りかざしたって、誰もついてこねぇ。
 ひどい政治に誰もが不満を感じ、爆発寸前。革命家は、そういう状況でみんなの期待を背負って戦うから革命を成功させることができるんだ。
 つまり、革命が成功するかどうかは、国民が政治についてどう考えているかに大きく左右される」
「なるほど……」
「今の日本じゃ国民の殆どが政治に不満を持ってるだろう。そりゃそうだ、監視社会で自由がなく、おまけにリトル・マザーが独裁主義の政治をやってんだから。
 でも残念ながら、革命を起こそうってぐらいみんな激烈に怒ってるわけでもない。だって、国民の不満が高まると政府は金を配ったりしてごまかすからな。
 だいたいそもそもの話、腐った現実を変えるというこの困難な仕事に取り組むのを、誰もがめんどくさがってやろうとしないだろ。
 革命によって自由を取り戻すことより、ゲームや旅行や食べ歩きといった娯楽のほうが多くの人にとって大事なのさ。
 そんな状況じゃ革命は成功しない。しかし、だからってこんなディストピアを放置していいわけがねぇ!」

 さらに熱を入れてシンゴは語る。

「まずは国民全員が激しく怒ることが大事なんだ。このイカれた監視社会、そして恐怖のリトル・マザー、こいつらを絶対に許さないって考えることが必要なんだ。
 そのためにはまず人々が色んな真実を知る必要がある。今の政府がどれだけ人権を踏みにじって好き放題にしているか、それを理解するのが革命への第一歩だ。
 本来なら、テレビや新聞といったマス・メディアが真実を報道して、国民の意識をきちんとした方向へ導くのが一番だろうよ。
 でもあいつらはそれをやらねぇ。すぐ権力者の脅しにビビり、真実を報せるどころか、政府に都合のいいねじ曲がった情報ばかり垂れ流す!
 だったらよ……。誰かがメディアの代わりに真実を伝えなくちゃいけないだろうが。革命戦団はそのために結成され、こうやって命がけで戦ってる」
「そこまでは分かったけど、戦団のその目的と僕のリークと、二つの繋がりは?」
「俺は、お前のリークの内容についてはおおよそ察してるつもりだ。えぇと、チェスナットだっけ? お前が勤めてた会社って?
 どうせチェスナットはLMとグルになって汚いビジネスをやっていて、お前はそれをばらそうってんだろ?」
「正解! うちの会社はマジでインチキだよ、プレイヤー全員の個人情報をワイロと引き換えにLMから買って、それを好き放題に利用してる。
 そんな無茶苦茶は絶対に許せないと僕は思ったし、だからリークを決めた」
「いい考えだ。それでいい。お前がそうやって頑張ろうってんだ、俺だって頑張ってサポートするぜ」
「ありがとう」
「どういたしましてだ!」

 シンゴの耳のソケットの無線機を通じ、彼の脳内にカジキの声が流れこんでくる。

(緊急事態だ。ついに敵が来た)
(敵? いったい誰です?)
(特別調査室のエリート部隊)
(げっ……)
(周囲の様子を見る限り、我々は次第に包囲されつつある。脱出は不可能だ、生き延びたければ敵を倒すしかない)
(そのための策は?)
(事前の打ち合わせ通りだ。メンバー全員がステルス服で透明になり、その状態で待ち伏せする)
(了解です)
(お前はしっかり治を守れ。他のフロアは私が指揮を執り、守り抜く)
(はい)
(すぐに臨戦態勢をとるんだ。モタモタしている余裕はない!)
(分かってますって!)

 カウチから立ち上がり、シンゴは急いた口調で話す。

「治、悪いニュースだ。敵さんのお出ましだぜ」
「……(無言)」
「どうした?」
「いよいよ来るべき時が来た。そう思ってさ」
「ビビってんのか?」
「当たり前だろ! 下手すりゃ殺されるかもしれない、そんなこと想像したら怖くもなる」
「ハハハ! 安心しろ、敵なんぞすぐ片づけてやる。お前は誰にも殺されない、俺や仲間が守り通す。だから心配なんてせず、大船に乗ったつもりでドーンと構えてろ」

 シンゴは自信たっぷりといった笑みを治に向ける。だが治の不安は消えない。治は言う。

「でもさ、シンゴ。もしも、もしもだよ。戦いに負けるようなことがあったら……どうする?」
「どうするって、そんときは俺は死んでるぜ? お前を助けられるワケねーだろ」
「まぁそうだよな……。よし」

 治はズボンのポケットに手を突っこみ、棒状の黒い物体を取り出す。そしてそれを右耳のソケットに挿しこむ。シンゴ。

「おい、なんだそりゃ?」
「最終手段さ。いざとなりゃこいつで敵に一泡ふかせる」
「そんな小さなモンでいったいどうやって?」
「悪いけど秘密。だって、切り札の正体は最後まで隠しておくべきだろ?」
「そりゃそうだが……」
「いいから戦いの準備をしよう。さぁ!」

 誰が死に、誰が生き残るか。やがて訪れる未来がそれを明らかにするだろう。
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