VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第12章 すべてを変える時

第217話 悪魔そのもの Human nature

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《レーヴェの視点》
 私は倒れているアップルに近づき、その顔を右足で踏みつける。

「ほら! 立ち上がってみせろ!」
「ちょっと、やめて!」
「知らんな!」

 ブーツの底を動かしてぐりぐりと何度もえぐる。アップルは死にかけのセミのように両腕をばたつかせ、みっともなくあがく。その姿を嘲笑ってやる。

「ハッハッハ! どうした、さっきまでの威勢は! ほら!」
「やめて、やめてって!」

 彼女は両手で私の右足をつかみ、もう踏ませまいとして力をこめる。だがそんなことは無意味だ。なんの抵抗にもならない。
 筋力の差を見せつけるため、私は強引に右足を持ち上げてアップルの手を振り払い、そのまま垂直に振り下ろして彼女の鼻っ柱を踏みつぶす。

「きゃぁーーーっ!」

 制裁はまだ終わらない。右足を動かし、今度はアゴを強く蹴る。これで失神の状態異常が発生したはずだ、しばらく動けないだろう。
 トドメとばかりに今度は胸を踏み、アップルの顔を見下ろし、私は語る。

「まぁざっとこんなものだ。私は本気など出していない、にもかかわらず君はもうグロッギー。みじめだな?」
「ろくでなし……」
「うん?」
「ろくでなしだ。あなたはろくでなし、根性のねじ曲がったクズ!」
「何を言うか。それはむしろ君のほうだろう」
「こんな酷いことをして……!」
「おいおい、私は悪いことなど何もしていないぞ? いつ法を破った? いつ利用規約を破った? いつチートや不正改造をした?
 私は、ゲームのルールが認めている範囲内で普通にプレイした。なのになぜ君は非難する?」
「あなたのやってることはマナー違反だからだ! 非常識で非道徳的、非人間的だからだ!」
「はぁ……。やれやれ」

 ため息をつき、話を続ける。

「いいか、アップル。ゲームも現実も、弱肉強食のルールで成り立っている。
 すなわち、強い者が弱い者をぶちのめし、殺し、財産を奪う。そしてそれを非難されることはいっさい無い、最強の存在は誰にも処罰されない」
「そんなの間違ってる!」
「だがよく考えてみろ。ライオンがウサギを食い殺して、いったいどこがおかしい? 猫がネズミをいたぶって、なにがおかしい? どれも当たり前のことだ。
 強い者には弱い者を好きなように扱う権利がある。生殺与奪、相手を生かすも殺すも自由」
「それは野生動物のルールだ! 人間社会じゃそんなのあり得ない!」
「同じだよ。野生動物も、人間社会も。納得がいかないなら例を挙げて説明しよう。
 強い白人が弱い黒人をさらい、奴隷として扱い、反逆者が出れば片っ端から処罰した。
 戦争に勝った国が負けた国を征服し、土地や財産を奪い、都合のいい植民地にした」

 アップルは怒りのこもった声で言う。

「それは過去の話だ!」
「本当にそうか? 似たようなこと、すなわち、強い者が弱い者を支配して好きなように扱うこと、それ自体は現代でもたくさんある。
 金持ちや権力者は、自分たちに都合のいい法律や監視社会を作り、貧乏人を支配し、過酷な条件で働かせている。
 そして、それを”おかしい”と指摘したり、逆らったりする人間は、片っ端からリトル・マザーの手先に殺される。
 学校においてもそうだ。健康な子どもがひ弱な子どもや障害者をいじめる。場合によっては相手が自殺するまでいじめる、そして大した罰は受けない」
「それは……」
「なぁ、アップル、一つ教えて欲しい。以前から誰かに聞いてみたいと思っていたのだ。
 自分の言うことを聞かない人間を武力で脅すと、脅迫の罪によって逮捕され、裁かれる。
 だが、権力や経済力で脅すと、なぜか全くおとがめなしで済んでしまう。それはなぜなのだ?」
「どういう……」
「相手に銃やナイフを突きつけ、金を出せと脅す。これは犯罪だな。
 ではこれは? 社長が平社員を呼んで、これこれの仕事をしろと命じる。もし社員が拒否すると、首にするとか、給料を減らすとか、そうやって強要する。
 私の考えによれば、これもまた一つの脅迫、まごうことなき犯罪だ。しかし誰も非難しない。誰も社長を逮捕しない、裁かない。
 テレビ局が政府を批判する番組を作る。政治家から電話やメールが飛んでくる、局は圧力に負けて番組を取り下げてしまう。これも犯罪じみているのに裁かれないな。
 脅迫という罪は、なぜ武力を用いた場合のみが問題となるのだ。なぜだ?」

 私はソードの切っ先をアップルの顔に突きつけ、澄みきった気持ちで話す。

「現実世界において、多くの人間が私を嘲った。侮辱し、唾を吐き、非暴力的なやり方でいじめた。
 だが奴らはそのツケをまったく払わずに私の人生からいなくなった。己の有利さを武器にして人をいじめ、そして報復される前に逃げる。これは正義なのか?」
「レーヴェ、あなたは……」
「かつて私はニーチェの論文をいくつか読んだ。そして学んだ、人間には弱い者いじめをして喜ぶ性質があるのだと。
 君は『道徳の系譜』を読んだか? もし読んだのなら、こう書かれてあったのを覚えていないか?

(引用。第111話と同じ)

”苦しむのを見ることは快適である。苦しませることは一層快適である――これは一つの冷酷な命題だ。
 しかも一つの古い、力強い、人間的な、余りに人間的な根本命題だ”

 私はニーチェの意見に賛成する。人間は他人が苦しむのを見ることが好きで、自分が他人を苦しませることはもっと大好き。
 そういう悪魔のような生き物、いや、悪魔そのものだ。ならば問いかけよう」

 自分でも驚くほど冷たい声が私の口から流れ出す。

「世界すべてが弱肉強食のルールによって成り立ち、強い者には弱い者を好きに扱う権利があるのなら。
 ゲームの世界において、課金によって強い者となり、微課金や無課金という弱い者をぶちのめし、いじめの喜びを味わうことは、何が問題なのだ。
 繰り返して言うが、私は法を破っていない。利用規約も破っていない、チートも不正改造もしていない。
 私は、ゲームのルールが認めている範囲内で普通にプレイした。なのになぜ君は非難する? 私の何が悪なのだ……?」

 凍りついたような静けさが訪れる。
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