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人形冒険者になれず
しおりを挟む街についてから、私達がまず向かったのは雑貨屋だった。
皮袋と紙と羽ペンやインクを店にあるだけ購入する。
声が出せない私達には、筆談用の紙がどうしても必要な物だったのだ。
城から貰って来た本を読んでいる時に、気づいたことだが、私達はこの世界の言葉を読むことも書くこともできた。
何故問題なくそんなことができるのかわからないが、いい贈り物をもらったと喜んでおこう。
そして、必要な物を無事購入できた私達は、魔石屋に向かった。
雑貨屋の主人が丁寧に書いてくれた地図を片手に、しばらく歩くと魔石屋にたどり着いた。
中に入ると、10歳くらいの少年がカウンターで魔石を磨いており、
私達がカウンターに近づくと、顔を上げて、いらっしゃい!っと元気よく迎えてくれた。
カウンターに紙を置き、魔石を買いたいと書く。
少年は、それをしばらく見つめてから、紙を持ち奥へと入って行ってしまった。
奏那と目を合わせて困惑しつつ大人しく待っていると、先ほどの少年はすぐに戻って来た。後ろには、眼鏡をかけた黒髪の中年男性が笑顔でついてきた。
男性は、紙に"どのような魔石をご希望ですか?"と、達筆な字で書いたので、私も続けて紙に文字を書き会話をする。
【喋れませんが、聞くことはできるのでそのまま話して下さって大丈夫です。味覚と嗅覚を感じさせる魔石はありますか?】
『味覚?嗅覚?えーっと。どのような効果があるんでしょう?』
【食べ物の味や匂いがわかる魔石です】
『なるほど、初めて聞きましたね。今こちらにはありませんが作ってみることは出来るかもしれません。』
(わー!!本当に?!よろしくお願いします!)
その言葉を聞き、奏那は大喜びで男性の手を握りぶんぶん振っていた。
【よろしくお願いします。どのくらいでできますか?】
『えっ。あ、あの、作ったことが無いので、どのくらいかかるか………』
【では、3日後にまたきます。】
突然手をぶんぶん振られた男性は、困惑しつつ頷く。
喜びのあまり歌い出した奏那を、引きずりながら私達は魔石屋を後にした。
その後は街中をブラブラ歩きながら、味覚が手に入った時の為に鍋や包丁などの調理器具や、調味料を買い込んだ。
元の世界では、料理を得意としていた私は、張り切って店を回ったが、泡立て器やピーラーなどの便利グッズは無かった。
もちろん、調味料も醤油や味噌は無く、ひどく落ち込んだ。
(新鮮な刺身を食べられたとしても、醤油が無ければ味が半減するよ~。悲しすぎる………)
(まぁ、元気出してよ。何とか作るか見つけるかしよう!)
(………そうだね。味覚の魔石を手に入れたら海の方に行きたい。魚醤ならあるかもしれないし。)
(おっけー!………それよりさ、さっきから剣とか槍とか持った人があの建物に入っていくんだけど、もしかして冒険者ギルドなんじゃない?!)
異世界の定番中の定番、冒険者ギルド。
私は醤油のことなんてすっかり忘れて、奏那とその建物へ向かった。
中へ入ると結構な広さがあり、まるで学校の教室のように、机や椅子が綺麗に並べられていた。
思ってたんと違う。
これが異世界使用のギルドなのだろうか。
扉をくぐってから、ぽけっと立ち止まっていた私達の後ろから男性が話しかけてきた。
『おう。嬢ちゃん達何か用かい?』
振り返ると、ライオンみたいな毛もじゃの大柄な男性が立っていた。
髪もヒゲも顔を隠れるほどの毛もじゃっぷりだったので、獣人かと思ったが普通の人間だった。
私は急いで紙を取り出し、会話をした。
毛もじゃの男性は、その見た目とは裏腹に親切丁寧に色々教えてくれた。
ここは、傭兵団の支部で関係者以外立ち入り禁止。
傭兵団とは、店や個人、時には国から様々な依頼を受け、動く集団である。
仕事中や休暇中の人間以外が、毎日朝8時に集合し、その日の依頼を聞き、働く。
給料は月々固定だが、依頼内容などでお手当てがもらえる。
人によって、能力が異なる為、その人に合った仕事を任される。
もし、入りたければ、面接と試験を受ければいい。
冒険者ギルド?そんなもの聞いたこともないし、知らない。
傭兵団は、真っ当な会社だった。
そして、この毛もじゃの男性は、立派な社員だったのだ。
それにこの世界には冒険者ギルド無いらしい。
毛もじゃの男性の話は想像とは異なる内容だった。
異世界の定番と出会うのはそんなに甘くないらしい。
その毛もじゃのヒゲを剃ったほうが、出世できますよ。っと、心の中でアドバイスしながら、お辞儀をして傭兵団支部を後にした。
この世界に来てから、落差が激しい。チートに喜んだり、味覚が無く落ち込んだり。
(あまり多くを期待し過ぎるとダメだね~)
(そうだね。でも、冒険者ギルド無いなら、私たちが作ればいいんじゃない?やって見たいじゃん。)
(やだよ。そんな大掛かりなこと。話せないハンデもあるし、第一この世界の常識知らないじゃん。)
(うーん。大きいのじゃなくて、二人だけで便利屋みたいな感じでさ。やってみたくない?)
(なるほどね!それならいいかも。いい感じの国を見つけたら、やってみよう!)
この先、やるかもわからない便利屋の名前を相談しながら、私達は街を出て森の中に入った。
街には、もちろん宿屋があった。
しかし、寝ることが必要ではない私達にとって、宿屋に泊まっても意味が無かった為、森の中で過ごすことにした。
私は、元々山歩きは大好きだし、様々な植物に囲まれて本を読んだり、採取するのは楽しくて仕方がなかった。それに、この人形の身体は虫にも刺されないし、傷もつかず、草の上で寝転んでも、全く違和感がない。この素晴らしさは、宿屋では味わえないだろう。
奏那も同じ意見だったようだ。
私の意見を聞き、同意を示した後で、それにジャンプも出来ないもんね!っと言われたが、私は即座に同意出来ず、曖昧に頷いておいた。
奏那は奏那なりに森を楽しんでいるようだ。
森に入り奥の方へ進むと、綺麗な川を見つけたので、しばらくそこで過ごすことにした。
パパッと服を脱いでから、水に飛び込み雑貨屋で購入した石鹸で身体を洗う。
何度も移動中に同じように水浴びをしたが、嬉しいことに冷たいはずの水の温度は全く感じず、快適に身体を洗うことができた。
新しい服を着て、脱いだ服を洗う。
この作業は、洗濯機を使い慣れた私達には辛かった。
愚痴を言いつつも洗っていた奏那が、その頭脳を働かせて、鍋と魔石を使って洗濯機を再現させるということを思いついた。
私は何も言わず黙っていた。
すると案の定、鍋は大きく円を書きながらどこかに吹っ飛んでいった。
奏那は焦りながら、鍋を拾いに走って追いかけていく。
私はその後ろ姿に元気に手を振り見送った。
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