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人形強くなる誓いを立てる

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賢者の弟子。
彼とまた会うことは予想していた。だけど、こんなことは予想してなかった。
探知も鑑定も出来ないなんて。


(腹立つ~~!ねぇ、やっぱり一回戻って、叩き潰さない?ディリーも腹立つでしょ?このままじゃ、スッキリしないよね?)


なんだか、奏那が燃えている。
その気持ちはわかる、でも私は腹立つよりも、恐怖と不安が勝つんだけど。


(姉上様落ち着いて。あいつらは得体が知れません。ここは、一度引いて家族と合流するのがいいかと。古龍王様の元へ参りましょう。)


ディリーの声は少し震えていた。やっぱり怖かったのだろうか。
私もだよ、ディリー!あいつら超怖いよね!震えるよね!

うんうん、頷きながら私はディリーの首元をポンポン叩いた。


(……グゥゥ。しかし、腹立つのも確かですね。ヤりますか?やっぱり、ヤっちゃいますか?)


あ、恐怖じゃなかったらしい。

私は、暴走モードに走りそうな二人を必死で説得することにした。


(ま、まって!二人とも、落ち着いて。確かに腹立つけど、他の家族に心配させたまま、弟子とやり合うのはまずいよ。ディリーが言ったように、せめて、皆と合流してからにしようよ。それにね、探知も鑑定も出来ないから、その理由も探さなきゃいけないし、なんで場所がわかったのかも考えなきゃ!ね?今はこっちが不利だよ。あ、いや、私達が弱いんじゃないよ?ほら、正義の味方は一度負けかけるじゃん?でも最後は必ず勝つ!今が負けかける時なんだよ。今度会うときは最強になって勝てばいいんだよ!あいつらに負けない程強くなって見返してやろうよ!ね!あ!今でも強いよ!2人は強い!でも、ほら正義の味方はこっそり修行するじゃん、今からがその期間なんだよ!ね!)


二人がニヤニヤして、仕方がない正義の味方だもんね私達!っと撤退することを前向きに考えるまで、正義の味方のあれこれを、私は話し続けた。


(そうだね!うん!なんか正義の味方っていい感じだよね!こうやって魔法とか使いたい放題だと、正義の味方ってすごくいい!)


私は間違ってなかった。これでよかったのだ。




なぜなら
奏那は元々、妄想が大好きだ。…もちろん私もだけど。
よく、二人で一緒に妄想話に花を咲かせていたものだ。

その内容の大半は、突然銀行強盗に遭遇したら?や、突然バスジャックに遭遇したら?などだった。その妄想の中での私達は、武術の達人並みに強い設定で、犯人の気をそらしてから無力化するスーパーマンだったのだ。

そう、私は知っていた。
奏那は根っからのスーパーマン気質だってことを。


"正義の味方"方向で奏那の暴走を止められることを確信した私は、これを今後うまく活用することに決めた。


私の心の中を知りもせず、奏那とディリーは修行について話し合っていた。


(ほう。姉上様は、剣を学びたいのですか?残念ながら、我らには剣を扱うことはできません。あ、でも魔法の訓練でしたら付き合いますよ!)

(おお!魔法教えてくれるの?やったね!手のひらからビームとか光の玉とか出して攻撃出来るようになる?)

(もちろん!姉上様なら不可能なことはありませんよ!この星ごと破壊することが出来ますよ!)

(ふふふ。そこまでは望んでないよ。でも、いいね。その最強!)

(ははは!姉上様は元々最強です!そしてこれからは、全ての者が姉上様にひれ伏してその身を差し出すようになるでしょう!)

(ふははははは!私は強くなるぞ!一緒に最強を目指すぞ!)

(ふははははは!もちろんどこまでも付いていきます!!)



え。なんだろう、この戦闘民族的な会話は。
私はそっち側には行かないよ。




(うーん。でも、なんで場所がわかったんだろう?)


奏那は爪にはまっている魔石を取り外しながら、不満気に漏らした。


(うーん。でも、たまたまだったかも?なんか、私達がいることに驚いてた感じだったよね?)


私がそう返事をした瞬間、奏那は魔石を元の場所に戻しつつ、叫んだ。

(ディリー!!)


((えっ?))


突然叫んだ奏那にディリーは震えた。
上に乗せられていた私達にもダイレクトに震えが伝わり、落ちないように箱にしがみつくことになった。


(ヒィエエエエエ!!)


ディリーは奏那への恐怖で変な叫び声を上げていた。

奏那は、ディリーから伝わる揺れを気にする事なく、ディリーの首に近づくと優しく触れた。


(ディリー、大丈夫。じっとして。)

その動きに、私もようやく奏那の考えていることがわかった。


(あ、そっか、ディリーがつけられてたのか。)


その言葉に奏那頷くと、もう大丈夫!とディリーの首をそのまま撫でた。


(やっぱりあったよ。もしかしたら、古龍のみんながつけられてるのかもね。)


ディリーは奏那に撫でられたことで、震えが収まったようだ。


(え?あの、どういうことですか?なにか、してしまいましたか?)

(いや、ディリーが何かしたとかじゃないよ。奴らが、ディリーを追跡してたんだよ。でも、もう消したから安心して。)


奏那の言葉を聞いて、ディリーはグゥゥっと声を漏らした。


(そうでしたか、ありがとうございます。………それは、古龍全員につけられている可能性があるんですよね?)

(うん、調べて見ないとわかんないけど。多分ね。)

(………そうですか。)


ディリーは、悔しそうにグゥゥ、グゥゥっと何度か鳴き、奏那に再度強くなることを誓った。


(姉上様。先程、言ったこと本当ですから。姉上様は最強ですから。でも、そんな姉上様方を守れるほど強くなりますから。)


そんなディリーの真剣な言葉を聞き、私もディリーの首を撫でた。


(わかってるよ。私達も守るから。)



奏那はポンポンと、ディリーを叩いてから笑い声をあげた。

(じゃあ、まずは丈夫な体を作らないとね!!美味しいご飯を食べないと!料理長頼むよ!早めに醤油と味噌をよろしくね!)


(ははは!!そうですね!しっかり体から作らないといけないですね!姉上様、そのショウユとミソを是非このディリーにも食べさせてください!)

(ディリー、一度食べたらやみつきになるよ~!魚にも肉にも、何にでも合う最高の調味料なんだから!)


(ほほぅ~~!それはヨダレがでますね~!!ところで、さっき食べたハンバーグはまた食べられますか?)

(お?ディリーはハンバーグがお気に入りなの?ふふふ!まだまだ美味しいのたくさんあるよ!もっとたくさん食べさせてあげるからね!)


(わー!楽しみです!姉上様が一番好きなものはなんです?)

(肉だね。)

(ははは!即答ですね!)




私は二人の楽しそうな会話を聞きながら、沈む夕日を眺めた。





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