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もふもふは回想する
しおりを挟む俺のご主人様は美しい。外面も内面もだ。だが、残念な事に興奮し過ぎるとポンコツになる。
初めてお会いした時は、人形が動いているのかと思うほどだった。プラチナブロンドの髪にアーモンド型の大きなタレ目、エメラルド色の瞳は不思議なことに光の加減で、黄色に見える事もある。肌も陶器のように白く、血色が良くふわふわした唇。
「レイモンド」いつも笑顔で俺の名を呼ぶ。それだけで心に幸せが広がる。誰に対しても態度を変えることなく、下の者にも優しくしてくれる。困り事があると小耳にすれば、悩み一緒に解決してくれる。レイ様は当たり前のように対応しているが、そんな王族どこにいる?聞いた事もない。度重なる誘拐のせいで、社交界にも出ることは無くなり、外出も制限されるようになった。代わりに庭園に出てよく散歩される。いつも拾ってくる何かの実。これは庭園に植わっている木の実か?硬いし、食べれるわけでもないのに。暖かい地域では良く育つらしく庭園にこの木は沢山植えられている。
ある日、レイ様が不思議なことをしだした。拾ってきた大量の木の実を袋に入れ潰しだしたのだ。しかし、力が弱いレイ様では全然潰れない。見かねて俺がやりますよと申し出た。粉々になった実を容器に入れて一晩寝かせるらしい。次の日、容器の中は見事に二層に別れていた。上の層の液体部分だけをすくい、更にこし器を使いこす。何度もすると容器に黄色い液体が溜まる。何だこれ?ヌルヌルしてる。香油みたい……
レイ様は喜びのあまり小躍りしてる。できたー!オリーブオイルができたー!とぴょんぴょん跳ねてる。これはオリーブオイルと言うのか…
このオリーブオイルは食用にもなるし、髪、耳やしっぽにつけると、パサついて広がりがちな毛がしっとり落ち着き、ツヤが出る。貴族を中心に爆発的に人気が出て、今では低価格で庶民の手に入りやすくなった。バルロの立派な名産品だ。
美しく聡明なご主人様は突拍子もない事を思い付く。ある時、使用人達が獣姿で産まれた赤子の話をしていた。どうやら使用人の娘が獣姿の赤子を産み落とし、精神状態が悪化したらしい。その話を聞いたご主人様は嘆き、赤子登録制度を施行した。少しでも不幸な赤子が減るようにと、母親が金銭的理由で子を手放さないように、母親が安心して子育て出来るようにと。
制度が出来てからレイ様は孤児院に足繁く通う様になった。いつも、新しい赤子はきた?必要な物はある?困ってる事はない?神だ。レイ様は実は神だったのか。たまに、孤児院に行くのが楽しすぎて、護衛の俺を忘れて行く事がある。もちろん誘拐未遂が起こった。1ヶ月の孤児院訪問禁止は余程堪えたのか、レイ様が俺の存在を忘れることはなくなった。
ある日、レイ様が王様から呼び出された。ハーデ帝国の皇帝陛下に嫁ぐ事が決まったと…俯きながら話してくれた。俺は無理して付いてくる必要は無いと。寂しいくせに。肩が震えてるじゃないですか。俺はレイ様の目であり、耳であり、壁です。王族だからと自分の感情を押し殺さなくてもいいんですよ。
ハーデ帝国に向かう馬車の中。レイ様は窓の外をぼんやりと見つめている。耳やしっぽが無い為、レイ様の感情を汲むのは難しい。急に皇帝陛下について尋ねられる。きっと不安なんだろう。安心させてあげなくては!私見を伝えてもなお、態度は変わらない。柄にもなく「守る」と伝えてしまった。当たり前の事なのに…。
本当にどんな事があっても守りますから。
目前に迫るハーデ帝国を見据えて心の中でつぶやく。
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