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第12章 すべてを変える時

第189話 決戦の日 D-day

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《赤羽/レッド・マスクの視点》
 連合軍のくだらねー会議を仮病でスキップし、有給でたっぷり休んでから数日後。
 週末、夜。ついに決戦の時刻となった。



 グレート・ベースが東西南北にそれぞれ備えている4つの門の周囲には、防衛部隊を務めるレイザーズの面々が集結済みだ。
 そして攻撃者となる連合軍も、部隊をそれぞれ4つに分け、既に布陣をすませている。後は戦闘開始を告げるアナウンスを待ってりゃいい。

 この状況下で俺がやるべき仕事が何なのかはとっくに分かってる。2つだ。
 1、パトリシアの部隊の副官として、グレート・ベースの攻略を手伝うこと。2、ボスや白木たちと連絡を取り合い、この戦争を見張ること。

 前者よりも後者のがずっと大変だ。戦いの混乱の中じゃ、ゆっくりお喋りしてるヒマなんてねぇ。だったらせめて今のうちにしっかり話し合っとこう。
 エージェント用の秘密チャット回線を使って、と……。

(こちら赤羽。白木、そっちの状況はどうだ?)
(問題ないでーす!)
(了解。次、姉川。そっちは?)
(こちらも問題ありません)
(アンドリューはおとなしくしてるか?)
(……今のところは)
(どうした、歯切れが悪いぞ。思ってることがあるなら正直に言ってくれ)
(すみません。実は、昨日すこし彼と話したんですが、やはり妙な感じがして……)
(具体的には?)
(強く興奮していると思いました。表面上は氷のようにクール、でも、一皮むけばマグマの熱さです)
(やべぇな)
(どうしましょう……?)

 もちろんいざとなりゃ、アンドリューを強制ログ・アウトだ。しかし奴はまだ何もやらかしてねぇ。理由もなく処罰はできん、じゃあもう少し様子見だな。
 姉川の不安を吹き飛ばすため、俺は必要以上に元気な調子で話しかける。

(ビビんな、いくらブチギレてようとしょせん1人の客に過ぎん。おイタをするなら即座に強制ログ・アウトだ)
(はい……)
(しっかりしろ。相手にコントロールされるんじゃなく、逆にこっちがコントロールする、そんくらいの勢いでいけ!)
(わかりました)
(なぁお前、かつての大事件を覚えてるか? エクレールとレイザーズが戦争寸前になったあれだ)
(白木さんから何回か話を聞きました)

 俺は当時のことを少しずつ思い出しながら喋り続ける。

(あれは今回と同じくらいにキツい仕事だったぜ。俺と白木、二人して駆けずり回り、戦争回避のためにいろんな奴を説得して回って……)
(大変でしたね)
(おう、クソ大変だったよ。だが苦労のおかげでうまく事態をコントロールできて、戦争せずにトラブルを終わらせた)
(さすが赤羽さんですね)
(褒めたってなにも出ねぇぞ? まぁともかく、いいか、あれだけの仕事を成功させた俺や白木がお前の援護についてる。
 それにボスだっているんだ。全員で協力すりゃあこの戦争だってうまく処理できるに決まってる、だから安心しろ)
(はい)
(繰り返すが、ビビんなよ! 気合い入れてけ! あと、何かあったらすぐ俺やボスに連絡しろ。それだけ気をつけてりゃ大丈夫だ)
(了解です)
(頑張れよ!)

 いったん通信を終える。そして考える。あの時、シルバーにはすまないことをしたな、と。
 俺だってあいつを犠牲にするのは忍びなかった。でも、レイザーズのモヒカン野郎が「こんなクソゲー、引退する!」とわめいてどうしようもなかったからな。

 白木が必死になだめ、ようやく引き出した譲歩が「シルバーが引退するなら俺は引退しない」という内容だった。
 そしてシルバーとモヒカンだったら後者の方が圧倒的に重課金だったから、シルバーを生けにえにして事を収めるしかなかった。

 月額100万円の課金者と200万円の課金者では、後者の方が運営にとって利用価値が高い。じゃあどっちを死なせるか? ……そういうことなんだ。
 金が無い奴は、現実世界でもゲーム世界でもカス扱い。こうして、金持ちがワガママに大暴れするための犠牲者となる。

 こういう酷い目にあうのが嫌なら必死に稼ぐしかないんだ。ちくしょう、だったらエージェントだろうとインチキだろうとやってやる。
 俺が幸福になるために他の誰かを踏み台にし、不幸にすることの何が悪い? 踏まれる奴が悪い、騙される奴が悪い。そして俺は悪くない、悪くねぇよ! クソッ!


《パトリシアの視点》
 既に戦場にいる私は、すぐ近くのレッド・マスクに視線を向ける。彼は少しボーッとしているみたいだ、ふん……だらしない。
 次に、遠方にあるベース南門へ視線をやる。土のうで築かれた防御壁、いくつもの機関銃、ゲート上層部の2つのマシンガン・タワー。そんな陣地が見える。

 あそこにたむろしているレイザーズの馬鹿どもを、私はこれから撃滅する。一人残らず徹底的に。
 もちろんそう簡単には攻略できないだろう、しばらくは事前の打ち合わせ通り、敵の足止めやかく乱に精を出すしかない。

 だがスエナの部隊がスケルトンを出撃させれば、戦局は必ず変化する。敵は各ゲートの兵士をスエナへと集中させるだろう、即ちここの防衛部隊の戦力が減る。
 そのタイミングで攻めこむ。片っ端から殺し、命乞いをする弱虫を踏みつぶし、クズどもを弾丸で砕く。スケルトンを彼女に譲ったのは、この作戦を実行するためだ。

 わたしは左の太もものホルスターを見る。そこにはグロック18が収まり、静かに出番を待っている。
 これをくれたソリッド・シルバーはもういない、でも、彼に関する記憶は今でもわたしの胸にある。

 彼の無念を忘れるものか。だからわたしは、彼が引退したあの日、誓ったのだ。
 いつかきっとレイザーズに、彼の無念とわたしの怒り、エクレールのメンバーが持つ恨みや憎しみ、これらを倍返しすると。

 わたしはそのために今日までこのクソゲーを遊び続けてきた。そしてようやくその時が訪れた。ならばやってやる、どこまでも暴力的に戦う。
 このタイミングで個人用チャットの通信が来る。誰だ……?
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