48 / 328
教師1年目
軍の意向
しおりを挟む
「国の軍を預かる立場にあるあなたがこのようなことをするなんて……」
「おっと、心外ですな」
もう既に60歳を超えなお現役で軍務を預かるタット・ヘラルドは長く伸ばした白髭を触りながら言う。
「だからこそ、です」
「ライヤ先生が国防に関わると?」
「いえ、士気に関わります」
落ち着き払ってタットは言う。
「先生の戦場での活躍は目を見張るものだと聞いています。それこそ軍の士気を上げるものでは?」
「それを立場のある者が行うから意味があるのです。例えばですが、先の戦争の戦功。あれをアン王女が素直に自らのものとしておけば今回のことは起こらなかったと言えるでしょう」
「あまりにも自分勝手な都合ですね」
「えぇ、それが貴族というものでしょう?」
「国軍として先生の力が必要ないとおっしゃるのですか!」
声を荒げるウィルにもタットは動じない。
「必要ないわけがなかろう?」
「!」
「彼が本当に辺鄙なところのでも良いから貴族であればとどれだけ苦悩したことか」
タットはふぅーとため息をつく。
「わしとて率先して彼を排除しようとはしておらんよ。しかし、貴族たちの文句を押さえつけるのももう限界じゃ。どこかで折り合いをつけねばならん」
「しかし……!」
「多くの貴族諸侯とライヤ・カサン1人。どちらの方が国にとって有用か、言うまでもないじゃろ?」
ウィルは知った相手だとわかって説得を試みたが、王女の誘拐なんて大それたことまで実行に移しているのだ。
生半可な覚悟ではないことは確かであった。
「王家が絡めばどうあっても動かざるを得まい。教え子を学園で誘拐され、何も出来なかったとなればどうあっても責任を問われるであろう。都合の良いことに学園内にもライヤ殿を追い出したい勢力はおるようじゃしな」
「なぜ、あなたが……」
「そりゃ他の世代に影響が出ないからじゃろ」
タット・ヘラルドはもちろん貴族である。
しかし、妾も含めても男の子宝に恵まれず、タットの代でヘラルド家は終わりを迎える。
「しかし、奥方たちは!」
「もう、妻ではないよ」
「そんな……!」
ウィルがこのまま無事に生き残れたとしても、ヘラルドへの罪は極刑以外にないだろう。
家族もその対象となりそうなものだが、既に関係を絶っているという。
そうなれば少なくとも法上は裁く事が出来ない。
「ウィル様には悪いが、ライヤ殿と関わりを深く持つのはアン王女とあなただけだ。今現在、国家にとってどちらが重要かは……」
タットはそこで言葉を切る。
暗にこう言っているのだ。
「お前はアンよりも役に立たないから殺されるのだ」と。
「これ以上は、もういいだろう」
部屋を出ようとするタットの背にウィルは言葉を投げる。
「後悔はないのですか!」
60になるまで仕えてきた国家の捨て石となり、国家反逆罪の汚名を着て死んでいくのだ。
あまりにも代償が大きい。
「もちろん、ない」
しかし、振り返ったタットの顔にはその影はなかった。
「こりゃまた大物だな」
「まさか……」
時をさかのぼること少し。
ライヤとアン、そして精鋭部隊はヘラルド家へと到着していた。
学園からウィルを誘拐できる部隊を送れる人物。
それなりに大物だとは思っていたが、大臣とまではライヤも考えていなかった。
「王女、あまりに不敬です! 大臣は長年王家に尽力を……」
「ならあなたにはヘラルド家ではないどこが犯人だと言うのですか」
怒りが一周まわったアンは静かにどすの利いた声で部隊長に言う。
「他の候補を挙げてから物を言いなさい。もちろん、間違っていた場合はどうなるかも承知したうえでです」
「失礼いたしました!」
貴族にあらぬ疑いをかけたとなればいかに精鋭部隊と言えどただでは済まない。
最低でも降格されるだろう。
「それで、どうすればいいと思う?」
「ここにウィルがいるのは間違いないのね?」
「あぁ、この距離なら知ってるやつの魔力を違えたりはしない」
大臣の家だけあって庭も広く、豪邸までの距離は道から100メートルほどあるが、このくらいの距離なら魔力で判別できる範囲内だ。
「なら、部隊長と他数名で王城に戻りなさい。令状を出して家宅捜索の許可をお父様から得ること」
「は!」
「他はこの屋敷を囲むように展開して。必ず逃がすことのないように」
「それで、俺たちは?」
「え? 突入を模索するに決まってるでしょ」
「いや、立場を考えるって話はどこいったよ」
「でも、ウィルがいるのは確実でしょ? 後から怒られてもラ、ライヤと亡命できるなら、それはそれで……」
事ここに至っても顔を真っ赤にしながらそんなことを言うアン。
周りの部隊の方々からの視線が非常に痛い。
「今のところウィルには何もされていないのよね?」
「まぁ、拘束はされてるみたいだがな」
「何かありそうならライヤの判断で突入していいわ」
「そんな許可出していいのか?」
「何よりもウィルを守らなきゃ、でしょ? 最悪ライヤは他国に逃げても重宝されるしね。それこそ帝国に行けばいいんじゃない?」
「まぁ、最悪な」
あの皇子の下で働くのはきつそうだ。
「!」
「なに!?」
「ウィルの部屋に近づいてるやつがいる!」
「! 行くわよ!」
「王女様!?」
精鋭部隊の制止を振り切ってライヤとアンはウィルがいる部屋の窓へ突撃した。
