-悪役兄様ルートのフラグの折り方-

青紫水晶

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義賊疑惑

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最後に残された植物はまだゼロを狙っていた。
ゼロは片手で口元を押さえたまま、もう片方の手で剣を握っていた。
ヤマトもやる気で、拳に電流を纏って植物を殴り付けた。

ゼロの剣で本体である花は真っ二つに斬られ、最後に燃えて消えた。

その火は、いつもの火の魔法ではなく真っ黒な火に見えた。
ヤマトも眉を寄せてゼロの剣を見ていたが、もう黒くはなく普通の剣に戻っていた。

俺の手が自由になったから、ゼロのところに駆け寄った。
でも、ゼロに触れる事は出来なかった。

ゼロと俺の間にヤマトが入ってきて、足を止めた。

「弟くん、さっきの事…ちゃんと説明してくれるよね」

ヤマトは疑いがあり、信じているところもある複雑な顔をしていた。
言わないといけない、ちゃんとあれはノアが勝手に言った事なんだと…

俺とノアの関係、義賊だって知らなかった事…

ノアは俺の言葉を聞いてくれなかった、だからもう捕まえて罪を償わせるしかないんだ。

でもこのまま諦めていいのか?本当にそれで後悔しない?

「弟くん」

「…ぁ、ぅ…」

「何?言わないと分からないよ」

俺はノアとの関係を言うのを止めて、義賊の仲間じゃない…それだけを言おうと思った。
それだけは信じてほしい、俺が必ずノアを止める。

…でも、話そうとしても「あ…」とか「う…」とかしか声が出なかった。

さっき叫んだ時だろう、声が出なくて首に触れる。

ヤマトの眉が険しくなってきた、なにか言わないと俺が義賊にされてしまう。
口をパクパクするだけで、声が全く出ない。

喉を押さえてヤマトに気付いてもらおうとしたが、ヤマトから出たのは重いため息だった。

「弟くん、その冗談笑えないよ」

違う、冗談じゃなくて…俺は本当に…

そう言いたいのに言えず、後ろから数人の騎士達が走ってきた。
騒ぎを聞きつけた騎士達が駆け付けたのだろう。

目的は義賊の捕獲、そしてヤマトの目には俺が義賊に見えるのだろう。
いつも俺に良くしてくれたヤマトの顔は何処にもなかった。
嘘とはいえ、ノアにヤマトを誘き寄せるために俺が連れてきたなんて聞いたら誰でもそう思うよな。

これは何も話さなかった俺への天罰だ、ノアを信じてヤマトを信じなかった。
どちらも信じるべきだったのに、本当に俺は…

「弟くん、話は兵舎で聞くから今は大人しくして」

兵舎とは俺が住んでいた部屋ではなく、ずっと下にある牢獄の事だってすぐに分かった。
危ない義賊疑惑がある俺が、大勢の騎士達が住む場所に行けるわけがない。

このまま捕まっても何も話す事が出来ない。
俺の意思ではどうにもならず、紙で書けるが疑惑のある人物にペンという凶器をわたしてくれるかどうか。

ヤマトは俺をジッと見ていたが、後ろにいるゼロに声を掛けられていた。

「この植物、まだ生きてるぞ」という言葉にヤマトは「嘘だろ」と驚いている。
ゼロとヤマトで倒したのにまだ生きてるなんて、どんだけ生命力がある植物なんだ?

ヤマトは俺から視線を外してゼロの方を向いた。
ゼロ達と向こう側から騎士達が来ているから俺が逃げられないと思ってだろう。

「ん?枯れてない?」

「さっきは動いていたけど…」

「枯れてもまだ生きているのかもなぁ」

「……」

「…っ」

ヤマトが不思議そうにしていて、ゼロは全く植物の方を見ていない。
それどころか、壁の方をジッと見ていた。

その壁は一見何の変哲もない壁だが、木箱が二箱重なっているところがある。
階段になっていて、壁の向こう側に行けそうだった。

ゼロ…もしかして…

ヤマトがこっちに振り返ろうとしたタイミングで、俺は走り出した。
こんな事をしたら余計俺が義賊だって言っている事になる。
逃げたらダメなのは分かっているのに、このままだと俺は何も出来ないまま牢獄にいる事になる。

俺は自分が義賊だって怪しまれる事より、ノアの事を諦められなかった。
それがどんな結果になろうとも、俺は後悔なんてしない。

木箱に乗って壁の向こう側へと飛び降りた。
着地する時に足を挫いてしまい、ズキッと痛かったけど止まらなかった。

追手が来る前に、何処か遠くに逃げないと…

さっきまで天気が良かったのに、ポツポツと雨が降ってきた。
ここから離れても、街には騎士がいっぱいいる。

この国から出ないといけないのかもしれないが、無一文の俺には何処も行く場所はない。
ノアを探さないといけないけど、まだ義賊の場所が分からない。

とぼとぼと歩いていると本格的に雨が降り始めた。

全身が雨に濡れて、歩いていたらある場所までやってきた。
懐かしいな、ここ……俺の人生が大きく変わった場所。

俺とゼロが初めて出会った場所……

住む場所がない人達が集まる場所にまた戻ってきた。
せっかくゼロが俺に手を差し伸ばしていたのに…

もう一度此処で暮らせるのだろうか、雨も多い中佇んでいた。
騎士は滅多に此処に来ないし、一人一人見る事もないから見つからないだろう。
雨だからか、皆雨宿りをしているが俺の身なりがいいからかジロジロ睨まれていた。

子供の頃は下心ある人が俺にいろいろしてたが、今はそんな事もない。
いや、今もあっても嫌だけど…

屋根のあるところに行こうとすると、先住民がゴミを投げつけてきた。
雨が止むまででいいけど、それも許してくれそうにない。

話せないとこんなに生きるのも厳しいんだな、

しゃがんで、ジッと雨が止むのを待っていた。
いつかは止む、だから我慢すればいいんだ。

体も冷えてきた、お腹空いたな…どのくらい経ったか分からない。
雨が止まないと視界がよく見えなくてノアを探しにも行けない。

雨が水溜まりに落ちているのをジッと眺めていた。

何もないところで考えると、俺の頭の中を少しずつ整理する事が出来る。

俺はもし、この街の外に行き場があったとしても行かない……行きたくない。
俺はノアと話し合う事以外にも大切な事があるんだ。

ゼロを、絶対に助ける…なにがあっても揺らがない。

拳を握りしめる、俺には俺のやる事がある…絶対にしなくてはいけない。
こんなところで、絶望してたまるか…

下を向いていた俺の影に影が重なった。

上を見上げると、俺に傘を傾けている人がいた。

泣きそうになったけど、俺の涙はきっと雨が消してくれるだろう。
声にならなかったが、俺は口を開けて必死にその人の名前を言おうとした。
人差し指で唇を押さえられて、口を閉じた。

「一緒に帰ろう、エル」

そう言ったゼロは、あの頃のような優しい笑みを浮かべていた。

俺の帰る場所は兵舎だろうか、でも兵舎に行ったら騎士達に捕まるよな。
ゼロは俺に捕まってほしいのかな、話せれば言えるのに…

いろいろあって、考えてる事も支離滅裂で疲れた。
何処か、休みたいな…あれ……視界がブレる。

足もフラフラして、ゼロの体に支えられる。
ゼロの服を濡らしたくないのに、頭が重くて意識はそのまま真っ暗になった。
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