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人形笑い飛ばす
しおりを挟む奏那は激情型の人間だ。
弱いものは助け、強いものを挫く。そんなヒーローみたいな人間だ。自分に素直で、感情のままに怒り、泣き、笑う。他人を許すことができるし、他人を認めることができる。柔軟で、とても優しい人だった。
私が恐怖で震えていていると、いつでも彼女は怒りを含ませて、その恐怖のもとを叱りつけてくれた。
電車の中で痴漢にあったときも、般若の様な顔で "無闇矢鱈に動くな。じっとしてろ。" っとおじさんに怒ってくれた。
恐怖に震え、何も出来ない私を救ってくれたのは、いつでも彼女だった。
(…殺してやる…!絶対許さない!……遥?遥、大丈夫だから。落ち着いて。)
そう言って、奏那はいつものように私を安心させてくれた。怖いのは、奏那も同じはずなのに。きっと、私の恐怖に震える声が聞こえたんだと思う。奏那のおかげで、じわじわと溢れてきた恐怖が引いていく。
流石だ。もし奏那が男なら、今すぐプロポーズしたいくらいだ。かっこよすぎる。ゆっくり、深呼吸をイメージして言葉をかける。奏那にお礼を言わなければ。
(奏那。ありがとう。落ち着いた。)
(うん。すごく腹立つけど、これからのことを考えよう。パニックになっても何も変わらないから、笑って受け止められるようにしよう。そっちの方がマシだよ。そんで、何をしたらいいか考えて。私、細かいこと考えるの苦手だし。)
(そうだね。わかった。笑って受け止める!前向きにならないとね。元の世界が本当に無くなってしまったのか、調べよう。本当にそんなことをした人間がいるなら復讐しよう。)
(うん、ちゃんと調べて二人で復讐しよう。)
奏那はゆっくりと繰り返した。
誇らしげに賢者様の話をしている男に意識を向けて、改めて集中する。まずは情報が必要だ。自分達が生き残る情報が。元の世界の情報が。よし、調子が戻ってきた。笑って前向きに考えなきゃ。怒りや恐怖で我を失っちゃダメだ。落ち着こう。
そこで、少し掠れたハスキーな男性の声が聞こえてきた。
『なるほど、賢者様がその様な秘術を……。魂があったとされるその世界は、今どの様になっているのか"見る"事は出来るか?私も一国の宰相なる身、やはり気になるのだが。』
宰相さんっ!グッジョブ!
奏那も同じ気持ちだったのか、掌をスリスリさせているイメージを頭の中に送り込んできた。
こらっ、真面目に聞きなさいっ。
『ええ。ええ。そうでしょうとも宰相様。私も賢者様へ伺いました。しかし、賢者様の魔力の消耗が激しく現在は"見る"ことは出来ないとのことでございました。魔力が回復次第確認をし、それを伝えるとのことでございます。』
『なるほど、わかった。』
宰相さんが頷き周りも納得した様子だった。魔力が回復し終わるのがいつなのか、どのくらいで回復するのかが知りたい。その辺、詳しく聞いて欲しかった。
奏那も、ハンカチをキーッと噛みしめるイメージを送ってきた。
楽しんでやがる。
いや、私を励まそうと、わざとおちゃらけているのかもしれない。
いつでも、笑いは恐怖や怒りを吹っ飛ばしてくれるのだ。
『こほんっ。えーっ。どこまで話しましたかね。そうそう。こほんっ。得てして、この人形は賢者様によって生を与えられたのでございます!この魂がどの様な物であるかは、今後の動向を見ながら確認していく事になりますが、我ら人間に危害を加える事は出来ませんのでご安心ください。賢者様により、この人形自体に魔法陣を書き込んでおります。人間への絶対服従の魔法陣です。ええ、皆様もご存知かと。獣人や魔人などの奴隷にも使用されている魔法陣でございます。』
マニュアルでも作っていたのだろう。男は先程と同じ様に言葉に抑揚をつけ、上手く間を取りつつ話を進めていく。
とんでもない単語が聞こえてきた。"絶対服従" "奴隷"。
やばい。本当にそんな魔法陣が自分達に施されているなら、私達はこの先奴隷として使われる事になる。
おそらく、周りにいるこの人たちは、私達の事を人形としか認識していないだろう。そして、奴隷がいるこの世界はきっと人に対する扱いが軽い、人形に対してならもっと軽いだろう。
賢者様とやらが作った人形で、物理も魔法も効かない身体であるなら、痛めつけられても傷つくことはない。しかし、自由の効かない身体で反抗することも出来ず、精神的にすり減らされる事が目に見えてる。
(こ~の~やろ~~!!)
私が、ムンクの叫びポーズで愕然としている中、奏那から怒りに震えた声が届いた。
相当怒っているらしい。賢者と書かれた紙を貼り付けた藁人形をブンブン振り回してるイメージが送られてきた。
怒り心頭ですわね。金槌と釘をかしましょうか?
『そして、この人形には今までの常識を覆す特別な能力を付けております!さぁさぁ!ご覧ください!まずは目でございます。"目を開けよ" 』
その男の命令はすんなりと人形の体に届いたらしい。
今まで、全く動かなかった瞼がゆっくり開いた。眩しいまでの光が届き、目の前にたくさんの人がいるのが見える。そこは、まるで煌びやかな法廷のようで、人々は階段のように段々になっている椅子に座っている。扇型に広がっている席から、私と私の斜め右前にいる男を見下ろしていた。
目の前には立派な金の冠をかぶり、一際輝く椅子に座っているお爺さんがいる。きっと、このお爺さんが王様に違いない。サンタクロースをちょっとやつれさせたようなお爺さんで、唇の左側が不自然なくらい持ち上がり曲がっていた。
(おお~~!見える!人がたくさんいる!)
さっきの怒りも吹っ飛んだ様子で、奏那が歓声をあげた。
『さて、こちらの人形をご覧ください。右目は鑑定の魔石をはめ込んでおります。物や人物、食べ物の中に含まれる毒物に至るまで、詳細に見る事ができます。こちらを使い、毒味役を使わずとも安全な食事をとる事ができるでしょう!そして、左目は探知の魔石でございます。魔力に限度が無いため、この国内でしたら全てを探知することができます。敵の位置を知らせ、見つけ出すことができます!帝国からの間者も瞬く間に駆逐できることでしょう!』
男は私の目を指しながらペラペラと説明する。
鑑定眼に、探知眼。なんと便利な!!やったぜ!チート!!
(遥すげー!チートだ!すげー!)
奏那も興奮したように騒いでいる。私は、ドヤ顔をイメージして奏那に送りつけた。
『そして、隣のこちらの人形。右目は時止めの魔石をはめ込んでおります。最長で30秒間、物や生き物の動きを止めることができます!不意打ちで攻撃をされたとしても、すぐさま返り討ちにできるでしょう!左目は特別製でございます。消去の魔石!賢者様自ら作り、生き物以外のあらゆる物を消去させることができるのです!そして、消去したものは、再び目の前に出すことができます!この魔石はこの世に二つと無いものでございます!あらゆる偶然が重なり出来たものでございますので、賢者様自身も驚いておられました!まさに、人に巣食う病も毒も何もかもを消去することができるのです!』
私の前にいた男が左側に移動し、声高々に言い切ると、素晴らしい!と、周りの人が拍手をしだした。
奏那は左側にいたらしい。左側から、ドヤ顔が三連続で届いた。
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