「おっと、心外ですな」
もう既に60歳を超えなお現役で軍務を預かるタット・ヘラルドは長く伸ばした白髭を触りながら言う。
「だからこそ、です」
「ライヤ先生が国防に関わると?」
「いえ、士気に関わります」
落ち着き払ってタットは言う。
「先生の戦場での活躍は目を見張るものだと聞いています。それこそ軍の士気を上げるものでは?」
「それを立場のある者が行うから意味があるのです。例えばですが、先の戦争の戦功。あれをアン王女が素直に自らのものとしておけば今回のことは起こらなかったと言えるでしょう」
「あまりにも自分勝手な都合ですね」
「えぇ、それが貴族というものでしょう?」
「国軍として先生の力が必要ないとおっしゃるのですか!」
声を荒げるウィルにもタットは動じない。
「必要ないわけがなかろう?」
「!」
「彼が本当に辺鄙なところのでも良いから貴族であればとどれだけ苦悩したことか」
タットはふぅーとため息をつく。
「わしとて率先して彼を排除しようとはしておらんよ。しかし、貴族たちの文句を押さえつけるのももう限界じゃ。どこかで折り合いをつけねばならん」
「しかし……!」
「多くの貴族諸侯とライヤ・カサン1人。どちらの方が国にとって有用か、言うまでもないじゃろ?」
ウィルは知った相手だとわかって説得を試みたが、王女の誘拐なんて大それたことまで実行に移しているのだ。
生半可な覚悟ではないことは確かであった。
「王家が絡めばどうあっても動かざるを得まい。教え子を学園で誘拐され、何も出来なかったとなればどうあっても責任を問われるであろう。都合の良いことに学園内にもライヤ殿を追い出したい勢力はおるようじゃしな」
「なぜ、あなたが……」
「そりゃ他の世代に影響が出ないからじゃろ」
タット・ヘラルドはもちろん貴族である。
しかし、妾も含めても男の子宝に恵まれず、タットの代でヘラルド家は終わりを迎える。
「しかし、奥方たちは!」
「もう、妻ではないよ」
「そんな……!」
ウィルがこのまま無事に生き残れたとしても、ヘラルドへの罪は極刑以外にないだろう。
家族もその対象となりそうなものだが、既に関係を絶っているという。
そうなれば少なくとも法上は裁く事が出来ない。
「ウィル様には悪いが、ライヤ殿と関わりを深く持つのはアン王女とあなただけだ。今現在、国家にとってどちらが重要かは……」
タットはそこで言葉を切る。
暗にこう言っているのだ。
「お前はアンよりも役に立たないから殺されるのだ」と。
「これ以上は、もういいだろう」
部屋を出ようとするタットの背にウィルは言葉を投げる。
「後悔はないのですか!」
60になるまで仕えてきた国家の捨て石となり、国家反逆罪の汚名を着て死んでいくのだ。
あまりにも代償が大きい。
「もちろん、ない」
しかし、振り返ったタットの顔にはその影はなかった。
「こりゃまた大物だな」
「まさか……」
時をさかのぼること少し。
ライヤとアン、そして精鋭部隊はヘラルド家へと到着していた。
学園からウィルを誘拐できる部隊を送れる人物。
それなりに大物だとは思っていたが、大臣とまではライヤも考えていなかった。
「王女、あまりに不敬です! 大臣は長年王家に尽力を……」
「ならあなたにはヘラルド家ではないどこが犯人だと言うのですか」
怒りが一周まわったアンは静かにどすの利いた声で部隊長に言う。
「他の候補を挙げてから物を言いなさい。もちろん、間違っていた場合はどうなるかも承知したうえでです」
「失礼いたしました!」
貴族にあらぬ疑いをかけたとなればいかに精鋭部隊と言えどただでは済まない。
最低でも降格されるだろう。
「それで、どうすればいいと思う?」
「ここにウィルがいるのは間違いないのね?」
「あぁ、この距離なら知ってるやつの魔力を違えたりはしない」
大臣の家だけあって庭も広く、豪邸までの距離は道から100メートルほどあるが、このくらいの距離なら魔力で判別できる範囲内だ。
「なら、部隊長と他数名で王城に戻りなさい。令状を出して家宅捜索の許可をお父様から得ること」
「は!」
「他はこの屋敷を囲むように展開して。必ず逃がすことのないように」
「それで、俺たちは?」
「え? 突入を模索するに決まってるでしょ」
「いや、立場を考えるって話はどこいったよ」
「でも、ウィルがいるのは確実でしょ? 後から怒られてもラ、ライヤと亡命できるなら、それはそれで……」
事ここに至っても顔を真っ赤にしながらそんなことを言うアン。
周りの部隊の方々からの視線が非常に痛い。
「今のところウィルには何もされていないのよね?」
「まぁ、拘束はされてるみたいだがな」
「何かありそうならライヤの判断で突入していいわ」
「そんな許可出していいのか?」
「何よりもウィルを守らなきゃ、でしょ? 最悪ライヤは他国に逃げても重宝されるしね。それこそ帝国に行けばいいんじゃない?」
「まぁ、最悪な」
あの皇子の下で働くのはきつそうだ。
「!」
「なに!?」
「ウィルの部屋に近づいてるやつがいる!」
「! 行くわよ!」
「王女様!?」
精鋭部隊の制止を振り切ってライヤとアンはウィルがいる部屋の窓へ突撃した。
0
あなたにおすすめの小説
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる