婚約破棄されたあたしを助けてくれたのは白馬に乗ったお姫様でした

万千澗

文字の大きさ
20 / 85

第二十話「侵入者の魔法」

しおりを挟む
 敵が目の前に現れた瞬間、クレアさんは地面を踏み込んで止まる。
 クレアさんは決して足が遅いわけじゃない。
 けど距離を話していたはずの相手が、今は目の前で立ち塞がっている。

 クレアさんは抱えているあたしを一旦降ろす。
 二本のナイフを華麗に扱う長身の女性は、飄々とした顔でこっちを見ていた。

「今、一瞬で……。どうします?」

「やるしかないわね。さっきと同じ方法で撒いてもアイツの魔法が何か分からない限り追いつかれて逃げてのイタチごっこなだけ。むしろ背中を見せる方が危険よ。それに相手のパートナーが見当たらないのも気になる」

 相手も同じ魔女なら“ブレイド”と“シース”の二人で行動するはず。
 あたしは周りを見渡すも当然ながら人の気配がない。

「サラ、アタシから十メートル以上離れちゃダメよ。瞬間移動か空間移動かそれ以外か。相手の魔法が何か分からないけど、アイツは一瞬で移動できる能力がある。あまり離れるとアンタが狙われた時に対応出来ない」

 指示しながらクレアさんは訓練開始時にかけていた汎用魔法“魔力鎧アーマー”に魔力を流してあたしを保護する。
 
「相手の魔法は干渉型の可能性が高い。干渉型は威力は地味だけど非常に厄介なものも多い。相手に干渉することが出来るタイプなら尚更ね。だからサラ自身も相手をより警戒しなきゃいけないから気を付けなさい」
 
 あたしはアリシアの試験後の話を思い出す。
 “ブレイド”の固有魔法は三種類。
 アリシアやクレアさんのように魔力を光や炎に変換する“変換型”。
 対象に直接影響を与えることが出来る“干渉型”。
 何かを生み出して操る“創造型”。

 クレアさんの読みは相手の魔法は“干渉型”。
 制限や条件があるけど、発動すれば低コストでも非常に厄介な魔法が多くある。
 つまり魔法の対象があたし達の場合、発動すれば一発アウトの可能性がある。

「作戦会議は終わったか?」

 かったるそうに身体を伸ばす侵入者の女。
 クレアさんが戦闘態勢の構えに入ると虚ろな目をカッと開いて特攻する。

「ヒャァッ!!」

「くっ!?」

 武器はナイフ。
 それでも長い手足を活かしたリーチがクレアさんを襲う。
 クレアさんは流石の足技で防いでいるけど、後手に回っているのは変わらない。

「こんのぉ!!」

 クレアさんは爆炎で応戦する。
 相手のリーチもクレアさんの広範囲な攻撃なら――――

「ちょこまかと鬱陶しいわねっ!」

 苛立つクレアさん。
 クレアさんが焼き尽くした場所には敵の姿が無く、離れた場所に移動していた。
 クレアさんの魔法を見て平静でいられるのは戦闘の経験値が豊富の証拠。

「いいのか? そんなに魔力を消費して」

「アンタを灰に出来るなら安い先行投資よ。アンタの魔法も何となく分かってきたしね」

 クレアさんはソルレットの種器シードを纏った爪先で地面を軽く抉りながら、勝気な笑みを浮かべる。

「アンタの種器シードはその二本のナイフ。魔法はそのナイフのあるところへ瞬時に移動が出来る。ただ、おそらく解花ブルームの能力は別にあるわね」

「いい分析だ。まぁあれだけ見せりゃ見当もつくか。じゃあ解花ブルームの魔法も見せてやらぁ……」

 敵は右手のナイフを見せつける。
 刀身の切っ先が僅かに赤く染まっている。
 血が付着しているというよりは、刃に染み込んでいるかのような……

「なっ!?」

 ナイフのある場所に瞬時に移動する――それがクレアさんの分析だった。
 だが敵はクレアさんの背後に瞬時に現れて、その鋭いナイフを突きつける。

「いッ!?」

 クレアさんの咄嗟の反応で地面に転がりながらもなんとか敵の攻撃を躱す。
 
「クレアさん!?」

「大丈夫。掠っただけよ……」

 クレアさんは着られて血が滲む横腹を抑える。
 
「あれ躱すたぁなんつー反応速度だよ」

 敵は驚きながらも楽しそうに笑う。
 クレアさんは血は出ているものの傷は浅そうでとりあえず一安心した。

「なるほど……斬った相手の場所にも移動できる訳ね」

 相手のナイフをよく見ると、右手のナイフは新品のような白刃になっていて、代わりに左手のナイフは刀身の九割が赤く染まっている。
 
「右手のナイフが変色していないところを見るに、そのナイフに染み込ませた血の量で移動出来る回数の制限って訳ね。なら――――」

 クレアさんは相手との距離を一気に詰める。
 左手のナイフは九割変色している。
 クレアさんの分析が正しければ現状どこに居ようと相手は間合いに踏み込める優位性がある。
 いっそ距離を詰めてその有利を無くす方が良い。

