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届花 祈

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ドキッ☆ 漢だらけの雪合戦⁉︎ 加筆版

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 豪速球の雪玉が、脳天に直撃した。

 そのまま目玉をひん剥いて失神しそうになるところを気合いで踏ん張る。だが視界は真っ白。体は雪だるまになり、身動きが取れない。ログには無機質な文字でデバフ表示が。

「くっそー! あの変態集団、ただじゃおかねー」

 移動制限が時間経過で解除されるや否や、素早く身を翻す。次の瞬間には、元いた場所に子供一人分ほどの大きさの雪塊が落下していた。
 雪玉の範疇を軽く超えているが、そんなことはお構いなしに彼らは猛攻を畳み掛けてくる。

「右だ! 右に一人抜けたぞ!」
「チビを許すな! 対人の基本だ!」

「なーにが対人だ。preのイベントなのに、大勢で大人気ない事しやがって」

 隣で毒吐く仲間に同調しながら、負けじと雪を掬い上げる。その頬を掠めたのは、弾丸のように空気を切り裂く白球。殺人級の速さにぎょっとして顔を上げると、前方には喋る筋肉の壁が聳え立っていた。

「来いッ! 筋肉は裏切らないッ‼︎」

 黒光りする肉体を見せつけるかのように肌を露出させ、癪に触るポージングとともに野太い雄叫びで相手を威嚇する。
 その挑発に乗り、全力で、それはもう全力で叩きつけた雪玉だったが、びくともしない巨体を前にして儚く砕け、積雪の一部と化してしまう。
 そして身構えた時には遅く──。お返しとばかりの強烈な一球が、額を打ち据えていた。
 大きく仰け反った体を、転送魔法のエフェクトが包んでいく。
 ……あぁ、2回目はスタート地点に戻されるんだ。
 遠のく意識のなかで、ぼんやりとそんなことを思い出していた。




 ──なぜ、こんな事をしているのかというと。





「そこの少年。雪合戦に参加しないか?」

 唐突に声を掛けられた場所はいつものビスク中央アルター前。露店や待ち合わせの他、ツアー等の集合場所にもよく使われる。
 それに加え、この年末年始の時期。年越しを控えた人々が集まるこの広場には、どこか気の抜けた空気が漂い、普段とは少し毛色の違った賑わいを見せていた。
 ちょうど休憩しようと思ったタイミングで話しかけられ、エルモニーの少年テオドアは若干の溜息とともにそちらを振り向く。

「すみません、今落ちるとこだったのでクエストは結構です……って、断るボタンがないな」
「失礼な。ボクはNPCじゃないよ」
「えっ? ご、ごめんなさい!」

 またプレイヤーをNPCと勘違いしてしまったらしい。逆にどうやったら間違えるんだと、友人にはいつも突っ込まれる。
 相手の頭上には、確かにユーザーであること示す所属ギルドやFSの名称が表示されていた。ピンク色の亀のキャラクター『ぷにこ』の見た目をしているのは、おそらくペンダントで姿を変えているのだろう。

「えーと、kamenogoma……さん?」
「かめでいいよ。雪合戦を開催しようと思ってるんだけど、人数を集めたいから色んな人に声を掛けているんだ。君も来る?」

 抑揚のない口調で、彼は淡々と勧誘をしてくる……いや、彼女か?
 ユーザーイベントは季節に沿った催し物も多い。引きこもりでも四季を(ちょっと斜め上の方向から)楽しむことのできる風情あるゲーム……それがMaster of Mpicなのである。

「雪合戦というからには、雪をぶつけ合って遊ぶんですよね」
「そうそう。雪玉を投げる以外の行為は禁止だから、注意してね」
「参加条件はあるんですか? 千年竜みたいにカリスマ性とか求められちゃう?」
「参加費500gがいるのと、専用のスキルを覚える必要があるからスキル枠と所持枠を空けておくぐらいで、あとは何も。
とりあえずアルター出すね」
「い、いや……俺はまた別の機会に参加させていただきま……あ!?」

 誤クリック。
 次の瞬間には テオドアの体は極寒のイプス雪原のど真ん中に転送されていた。

 『雪合戦の参加者を募集しています』

「あーあ」と立ち尽くすテオドアを聞き慣れないアナウンスが出迎える。
 いつもと違うのは、そこが普段の静けさに包まれた雪原ではなく、人で賑わっているという点だ。確認してみたところ同接は50以上。まだ増えている。
 当然ながら知らない人のほうが多いが、何人かのユーザーは見知らぬテオドアとも挨拶を交わしてくれた。

  こんにちは テオドア
  こんにちは Rans
  ひっと はテオドアに手を振った
  テオドアはひっとにお辞儀をした

 ここへ来るのはアイスドラゴンを討伐する時ぐらいのものだが、これだけの人が集まっているところを見るのははじめてだった。
 しんしんと雪が降り積もるばかりの銀世界が、今日は一転、お祭り騒ぎである。

「そこの審判員NPCに話しかけて、スキルを貰ってね」

 kamenogomaがそう言った。いつの間にか背後にくっついて来ていた。盛大に飛び上がるほど驚いた後、「あっはい……」と気のない返事をすると、彼はそのまま群衆の中へ消えていった。

「びっくりした……。主催が帰ってきたって事は、そろそろ始まるのかな」

 受付を済ませ、言われたとおりに背中の装備を外すと、参加者達の背中にはランダムで赤い旗、もしくは青い旗が装備される。これがチーム分けになる。テオドアは青い旗だ。
 両チームがそれぞれの陣地へ移動し始める。気付けば参加する流れになっていた。

「ま、いいか。せっかくだし」
「何がせっかくなの?」

 降ってきた声を辿ると、大男がこちらを見下ろしている。名はRansと表示されていた。挨拶をしてくれたユーザーなので覚えている。全身、銀色の鎧に赤いマントという、分かりやすく騎士のような格好をしたパンデモスの男だ。
 口元は隠れているが表情がわからないということはない。簡単ないきさつを説明すれば、彼はそれを聞いて軽快に笑った。

「なるほどね~。まぁ楽しむといいよ。PTを組むとやりやすいかも。うちに入る?」
「いいんですか! ぜひ」

 その親切な申し出を、テオドアはありがたく受けることにした。
 他に「しお」という名前がPTのメンバー表にある。その時初めて、Ransの隣に、収まりよく立っているエルモニーの存在に気付く。挨拶をすれば「よろしく!」と元気に返答。親しみやすく朗らかで、ピンク色の髪がよく似合う美少女だ。
 他のチームメンバー達とも程よく打ち解けあったところで、アナウンスが試合開始の合図を告げる。その時だった。相手チームの異変に気付いたのは。

「なんだあれ」

 白い地平線上に、黒いなにかの集合体が目立っていた。ひとつひとつがポーズをとりながら、徐々にこちらへと近付いてくる。かなり異彩を放っていた。

「……なんだあれ」
「相手チームじゃない?」

 隣のRansが冷静に答えるが、そういう問題じゃないので「様子がおかしいよね」と冷静に聞き直す。正体は、向こう側から明かしてくれた。

「我々はマッチョ極めし、筋トレ専門FS『マッスル軍団』‼︎」
「この雪合戦、我々も参戦させてもらうッ‼︎」
「筋肉が雪を制すか、雪が筋肉を制すか、力試しだッ‼︎」

 黒い塊に見えたそれは、一人一人が限界まで鍛え上げられた筋肉を有するパンデモス……肉体美を披露する為に衣服を脱ぎ捨てた、裸の漢たちの集団だった。
 こちら側だけでなく、敵の赤チームからもどよめきが起こっているという事は、彼らの乱入は突発的なもので、全く告知されていなかったものなのだろう。

「うわ、安直なFS名。もう少しどうにかならなかったのかよ」
「デカいと格好の的じゃねーか! 足手まといだから青チームに行け!」
「い、いらない……」
「ちょっと暑苦しいんで半分くらい帰ってもらっていいですか」

 野次は敵味方関係なく、両チームから飛んでいた。
「ええい! やかましい!」マッスル軍団の一人が、通りすがりのPTに目をつける。

「そこの女! 名を名乗れ」
「へっ⁉︎ 私ですか?」

 先程から地図を片手に周辺を走り回っていた女性だ。明らかに雪合戦の参加者ではない。

「も、もだこと申します……」
「よし。俺と勝負だ。筋肉への愛と情熱を、お前にも分からせてやろうッ‼︎」
「ええっ⁉︎  待って待って、私達はただトレハンをしに来ただけなんですけど!」
「問答無用であるッ‼︎」

