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人形ショックを受ける
しおりを挟む目指す街も決まり、私達は早々に王都を出ることにした。
不自然に感じない程度の早歩きで西へ向かう。
途中、何度も立ち止まる奏那を宥めながら進む。
(お願い!あれも欲しいの!)
奏那からのおねだりはこれで10回目だ。
(わかったから、早く買って。)
少々苦笑いしながら了承すると、飛び跳ねながら目的の屋台へ走った。
そう、奏那がおねだりする物は屋台の品である。初めて見つけた時は、興奮のあまり屋台に抱きつき、屋台のおばさんが叫び声をあげるという、アクシデントもあった。急いで品物を購入して、奏那を引きずりながら、お説教をするはめになったのだ。
(買って来たよ!遥の分も!大丈夫、問題なんて一つも起こしてないから!)
意気揚々と戻ってきた奏那の手に握られてるのは、大きな串に刺さった肉の塊。
そう、奏那はお肉が大好きなのだ。
元の世界にいた時も、花火大会やお花見の時に出る、屋台に並々ならぬ執着を見せ、鼻息荒く焼き鳥などを買いあさっていた。
一度、私が食べ終わった袋をまとめて、捨たことがある。
その時、袋の中には奏那が最後に食べようと大事にとっておいた、ジャンボネギマが入っていたらしい。そんなことを知りもせず、ゴミを捨てて帰ってくると、階段の淵に腰掛けながらこちらをギラギラと睨んでくる奏那がいた。
私のジャンボネギマ……
その言葉は一年たっても二年たっても聞く事になった。
たかが、焼き鳥の一本二本べつにいいじゃない。っと内心では思いつつ、誠心誠意謝罪することになったのは、懐かしい思い出だ。
そんな、お肉大好きな奏那がお肉を売っている屋台を素通りできるはずもなく、毎度飛び跳ねながら購入していくことになった。
このままダラダラと時間が過ぎることに危機感を覚えた私は、奏那が嬉しそうに両手に抱えるお肉達を奪う事にした。
奏那は、お肉達を魔眼に収納することを嫌がり、雑貨屋で購入した皮袋に詰めて抱えていたのだ。
それを一瞬の隙をついて奪い、猛ダッシュで西へ向かう。
奏那は一瞬何が起こったのかわからず、立ち尽くしたが、我に返って追いかけてきた。
(私の!お肉!)
途切れ途切れに奏那からの言葉が届くが、それに構うことなく全力で走る。
(あんたの!分も!あるって言った!返せ~~!!)
私が、奏那の分まで食べようとしていると思っているらしい。
そんなことする筈がないのに。単純な奏那は自分が好きな物は他人も好きだと思っている。私は肉より魚派なのに。
そのまま、西の門まで追いかけっこをして、2時間かかってようやくたどり着く。
門から少し離れた場所にピタリと立ち止まった私に襲いかかるように奏那が迫ってきた。
(奏那、ストップ。ほら、お肉返すから。)
(あ、え?ありがと)
素直に止まり、きょとんとしながら皮袋を受け取る奏那。
それを見て、頷きながら奏那にお願いする。
(お肉は返したから、この門の脇の所を消去して。お願い。)
門では、10人程の兵士が出入りする人々をチェックしていた。
このまま真っ正面から行っても、素直に出してはくれないだろうと思い、門よりすこし離れた壁を消して外に出る事にした。
奏那は、わかった。と頷き、門からは見えない位置に移動する。
両手に抱えていた大量の荷物を片手に移し、やりずらそうにもう一方の手で城壁に触れると、人一人が通れそうな大きさの穴があいた。
持ちづらいなら、持ってあげるのに。と、内心苦笑いしながら穴を潜り抜け、同じように穴を塞ぐ奏那を見つめる。
(あんた、わざとやったのね?私から肉を奪うなんて、あんたらしくないもん。)
奏那がじとっとした目で私を見る。
(それに、あんたは魚派だったよね。)
今頃気づいたか。おバカさんめ。
と思いながら、言い訳をする。
(だって、全然進まないんだもん。あのままいたら、見つかるじゃん。)
奏那は不機嫌そうに、ふんっと言って私の後に続き歩き出した。その手には、大事にそうに肉を抱えている。
私は、下降する奏那の機嫌をどうにか戻したくて、歩きながら考えた。
(奏那。ほら、冷めちゃうよ。食べていいよ。私の分もあげるから。)
私は、自分の分のお肉を犠牲にする事にした。
(え!いいの?ありがとう!魚はあんたにあげるからね!)
ふふふっと笑いながらそう言う奏那に、単純って素晴らしいと実感する。私が内心、しめしめっと思っていることすら気づいていないだろう。
後ろで、ゴソゴソと最初に口にするお肉を選別しながらついてくる奏那に構う事なく、探知を使用して地図と見比べながら歩く。
しばらくして、突然後ろから泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
慌てて後ろを振り返ると、少し離れた位置に奏那が膝をついた状態で項垂れていた。
(え?え?何があったの?どうしたの?)
急いでかけより、奏那の背中を撫でながら聞くと、お肉の味がしない。と、途切れ途切れに伝えてきた。
この人形には味覚が備わっていないらしい。思えば、屋台から漂う匂いもしなかった。
(あ~~……)
納得して、奏那の背中を撫でる。
(もう、やだ。こんな世界。味がしない肉なんて、私の知ってる肉じゃない。帰りたい。お肉食べたい。)
グズグズと、愚痴を漏らしながら項垂れる奏那に、どうやって元気を出してもらえるのか、必死に考える。
しばらくの間、頭を悩ませていたが、ふと閃いた。
(奏那、魔石があるよ!あの弟子が言ってたじゃん!私達の爪の魔石は、魔石屋で好きなようにカスタマイズできるって!味覚と嗅覚の魔石を作ってもらえばいいんだよ!)
奏那はそれを聞き、目を輝かせて同意した。
(そうだね!遥頭いい!そうしよう!街についたら魔石屋にすぐいこう!)
元気を取り戻してくれて一安心だが、魔石の話は確証がなく、そんな魔石が本当に作れるのか半信半疑だった。
宥める為にもっともらしいことを言ったけど、もしそんな魔石が存在せず、作れることが出来なかった場合はどうしようかと、また頭を悩ませることになった。
まぁ、一時的でも奏那を元気付けることが出来たので、あとは魔石屋に頼むしかない。
(本当はしたくないけど、もったいないからお肉は魔眼にしまっておく!)
ルンルンしながらお肉を消す奏那に、胸の内の不安を隠しながら先を進むことにした。
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