VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第11章 この社会の平和を守るために

第180話 アンモニア臭の戦場 Like a smelly toilet

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 階段を登る途中、森の頭上から何かが落ちてくる。単一乾電池のような形状・大きさのそれは、シューッと音を立て、無色かつアンモニア臭のガスをまき散らす。
 森のボディのセンサーがただちに反応し、気体の成分を化学分析する。その結果を知って森は独りつぶやく。

(プリヴェンターか!)

 それは第三次世界大戦において実用化された兵器だ。ちょっとした火気で爆発するガスを広範囲に充満させ、それによって銃などの使用を封じる。
 もし撃てば発砲者はただちに火だるまとなり、無事ではすまない。森は軽く舌打ちして銃の安全装置を下ろす。これを使っての攻撃は諦め、別の方法を考えるべきだ。

 体に装着したスリングを利用して銃を後ろに回し、背負う。そのまま左手で腰のナイフを抜いて軽く握る。
 この動作を終えたタイミングで3階から肉声が届く。比較的若い男性の声だ。

「おい、あんた! とっくにご存知だろうが、もはや俺もあんたも銃が使えねぇ。
 つまり、あんたが俺を殺したきゃ、接近戦を挑むしかないわけだ。わかったらとっとと上がって来いよ!」

 森は(生意気なクソガキめ……)と思うが、そんなことを口にしても得はない。ここはとりあえず、おとなしく相手の要求通りに上がるのが無難だろう。
 彼女は充分に警戒しつつ階段を登りきる。廊下の向こう側、やや離れた地点に男が立っているのが見える。彼は言う。

「ようこそ、特調のエリートさん! で、お名前は?」
「ジェーン・ドゥ」
「嘘は無しだ、ちゃんと教えてくれ」
「そんな義務はない」
「だがもし教えてくれたら治の居場所を教えてやるぜ? どうだ、なかなかナイスな情報交換だろ……?」

 なるほど、そうかもしれない。森は静かに答える。

「情報局特別調査室所属、森琴美……」
「へへ、ありがとう。俺の名前はシンゴ、よろしく」
「剣崎の居場所は?」
「俺が守ってるここの後ろに一つの部屋がある。あいつはそこだ」
「つまり、お前を倒さなければ剣崎のもとにたどり着けないということか?」
「お姉さんなかなか察しが早いね!」
「お褒めの言葉をありがとう……」

 アンモニア臭が強く漂う。ふと森は疑問を感じ、たずねる。

「お前はさっき、私に向かってプリヴェンターを投げこんだ。しかし、最初から普通の手りゅう弾を使えば私を殺せたはずだ。なのになぜ……」
「どうせお姉さん、完全サイボーグだろ? そんな頑丈な奴、並みの手りゅう弾じゃ殺せない。じゃあプリヴェンターを投げたほうがマシってもんよ」
「……」
「それに、お姉さんが手りゅう弾の煙で身を隠しても困るしな。ま、細かいことはどうでもいいだろ?
(目を細め)お姉さん、いや、森……。治を守るため、俺はあんたを殺さなくちゃならねぇ。覚悟してくれ」

 シンゴの右手に握られたナイフが輝く。彼は、森が完全サイボーグと知った上でこのナイフを用意したに違いない。ならば殺傷力はかなりのものだろう。
 森のボディは一般的なナイフの刃など弾き返す。だが、対サイボーグを想定して作られたナイフまではさすがに無理だ。

 うかつに接近戦をすれば大ケガをさせられるかもしれない。ここはしばらく会話で時間を稼ぎ、うまく仕留める隙を探すのが上策だろう。森は喋り出す。

「お前を殺すのは簡単だが、しかし手間がかかる。降伏してくれるとありがたいんだがな?」
「んなわけねーだろ? あんたはここに来るまでに俺の仲間をたくさん殺したはずだ。その仇を取るには、あんたを殺すしかねぇ」
「だが下のフロアがどうなっているか、お前は知らないはずだ。もしかしたからお仲間は殺害されず、捕虜にされただけかもしれない。
 無線通信は封鎖されている、お前は誰にも連絡できない。したがって、どこで何が起きたかさっぱり把握できていない。そんなお前の推測はいい加減な的外れだ」
「もしそうだとしてもよ、俺が降伏したら治を守れねぇ。けっきょく結論がなんであれ、俺はあんたを殺すしかないんだ」
「ふん……」

 会話中に森が観察した限りでは、シンゴは完全サイボーグではないようだ。ならばその肉の体は実に柔らかく、ちょっとした痛みにも敏感だろう。
 すなわち、少しでも手傷を与えれば後はそのまま勢いに乗って殺せる。シンゴのナイフ攻撃をうまくしのげるならば、接近戦を行っても……。
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