 全くの無関係な4人組PTが、暴走したパンデモスに追いかけられて悲鳴を上げながら逃げていってしまった。
 この、関係ないユーザーに迷惑をかけたという出来事が大顰蹙を買うことになり、マッスル軍団vsそれ以外の参加者、というチーム分けで試合は再開。雪合戦という名の喧嘩が勃発した。
 そして時は冒頭に戻る。

「大丈夫?」と、しおがテオドアの顔を覗き込んだ。額が痛い。
「な、なんとか。あいつらパンデモスだから、6回当てないとスタート地点に戻せないのが厄介だよ。しおさんも気を付けてね」
「うん。一緒にがんばろう!」

 明るい励ましが、敗北の傷を癒してくれる。Ransは何処かと探せば、今まさに前線で攻防を繰り広げている最中だ。援護しなければ。

「Ransさん、伏せてー!」

 呼びかけると、素早く反応したRansが言われたとおりに身を屈める。その向こうに見えた憎たらしい顔面に一撃。雪だるま化したパンデモス一名を尻目に、次の敵へ。
 雪玉とバリケードを十分に補充してから前線に追い付き、飛来物は小柄な体格を活かして躱していく。大きく振りかぶった敵の隙を突いて一投。その隣の敵にももう一投。

「ナイス、テオドア!」

 ハイタッチを交わす間にも、相手チームからの攻撃は止まらない。もう二度と当てられるものか。思ったそばから挟み撃ちにされ、一回被弾してしまった。あちらも脳筋ばかりではないようだ。

「全員が6回耐えるチームって、冷静に考えたらかなり強くないか⁉︎」
「打たれ強いだけだよ。デカいから狙うのは簡単だ!」
「あの人たち裸で寒くないのかな」
「マッチョは氷漬けだー‼︎  アヒャヒャヒャ」
「雪玉にヒトニナールチョコ入れてロシアン雪合戦しようぜ」
「ていうか主催どこ?」

 流れるチャット欄に混沌を感じながら、白い合戦場をひた走る。確かに、主催はこの状況で一体何をしているのだろう。
 頭の隅に浮かんだ疑問を振り払った時、テオドアは背後に敵意を感じて振り返った。見知らぬエルモニーの女が、長い金髪を靡かせ、今まさに雪玉を投げつけようという体勢だった。よく見ると背中には赤い旗……パンデモスではないと思って油断したのがいけなかった。

「……うっ、裏切りか⁉︎」赤チームは“マッスル軍団”のはずだ。なぜ関係なさそうな人が?
 混乱するテオドアに、ニッと意地の悪そうな笑みを浮かべたその少女が言い放つ。

「ボクは面白そうなほうにつくまでだよ。だって、そのほうが面白いじゃん?」

 無慈悲にも放たれる雪玉。眼前に迫る白球がスローモーションに見える。その向こう、楽しそうな表情をしている女の姿はさながら悪魔のようで。
 やられる寸前、テオドアは彼女の頭上に名前表示を見た。

 kamenogoma

「なにィィ⁉︎」主催も参加するんかい。
 渾身のツッコミは、転送魔法のエフェクトとともにスタート地点に戻された。

「テオドア君、大丈夫?」再び、しおが顔を覗き込む。そういう彼女も雪まみれだ。

「な、なんとか。それより大変なんだ、し、主催が赤チームに、ね、ね、寝返って……!」

 口をぱくぱく開閉させながら説明するも、その場にいた仲間たちの反応はあっさりしたものだった。

「まぁ、かめさんはそういう人だし」
「えっ」
「他にも、しれっと赤チームに加わった奴が何人かいるが、全員まとめてぶっ倒してやるさ! 行くぜ、しおさん!」

 血気盛んに、再び戦地へ向けて飛び出していく。元気よく続いていったしおも、意外と好戦的な性格だったようだ。
 とはいえ、こうしている間にも青チームの同志達が次々と送り返されてきており、戦況は厳しい。

「まいったなー、数ならこっちのほうが有利だと思ってたのに」

 特に、今この瞬間にも嬉々として雪玉を投げまくっている、主催kamenogomaの狂気的な姿。
 あれには近寄らないでおこう……と、心の片隅で決意しながら、テオドアは赤チームに寝返った敵の人数を数えていく。

