婚約破棄されたあたしを助けてくれたのは白馬に乗ったお姫様でした

万千澗

文字の大きさ
12 / 85

第十二話「煉燦姫《ブレイズリリー》」

しおりを挟む
 アリシアのペタル取得試験から数日。
 あたしはお金を稼ぐため、委員会に入ろうと校舎を散策していた。
 
 国立第一騎士学園、通称“ホワイトリリー”は軍人を育てる学校。
 軍政国家であるユリリアにとって、ここは公職者や役人を育てる場所でもある。

 そのため、教師はあくまで指導的立ち位置で、城塞都市のような広大な学園を管理するのも生徒達の役割だ。
 学園の中にある店でバイトしている生徒もいるみたいだけど、あたしは委員会に入ることにした。

 委員会の強みはなんと言っても安定。
 活動時間は決められているし、賃金も安定してる。
 委員会は学園の管轄下にあるから面倒事も回ってくるけど、学園が潰れない限りなくなることはほぼ無い。

 問題はなんの委員会に入るか。
 アリシアは学園の最高統括機関である生徒会執行部に所属しているみたいで、委員会に入ろうと思っていることを伝えると生徒会に誘われた。

 もちろん即断った。
 荷が重い、責任が重い、負担が重い。

「そんなとこ、入ったもんなら気が重~い……っと」

 軽くノリながらあたしは目的の委員会室を前にする。
 環境委員会。
 学園内の清掃、庭園の花壇や農園の世話など仕事は多くあるけど、なにぶん汚れ仕事だから志望者は少ないらしい。

 代わりに給料が良い。
 あたしにとってこれ以上の転職はない。

「こちとらドブ掃除から家畜小屋の清掃までやってたんだい。そこらのお嬢様とは経験が違うってわけよ!」

 と、自分を鼓舞してから扉を開ける。
 人が出計らっているのか、広い一室にいるのは何やら事務作業している生徒一人。
 
 華やかさを印象付ける毛先でカールがついた薄明るい茶色の髪。
 前髪はセンターで分けられて、ユリリア人を相手に今更かもしれない端麗な素顔が覗ける。
 勢い余って強く扉を開けたせいか、彼女は見開いてこっちを見ていた。

「あら、お客さん? ごめんなさい、今は皆さん外出してますの。私で良ければ要件を伺いますよ?」

「あ、あたし、サラって言います。環境委員会に入りたいんですけど……」

 反応を伺いながら言うと、彼女は目を輝かせてこっちに来た。

「あら~それは嬉しいわ。ウチは常に人手不足だし、今いる子も自分から率先して来た子は少ないのよ。でも大丈夫? 知ってるとは思うけど、ウチは結構大変よ?」

「あ、それはご心配なく。ドブ溝の掃除やら動物の世話やらいろいろやってましたから」

「そんな子が来てくれるなんて嬉しいわ。ささ、ここに座って。手続きするわ」

 あたしは説明を聞きながら書類を書いていく。
 
「はい、これでサラさんも環境委委員会の一員よ。そういえば自己紹介がまだでしたね。環境委員会会長をしてます、ルミアです。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ。早速ですけど、あたしはどうすれば良いですか?」

 こういうのは初日が大事だ。
 最初の一歩が今後を大きく左右する。
 
「そうですね……。しばらくは先輩方と一緒に行動することになります。ですが、皆さん出てますので今日は私の仕事を――――」

 ルミアさんが仕事を振ろうとしたその時、あたしに負けず劣らず強く扉が開いた。
 あたしは肩をビクッとさせながら扉を開けて肩で息をする生徒を見た。

「ルミア会長! また飼育委員会の連中が!」

「はぁ~またですか……」

 報告を受けたルミアさんは大きく息を吐く。
 突如のトラブルに、走ってきた生徒とルミア会長は行ってしまった。
 状況が読めないまま、とりあえずあたしもついて行った。



 □◆□◆□◆□◆□◆□



 ルミアさんについて行き、現場へと向かう。
 そこには複数の生徒集まり、睨み合うようにして別れていた。

「いい加減にして! 今回で何度目! どんな管理してんのよ!」

「だから乗馬訓練で使った生徒が逃したんだってば! むしろこれだけの被害で済んだだけマシよ!」

 そこには荒れた花園。
 飼育委員会や乗馬訓練と言ってるから、多分馬が逃げて花壇を荒らしたんだろう。

「飼育委員会はウチに負けず劣らずの人材不足。それに加えて授業で使う動物を多数扱うので、必然的に人手による管理が粗末になるんですよ」

「まー動物に触れ合えるって魅力的ですけど、やっぱり世話をするとなるとキツい仕事が多いですからねー」

 あたしは厩務を勤しんでいた頃を思い出す。
 生き物を扱ってるから半端な仕事は出来ない。
 
「それにあの花壇は委員会に入ったばっかりの子が手入れしてたもので、余計に口論に熱が入っているようですね」

 冷静に分析するルミアさん。
 そうこうしている間に一触即発ムードに拍車がかかる。

「痛い目見ないと分からない見たいね!」

「やるってんなら受けてたつわ!!」

 さすがは軍人を育てる学校。
 みんな血気盛んだ。

「マズイわね」

 何かを察したルミアさんは止めに入ろうとする。
 その前に――――、

「そこまで!!」

 対立する二つの集団の中に割って入る豪炎。
 熱気と熱波が今にもぶつかりそうだった生徒を無理やり引き剥がす。

「面倒なことになりましたね」

 ルミアさんはその炎を見て頭を抱えた。
 地面から噴き出るような炎が消えると、そこには一人の生徒が立っていた。

 気の強さが滲み出る眼光、側頭部で束ねられた赤髪。
 胸元にはアリシアと同じトリプルペタルの校章を付け、ホワイトリリーの白い制服にはよく目立つ左腕の腕章。

「誰ですか?」

 状況が理解できずあたしはルミアさんに尋ねた。
 ルミアさんは気が重そうに答える。

「風紀委員……学園から認可を受けて、治安維持のために魔法の行使を許された委員会。その中でも彼女は“煉燦姫ブレイズリリー”と言われる相当の実力者よ」

 あれほど張り詰めた空気が彼女の登場で一変する。
 もう誰も、争いを続けようとする気になっていなかった。

「アタシは風紀委員のクレア。誰か状況を説明して」

 環境委員、飼育委員両方に目をやる。
 もちろん全員口ごもる。
 その場のほとんどがあたしと同じシングルペタルというのもあり、あの鋭い眼光を向けられて堂々と発言出来る人はいなかった。

「私が説明するわ」

 流石に静観とはいかず、ルミアさんが状況説明に入った。
 全員血の気が引いて、ルミアさんの落ち着いた対応もあり状況が悪化することはなさそうだ。

「なるほど。とりあえず環境委員会と飼育委員会の両会長には顛末書を書いてもらうことになりますが、あんまり大事にならないようにしますので」

「ありがとう。貴方が来てくれて助かったわ。あのまま争いになってたら“シース”の私にはどうすることも出来なかったから」

「次から気をつけてください。人によっては書類の提出だけで済まないので。それより……」

 なぜかクレアさんは体を傾け、ルミアさんの後ろで見守るあたしを見た。
 急に目が合ったあたしは、心臓が跳ね上がる。
 肉食獣に狙われたウサギの気分だ。

「彼女は環境委員会に?」

「え、ええ。今日からね。サラさんをご存知で?」

「ええまぁ……。では、アタシはこれで失礼します」

 立ち去る寸前も、その鋭い瞳があたしに向けられた気がした。

 あたし、なんかしたかな…………。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました

山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。 生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。

処理中です...