魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

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レオニス視点〜森の魔女の弟子②

今まで入ったことがないほど森の奥に来ているらしいが、もうどうでもいい。

感覚が冴え渡って、奴らの足跡だけが光って見えるようだ。

俺は身体強化を使い、いつもよりずっと早く走って追いかける。

まもなく、薄暗い森の中にオーク達の姿が見えた。

十匹ほどが群れになって歩いている。

その統率の取れた歩き方から上位種がいるようだが、俺には関係ない。

「今度はお前らが駆逐される番だ」

俺は高く飛び上がると背後から風魔法で一番後ろの一体の首を切り落とした。

ゴトンと思い音がして振り返ったオーク達は体勢を崩した。

そこへ火魔法を次々とぶち込む。

「お前ら皆、跡形もなく燃え尽きろ」

どんどん燃え上がる火はやがて周りの木にも燃え移り俺の退路まで断とうとしていた。

「燃えろ燃えろ! どうせもう何もかもなくなったんだ。父さん、母さん、ミーナ、敵はとったよ。今から俺もそっちに行くから」

迫り来る炎に、ただ身を任せようと膝をついた時だった。

「お前が死ぬのは勝手だが、森を燃やされては困るな」

どこからか声がしたと思うと燃え盛っていた炎が一瞬で消えた。

煙を吸って霞む頭で微かに美しい女性を見た。

「女神……様? どうして……もっと早く……」

「喋るな、肺が焼かれてる。村を助けられなくて悪かった」

そして俺は意識を失った。


彼女はメリンダ。森の魔女と呼ばれる存在だった。

なんの気まぐれか、彼女は俺を森の中にある彼女の家に置いて修行をつけると言い出した。

メリンダの修行は厳しかった。

しかし、自分には知り得なかった大量の彼女の知識を知ることは楽しかった。

今まで疑問に思ってきたこと、思いもよらない事を自分が理解し、術を使える事に俺は夢中になった。

彼女は普段は厳しい師であったが、保護者としても色々な事を教えてくれた。

「いいかい。強い力を持っているからといって、お前が偉くなったわけではないんだよ。決して驕ってはいけない」

弟子として彼女について王に謁見した時には彼女が言った。

「貴族ってのは時に厄介だ。あいつらは自身の力ではないものを自分の力と思い込んでいる。だから身の丈に合わない要求をするんだ」

「だからこんな認識阻害の魔法をかけてるのか?」

メリンダは王宮に行く時には、いつも自身と俺に認識阻害の魔法をかけている。

「ああ、私達の顔を知るのは国王と一部の側近のみで十分だ」

「厄介なんだな」

「ああ、実に厄介だ」

五年の月日が流れ、十五になった俺はどんな修行もこなせるようになっていた。

そんなある日、メリンダは俺にいきなり言った。

「レオニス、お前国王付きの魔術師として働く気はあるかい?」

「え? 何?」

キッチンで魔法で洗い物をしていた俺は驚いて皿を落としそうになった。

「おい、その皿は気に入ってるんだ。落とすんじゃないよ」

「メリンダ……今なんて?」

「国王が自身の直属の魔法師としてお前を雇いたいと言ってきた。いずれ魔法師団を作り、お前を団長にしたいと言ってるが、どうする?」

「え? 国王の命令って事?」

それならばこの国にいる以上、背くわけにはいかない。

「あくまで『お願い』だとさ。嫌なら断ったっていいんだ」

若い俺は自分の力を試したくてウズウズしていた。新しい変化を求めていたのだ。

「俺……やってみたい。どこまでできるか分からないけど」

「そう言うと思ったよ。レオニス、お前は魔法については十分過ぎるできだ。だか、人間関係や貴族社会についてはからっきしだ。そろそろ世間に揉まれてきてもいい頃だね」

「行ってもいいのか」

そしたらここにはメリンダ一人になってしまう。

「私のことは心配いらないよ。今までだってひとりでやってきたんだ。それにお前が王宮に行ったって、会えなくなるわけじゃないからね」

俺は洗い終わった皿を片付けるとメリンダに向き直った。

「で、いつから王宮に行けばいいんだ」

「荷物はまとめてある。明日の朝、王宮に向かうといい」

「明日だって? 今聞いたばかりなのに?」

メリンダは、ニヤリと笑った。

「私を誰だと思ってるんだい? お前のことは誰よりも知っているよ」

次の日王宮に着くと、すでに王宮に準備されていた俺の部屋に通された。

国王の魔術師になると知らなかったのは俺だけだった。

次の年にはカインが俺の下にやってきて、二年目にはバリルとゴードンが来て国王の私設魔術師団となった。

「さあ、これからどんどん功績を上げていこうぜ。頼むぜ、団長!」

カインの言葉に俺は今まで知らなかった仲間というものを手に入れた事に気がついた。

「そうだな。やってやるか」

程なく俺たちは王都周辺に広がっていた盗賊団を潰し知名度が急激に上がる事になった。

その盗賊団が裏で貴族と繋がっていたと聞かされたのは、それからしばらく後だった……。


ティナの帰りを待つ時間は途方もなく長く感じられた。

ソファにただ座っていると、メリンダや魔法師団の思い出が久しぶりに蘇った。

ふと懐かしい気配がした気がして、俺は玄関ドアの前に急いだ。

ガチャリ。

「ただいま戻りました」

玄関ドアがあき、ティナが顔を出す。

「ティナ!無事だったか。怪我はないか?」

ティナの肩に手を置き、怪我がないか確認する。

怪我がなさそうで一安心だ。

ティナはいつもと変わらぬ様子だが、とても怖い思いをしただろう。

ティナを守れなかった自分が不甲斐ない。

メリンダから二通目の手紙でことの経緯を聞いた。

年寄りを使って心優しいティナを人気のない場所へ連れて行ったとは……。実行犯はメリンダが捉えたが、絶対に仲間も残らず捉えてやる。

ティナに作ってもらった夜食を食べ、落ち着いたティナにある提案をする。

防御魔法を付与した魔石を身につけて欲しい。

できれば、今すぐにティナが首から下げている魔石に防御魔法を付与させて欲しい。

両親の残した思い出のネックレスだけに強く言えなかったが、ティナは快く付与を許してくれた。

「よし。これで危険な時は防御魔法が発動されるが、万全というわけではない。危険な時はひとりで行動せず、俺や周りに助けを求めるように」

俺はティナの首にネックレスをかけた。

「わかりました、レオニス様。付与をありがとうございます」

「俺のほうこそ大事なネックレスに術をかけさせてくれてありがとう」

この先、この少女が怖い思いをする事がないよう俺が全力で守らなければ。

ネックレスを見てにこにこと微笑むティナを見て胸が締め付けられるような気がした。

この笑顔を曇らせたくない。
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