「……ん?」

 見知った顔を見かけて二度見。「あれは……」
 名前を見て確信。「あれは⁉︎」

 銀髪の、無駄に整った容貌をしているコグニートの青年が雪をかき集めているところだ。テオドアは信じられない気持ちで駆け出し、彼のいるところへ追いつくと、大声でその名前を呼んだ。

「アロウ! なんでこんなところに!」

 視線を上げた青年が、テオドアの姿を確認するなり顔を輝かせる。しかし、その背にある旗は赤色だ。

「やぁテオドア! 君も参加してたんだね!」
「やぁ、じゃないよ! なんでアロウがそっち側なんだよ。こっちに来い、こっちに!」
「残念ながらそれは無理なんだよ~。マッスル軍団とはFSぐるみのお付き合いでいつも仲良くしてもらってるから、今日の僕は、マッスル軍団の一員なのさ!」

 と、雪玉を手にしたままサイドチェストを決める。そのポーズは様になっていないが、邪気のない爽やかな笑顔が眩しい。
 しかし納得できないテオドア。駄々を捏ねるように、指先を何度もアロウに突きつける。

「俺とも遊んでるじゃないか! いつも! 何度も!」
「え~、でも今回はこっちが優先なんだ。ごめんねぇ?」
「う……裏切り者ーっ!」
「さぁ! いつでもかかっておいで~。遠慮はいらないよ!」

 雪玉のストックを脇に抱えて、彼は宣戦布告をした。
 白い戦場が、2人の友を引き裂く……のは大袈裟だが、協力を得られないとわかれば、いつまでもここに留まっていても時間の無駄というもの。気持ちを切り替えるしかない。

「アロウ、シンシアさんが見てるよ」
「えっシンシア? どこどこっ? シンシア~! 僕の愛しの──」

 愛しの恋人を探すアロウのガラ空きな後頭部に、雪玉を一発お見舞い。涙目の美男子がエフェクトに包まれて退場した。
 親友ならばこれくらい許してくれるだろう。

「さて。次だ次」

 試合も終盤に差し掛かっていた。
 倒しては倒され、送り返しては送り返され。
 どれくらい戦い続けただろうか、あるはずだった制限時間も、気付けば表示されなくなっている。一体どういう運営方針のつもりなのかkamenogomaを問い質したかったが、それよりも正直、飽きてきていた。

「いい加減疲れたから、これで最後にしたいんだけど……」

 雪を踏みしめて臨んだテオドアの正面には、マッスル軍団のFSマスターが立つ。無駄な肉はひとつもない、雪原に聳える黒鉄のような体躯だった。
 決着をつけるなら、相手はマスターと相場は決まっている。

「受けて立つ。筋肉の名のもとに、勝敗をつけようッ!」

 互いに一歩、踏み込む。
 先に仕掛けたのは相手だ。投擲された雪玉は白い雪煙を撒き散らしながら、砲弾のような速度で飛んでくる。テオドアは身をひねってそれを回避したが、反撃に投じた攻撃は、相手のバリケードに阻まれて届かなかった。
 自分のバリケードは手持ちがない。焦ったテオドアの前に相手が躍り出る。やられると思い、反射的に身を竦める。
 と、想定していた衝撃も、雪だるまにされる感覚も訪れることはなかった。
 恐る恐る顔を上げると、目の前には、「バリケード……?」
 自分のではない。今目の前に背を向けて立っている、仁王立ちの女性が召喚してくれたものだ。

「むむ。男同士の決闘に乱入するとはけしからんッ! 正々堂々と勝負せんか!」
「こんな試合に正々堂々も何もないでしょ! さっきはよくも追い回してくれたわねーっ!」

 表示されている名前は、もだこ。追いかけられていたニューターの女性だった。その怒りは、強く握り込められたトレハン用ツルハシからも伝わってくる。

「あーッ! 雪合戦に武器は使用禁止だぞッ!」
「うるさいうるさい! こっちは参加者でもないのに雪だるまにされたのよ! これは、お返し、だっ‼︎」

 力一杯に振り下ろされたツルハシは、相手のバリケードをまるで飴細工のように粉砕してしまった。あまりの凄みに、テオドアの口が開いていた。

「今です‼︎」

 もだこが振り返り、力強く後押しする。
 遮るものは、もうない。

「……あ、ありがとうございます‼︎」

 満を持して、温存していた巨大な雪玉を抱え上げた。力みとともに上がる唸り声。結局、最後の一撃が筋肉頼みとは皮肉なものだった。

「臨むところだーッ‼︎」

 相手も吠えるように応じ、全身の筋肉を膨張させて迎え撃つ。
 2つの全力がぶつかり合い、甲高い衝突音が響き渡った。舞い上がる雪煙が吹雪のように辺りを白く覆う。
 周囲のプレイヤー達もいつしか立ち止まり、息を呑んで勝敗の行方を見守っていた。霧が晴れ、そこに立っていたのは……テオドア一人のみ。