「はぁあ!!」

 クレアさんは派手な技を繰り出し続ける。
 いくら何でも魔力の消費が激しいと思うけど、あたしが考えることなんかクレアさんは百も承知だろう。
 今あたしがすべきは魔力を練る事だけだ。

「どうしたぁ? 魔法こそ派手だが攻め手に勢いがねぇぜ?」

 あたしには分からないけど、戦いに慣れた敵には感じ取れるものがあったんだろう。
 クレアさんは図星を突かれたように舌打ちする。

「アンタの種器シード……瞬間移動の数が減っていてと左手のナイフでの攻撃が多い。種器シードの刀身が完全に赤く染まった時、別の能力への条件が満たされると考える。そして、他生徒が見当たらないのがアンタが原因なら、その能力こそがその理由と推測できる」

「ご名答! だが分かったところでどうしようもねぇけどな!!」

 右手のナイフをクレアさんに投げつける。
 クレアさんはそのナイフを蹴り飛ばして防ぐ。
 蹴り飛ばされて宙に浮くナイフをクレアさんは警戒するも、その背後に敵は瞬時に現れた。
 
 投げられたナイフに飛ぶか、解花ブルームの魔法を使って飛ぶかの二択。
 前者を警戒していたクレアさんだけど、敵は解花ブルームを使って背後に移動する。
 ただそれすらも呼んでいたのか、クレアさんは踵を振り上げて炎を纏って後ろ蹴りを繰り出した。

 ただ敵は更に一枚上手で――――

「ィっ!?」
 
 クレアさんの蹴りが空を切り、弾き飛ばしたナイフに瞬時に飛んだ敵はクレアさんを斬り付ける。
 斬られた左肩を抑えるクレアさん。
 指の隙間から血が滲み出ていて、白い制服を赤く染めていく。
 幸い斬ったのは右手のナイフで、クレアさんが警戒していた解花ブルームの発動条件は満たしていない。
 満たしていないけど……

「はぁ……はぁ……」

 敵の右手のナイフも九割方赤く染まっている。
 それほどまでにクレアさんが出血している証拠だ。
 血、体力、魔力、どれをとっても消耗しすぎて満身創痍だ。
 魔力はあたしが補給出来るとしても、それ以外はどうしようもない。

「結構楽しめたがもう終わりかぁ……」

「そうね……」

 クレアさんは僅かに笑みを浮かべる。
 諦めか、死を悟ったのか、どちらにしてもその笑みは敗北を認めたような気がして。

「クレアさん!」

 あたしは咄嗟にクレアさんのところへ駆け寄る。
 あたしの“魔力鎧アーマー”は健在だから、盾くらいにはなれる。
 それでも時間稼ぎにすらならない。

「サラ……震えてるわよ」

 クレアさんを見捨てるなんて出来ない。
 でも初めての実践に恐怖が拭えないのも事実。

「アタシは大丈夫よ。安心しなさい」

 クレアさんは震えるあたしの手を握る。
 血で濡れた手は力強く、優しく、あたしに勇気を与えてくれる。

「オレが言うのもなんだが、気休めは時に残酷だぜ?」

 敵は笑いながら言う。
 それでもクレアさんは強気に言った。

「気休めじゃないわ。まだ勝機はある」

「なら、その勝機ってやつを見せてもらおうか!!」

 敵は一気に距離を詰める。
 あたしはクレアさんを庇う体勢を取って覚悟を決めたその時――――。

「選手交代だけどね」

 もう目前まで敵が迫ったその時、敵の頭を貫くように光が一閃する。
 敵は飛び引いてそれを躱すも、眩い光は地面からいくつも天に伸び敵を攻撃し続ける。
 
 あたしはその光を見て恐怖心が徐々に消えていく。

「やぁクレア。折角会いに来たのにボロボロじゃないか」

「大丈夫!? サラちゃん、クレアさん!」

「ったく、遅いのよ」

「うぅ……アリシア! メイリー!」

 アリシアとメイリーが助けに来てくれて、あたしは嬉しさのあまりクレアさんを強く抱きしめた。

「イタ、痛ィっ!?」

 あ、クレアさんごめんなさい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました

山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。 生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。

処理中です...