双人形ハルカカナタの異世界生活

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人形最強アイテムを手に入れる

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人形であるこの身体は、食べ物を必要としていない。だから、味覚も嗅覚も備わっていなかった。
この身体の内部を調べてみると、人間に必要とされている内臓や器官が一つも無いことがわかった。
ただ、口から通じて身体の中に、大きめの空間があった。
おそらく、消去魔眼の効果が収納だと知らなかった為、このような収納スペースを作ったのだろう。
口の中に収納スペースを作るなんて趣味の悪いことをするもんだ。


しかし、このスペースは、食べる事を望んでいる私達にとってはすごくありがたいものだった。
排泄機能がない為、奏多には定期的に消去してもらうしかないだろうと思うが、引き受けてくれるだろうか。大量の皮袋を購入し、あらかじめ魔眼の中に収納しておき、その皮袋の中に消去したものを入れていってもらえば、やってもらえるかもしれない。そこは交渉してみよう。



まぁ、とにかく、この様に人形の身体は完璧だけど多少の不便さもあった。


睡眠に関しても、私達にとっては不便さの一つだった。


睡眠とは心地よい、至福のひととき。
それなのに、この身体は眠るという行為を行うことが出来なかった。
あぁ、地球にいた頃が懐かしい。柔らかな布団に包まれて、穏やかな時間を過ごすあの時間。すぅ、と意識を引き込まれるあの瞬間。二度寝をした時のあの心地いい瞬間。

そのどれもが、幻かのように消えてしまったのだ。

目を瞑り、じっとしていても眠気は一向に訪れず、意識がある状態で心を無にすることしかできなかった。

身体は元々疲れていないし、精神的にもだるいと感じない。
これが、人形仕様のようだ。




洞窟の中でその事実を確認した私達は、ため息を吐きつつ、これからはなるべく眠るフリだけでもしよう、と話し合った。
元々は睡眠を必要としていたのだ、それを突然しなくなるというのは少し怖いことのように感じた。








長い夜を越え、やっと朝を迎えた。
明かりが洞窟内に差し込んできたことを確認して、探知魔眼を忘れず発動しながら、道無き道をまた進んだ。


今日も見た事もない花や草に声をあげて喜んでいたが、湖の近くに馴れ親しんだ植物が大量に生えているのを見つけ、今日一番の歓声あげた。
それは、私達のソウルフード"米"だった。

見た目がそのまま稲の形をしていたので、鑑定する前に奏那が見つけてくれたのだ。
鑑定結果は、その実は毒もなく食用可能と書いてあった。
とてもシンプルな説明だったが、私達は迷うことなく辺りの米を刈り尽くした。


かなりの時間を使いつつも、私達は満足気にまた先へ進んだ。
米という最強アイテムを手に入れた私達は、無敵だった。


(漬物!ナス、白菜、キュウリ、大根!)

(くぅ~!唐揚げ、ハンバーグ、焼肉、トンカツ!)

(あぁ~!お刺身、焼き魚、煮魚!鮭!)

(はぁ………!カレーライス、親子丼、牛丼、豚丼、ジャンボネギマ!)


脳内の空腹ボルテージがどんどん上がっていく中、最後には"味覚があれば………"という、奏那の呟きによって、料理名言い合いは終了した。
無敵時間は長くは続かず、敵は己にあった。









その後も、何度か採取に時間を取られ、街に到着するのは5日もかかった。


その間、夜は洞窟や木の下で休憩をとった。ある日は、魔石を使いキャンプファイアーを楽しみ。ある日は、風の魔石で空を飛ぶ練習をして過ごした。



空を飛ぶという野望は、回転しながら空中に投げ出された奏那の、"これはダメだ"という言葉で惜しくも砕てしまった。
その光景は、少し離れた所で見守っていた私の脳裏にきっちりと記憶されている。竜巻のような風に巻き上げられ、無言で飛び上がっていく美しい人形。早口で脳に直接届く奏那の声。


(うわっ、やばいやばいやばい、ダメだ、ちょっ、うわっ、これはいかん)


ピューンと、呆気なく飛ばされ、すぐに落ちて来た奏那は、身体能力が高いこの身体を器用に使い、美しく着地した。
この一連の光景に、私は笑いが止まらなかった。きっと、前の体なら涙を流して腹を抱えていたことだろう。


それ以降奏那には、昼でも夜でも所構わず、飛び上がるという癖がついた。
最後には、(とうっ!)という掛け声を上げて、クルクル回りながらではあるが、綺麗に飛び上がることができたようで、満足気だった。

空を自由に飛びたいと言う夢はどこかに置き忘れたようだ。

ようやく、街が見えてきた時には、奏那は二段ジャンプをマスターしていた。





結構な速さで移動することができる私達でさえ5日もかかったのだ。普通の人間なら、早くとも10日はかかるだろう。

私達が通って来た道は、山を迂回せずに真っ直ぐなルートだったので、地図にある通常のルートを通って来たなら、もっと時間がかかっていたと思う。




無事にたどり着けたことに安堵しつつ、街を囲む塀を消し、街に入ることに成功した。

話すことが出来ない私達には、門を堂々と通ることは難しく、身分を表す物が何もない為、仕方ない。


(なんか、この世界に来てから、犯罪しかしてないね。私達。)


奏那の、ぽつりと呟いた言葉が胸に刺さる。
城から逃亡し、お宝を盗み、不法に入国する。


(後ろめたいことばっかり。せめて、困ってる人がいたら助けたりしよう。なんとか、それでチャラにしよう。)


犯した罪を人助けで上書きする作戦だ。やらしい考え方ではあるが、私は即座に同意した。




新たにたどり着いたこの国は、ガボン国と言う名前らしい。
地図で見たところ、周りを大きな山で囲まれており、たくさんの街が集まって一つの国になっている。中心の一際大きな街が首都のようだ。

私達が逃げ出して来た最初の国は、カリオス王国という国で、地図で見る範囲の中では一番大きな国だった。


なんとなく某アニメの名前に似ている。


(私たちが盗んだのは、姫様の心じゃなかったけどね。)


某アニメのあの主人公を思い出し、今だったらあの見事な屋根ジャンプが出来るね、っと笑いあった。


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