-悪役兄様ルートのフラグの折り方-

青紫水晶

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目を開けると、目の前にあるのは暖かな光が俺を照らすシャンデリアだった。
一人用にしては大きなベッドに、ベッドの横には可愛いくまのぬいぐるみがあった。

あれは俺が小さな頃に誕生日プレゼントとしてゼロにもらったものだ。
でもくまのぬいぐるみは兵舎には持っていっていない、ゼロの部屋を狭くさせるわけにはいかないと屋敷に置いていった。

じゃあもしかして、ここは屋敷?

俺の服はゼロが昔来ていた寝間着を着ていた。

コンコンとドアが叩かれて「どうぞ」と言いたかったが、声が出なかった。
そのままドアが開かれて、ゼロが手にトレイを持ちながら入ってきた。

起き上がろうとしたが、頭が重くて座るのも辛い。
もしかして、雨に濡れたから風邪を引いてしまったのかな。

「無理をするな、さっき確認したら熱があるんだろ」

「……」

「大丈夫、俺は分かってるから無理に話そうとしなくていい」

ゼロはそう言って、サイドテーブルにトレイを置くと喉にいいお粥のようなものが器に入っているのが見えた。
何か用がある時用に紙とペンも置いてくれた。

俺は紙とペンを持って、分かっていると言われたが声が出ない事を書いた。
頭が重いけど、ちゃんと話さないと…

ゼロはノアを知っている、でもノアが義賊と一緒に言った事は知らない。
ヤマトはノアを知らないから、ゼロにはノアの名前は言っていないで男としてしか伝えていないかもしれない。

あ…でも、ゼロはさっきノアに切り掛かったんだっけ…それでノアの事を知ったのかもしれない。
喉が痛いと書いて、手が止まってしまった。

ゼロにノアと話したいと言ったら、やっぱり止められるよな。
普通はそうだ、俺の考えが甘いだけなんだから…
でも、ノアと話したいと思う気持ちは揺らいでいない。

髪が顔に掛かって、ゼロの指が触れていた。
ゼロの方を見ると、チュッと頭にキスをされた。

「エル」

「…っ」

「エール」

「…っっ」

耳を軽く噛まれて、舐められるとゾクゾクする。
顔が赤くなると、うつ伏せで書いていたからうなじを舐められた。

ビクッと体が反応して、ゼロが与える熱を感じる。

この熱さは熱があるからなのか…それとも…

書けなくて、ペンを置くと後ろから抱きしめられた。
ギュッと強く、しっかりと…逃がさないように…

「エル、ごめんね」

「……?」

「エルを無視して、ごめんね…エルが悪いんじゃないんだ、自分が許せなくてエルの傍にいる資格はないって思っただけなんだ」

ゼロはそう言って、俺の指の間に自分の指を重ねた。
俺は首を横に振った、なんでそんな事思うんだ?

資格がないのは俺の方だ、何もゼロに話せないくせに俺は助けてもらう資格なんて…

俺はペンを取ってゼロに「ごめんなさい」と書こうとした。

でもそれはゼロに手を握られて止められて途中までしか書けなかった。
ゼロの方を見ると、目線が合う前に唇を塞がれた。
俺の喉を気遣ってか、触れるだけのキスだった。

「俺は、エルを助けるつもりで種を自ら体内に入れたんだ……なのに俺はあの時、このままここにいればエルを独り占め出来るって思ったんだ」

「……」

「エルを殺そうとした、大好きで…大切なのに…俺は…」

ゼロはそう言って、声を震わせていた。

自分の声で「大丈夫だよ」と言いたかった。
でも、今の俺は紙に書く事しか出来ない。

いや違う、俺には感情を伝える体がある。

ゼロの肩に触れると、目線が合った。
軽く押すとゆっくりと俺から離れていきギュッとゼロを抱きしめた。
いつもゼロに抱きしめられると安心する、俺の体温でも安心してくれたらいいな。

「エル…」

「……」

「ごめん、悪い兄で…」

そう言って俺を抱きしめ返してくれた。

俺だって悪い弟だ、隠し事ばかりして…ゼロはこんなに苦しんでいるのに…

紙に書いた、俺が思っている事…これからしようとしている事…そしてノアの事…

ノアを諦めたんじゃない、俺はノアを助けるためにゼロに協力してもらうつもりだ。
自分一人でやろうと思った自分の力を過信していた事にやっと気付いた。

魔法も使えないし、ちょっと体術が出来るだけなのに…

精神世界のゼロは俺に隠し事をしていると言っていた。
あの時、俺は確かに知りたいと思った…そして悩みがあるなら助けたいとも思った。

でも、俺も隠し事をしているんだ…ゼロにだけ知りたいなんて言えない。

まずは俺が隠し事をやめないと、ゼロの精神に歩み寄るために…

ゼロは俺の書いた紙を眺めていて、俺の頭を撫でていた。
俺の字をゆっくりとなぞっていて、最後の字に触れた。

「アイツが、義賊…だからエルが疑われているのか」

ゼロは指先に力を込めて、紙をくしゃくしゃにしてしまった。
「ごめんね、新しい紙だよ」と綺麗な紙を俺の前に用意してくれた。

ゼロは自分の気持ちを落ち着かせるためなのか、俺の頭を撫でていた。
俺は新しい紙に、ノアは俺が捕まえる事を書いた。
俺のいないところで終わらせたら、ノアと話し合う事が出来ない。

当然ゼロの眉は寄っていて、慌てて付け足した。
ゼロと一緒に…という言葉を書くだけで、ゼロの不機嫌な顔は和らいだ。

「エルが話したいのは分かるけど、声が出ないと話し合いも出来ないね…いちいち紙を見せるわけにもいかないし」

ゼロの言っている事は確かに最もだと思った。
話すには声が必要、だからゆっくり休んで治してから…とゼロに伝えた。

でもゼロは「休んだくらいじゃ、治らないよ」と言われた。
自分で喉の奥は見えないけど、そんなに酷いのか?

病院に通わないといけないのかな、でも街の病院も騎士が来る時あるし…堂々と街を歩く事も出来ない。

ゼロは俺の首を優しく触れていて、ゆっくりと撫でていた。

「大声を出しただけで声が出なくなるなんてないよ、せいぜいかすれるくらいかな」

「…っ」

「あの種の影響が大きいだろうね、まだ完全に消していなかったのなら」

「…っっ」

「痛かった?ごめんね」

ゼロが俺から手を離したから、首を横に振った。
痛かったわけではなく、喉を触られるとくすぐったくて変な感じがした。

そんな場合ではないのに、顔が熱くなってくる。
俺の喉が種のせいなら、ゼロが治してくれた解毒の種を飲めば治るのかな。

ゼロにその事を話すと、ゼロは俺をギュッと握った。

「それはダメ、絶対にダメ…あれは元が同じ種だ…悪化するかもしれない」

ゼロは危険な事したのに…と拗ねてみたら「ごめん」とまた謝っていた。

冗談だと微笑んで、さっきのお返しでゼロの頭を撫でた。
ゼロは不思議そうな顔をして俺が撫でた頭を押さえていた。
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