 『試合終了!』
 『青チームの勝利です‼︎』

 勝利を告げるアナウンス。青チームが歓声に沸いた。
 マッスル軍団の面々が膝をつく中、kamenogomaがペンダントをつけて亀の姿に戻る。

「なーんだ終わっちゃったの。じゃあ参加賞を配るから、みんな一列に並んでねー」

 そして、何食わぬ顔で、主催としての業務へ戻っていった。

「テオドア君、おめでとー!」
「君、やるやん」

 しおとRansがテオドアの肩を叩いて健闘を讃える。後に続くようにして、青チームの仲間たちもテオドアを取り囲んだ。
 その輪の外では、マッスル軍団の面々がトレハンPTに謝罪をしている。「ごめんなさい」
「もういいですよ」と、もだこは寛大な心で彼らを許していた。

「じゃ、私たちはトレハンに戻りますので~!」
「ありがとうございましたー! またねー!」

 彼女がいなければ勝利はなかっただろう。テオドアは大きな感謝とともに手を振り続けた。4つの人影が、白い地平線の向こうへと消えていく。
 見送りが終わった頃、アロウがやってきて、マッスル軍団のマスターに声をかけた。

「僕たち、負けちゃったみたいだね~」
「しかし、いい勝負であった。アロウ殿の協力に感謝するッ!」
「でも僕はすぐテオドアにやられちゃったから、全然戦力にはなれなかったよ。ね?テオドア」

 気まずいと思っていたところに、ちょうど話を振られてしまい、若干返答に詰まる。が、アロウの晴れやかな表情には少しも根に持っている様子はない。

「ま、まぁね……今年最後の日に、いい汗を流せてよかったよ」
「そうだね! 僕も楽しかった」

 テオドアは彼の温厚な性格に心の中で感謝した。
 根に持たないのが彼の良いところだ。

「アロウがやられ役を買ってくれたおかげかな」
「あっひどい。僕は大真面目だったのに」

 脇腹をつつかれ、テオドアが笑っていると、ぼちぼちとアルターが召喚され、皆が移動しはじめる。
 解散するのかと思いながら見ていたテオドアにも、誘導の声がかかる。

「さぁ君たちも! 今年の締めに、毎年恒例のアレだよ」
「アレって?」
「尼橋ダイブ」
「……あ、尼橋ダイブ⁉︎」

 それはテオドアがはじめてこのゲームをプレイした当時から存在していた謎風習……年越しと同時に、ユーザー達が一斉に橋から身を投げる、というもの。
 最近復帰したばかりなので忘れていたが、そんな謎イベントも確かにあった。懐かしさに思わず声が出る。

「あれ、まだあったんだ⁉︎」
「あるに決まってるだろう! これがなければ年は越せないからな! 今年こそは華麗に着地してみせるのだッ!」

 そう意気込みながら、マッスル軍団のマスターがアルターに乗り込んだ。いや無理だって。と、周りからのツッコミが届いたかどうかは定かではないが、大きな背中がエフェクトに包まれ、そのまま消える。今頃はアマゾネス蔓延る橋の上だろう。

「そういえばテオドアは復帰勢だったね」
「そうだよ。アロウは毎年参加してるの? 尼橋ダイブ」
「もちろんさ。せっかくだしテオドアもどう? 久々に飛びに行こうよ」
「これから集団自殺しに行くとは思えない誘い方だな……いいよ、行こう!」

 苦笑混じりに返せば、その会話を聞いていた群衆も盛り上がりに火をつける。「みんな! 今年の雪合戦MVPも飛ぶってよ!」

 MVPなどではないと恐縮しまくるテオドアをよそに、さぁさぁとアルターへ押し込んでくる人々。
 さっきまでの喧嘩が嘘のように、和やかな雰囲気だ。
 半ば連れ去られるようになりながらも、テオドアとアロウは互いに呆れたような笑みを交わしながら、転送により雪原を後にした。
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