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俺、本気出す
しおりを挟む城内の廊下を歩いていると、凄い勢いで走ってくる人と、出会い頭にぶつかる。派手に相手が吹っ飛んだ…。心配になり駆け寄ると、なんとそこにはカーラ様が…。
何たる運命!!顔がニヤけてしまいそうだ。
「危ない。走ってはダメだ。何をそんッ…!!」
抱き起こそうとして、異変に気づく。涙…目からとめどなく流れる涙…。なんて事だ!!とっさにか細い体を抱き締める。折れてしまいそうだ。名前を付けることの出来ない感情が体中に渦巻く。
「どうしたッ?!何をされたッ?!誰に何をされたんだッ?!」
思っていたよりも大きな声が出てしまった。俺を見て安心したのか、更に溢れてくる涙…。離したくない…。俺がカーラ様の悲しみを代わってあげたい。一体誰が泣かせたんですか…自然と抱きしめる腕に力が入る。
「はっ、はなじでぇ…ぐずっ」
俺には関係ないとばかりに、身動ぎ腕から逃れようとするカーラ様。何故、俺を頼らないんですか!!
「誰に何をされた。言え」
自分でも驚く程の低い声が出た。少し間があき、カーラ様が言葉を絞り出すように話す。
「イシスざん…おっ、俺に近付がなぃで…」
なっ、なんだとー?!昨日別れてから今日出会うまでに何があったんだ?!あんなに…あんなに…俺に…あぁ怒りでどうかなってしまいそうだ。
「…何故だ…なぜ…何故そんな事を言う?!」
「みっ、みっ、神子様が…」
言いづらそうにしているカーラ様。
「神子様?ゆうの事か?ゆうが何か言ったのか?」
「ゆぅ…?」
俺がゆうと名前を出した途端に、カーラ様の美しい顔が少し歪み、先程までの態度とうって変わって、少し怒った様子になる。
「みっ、神子様にイシスさんとの関係を疑われました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません!!これからはこの様な事が起きない様に、近づかない事を誓います」
いきなり言葉を捲し立てられた。その拍子に緩まった俺の腕から、逃げるようにカーラ様が抜け出し走り去る。神子に俺との関係を…近づかないだと…空っぽになった腕を呆然と見つめる。
許さん。許さん。許さんぞ──────ッ!!カーラ様を泣かしただけではなく、俺とカーラ様の仲まで引き裂こうとするとは!!狂気めいた殺気が神子に湧く。絶対に許さん!!
▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣
「カーラ様…」
ジンさんに頬についた涙の跡を指でなぞられる。抱き締めないで下さい。顔を近づけないでください。神子様は近くに居ないだろうな?!こんな熱い抱擁を見られたら…ブルっ寒気がするわ…。
離せ離せ離せ離せ────!!念を込めて見つめる。ジンさんの顔が何かを耐えるような…えっ?俺の今の顔大丈夫だよね?見るに堪えない顔になってないよね?ベースは完璧だから、ちょっとやそっとでは…。
「何故一人なんですか?クルトは?」
おっと、俺逃げてる最中だった。どーでもいいから逃げよう。えーっと、えーっと、そうだな…んー
「今は…鬼ごっ…追いかけっこ!!そう、追いかけっこをしています!!離して…欲しいです…?」
えっ、何故…くっ、ジンさんの腕の力が…くっ、苦しい…。何このデジャブ感は…。
「泣きながら追いかけっこですか…」
泣きながら追いかけっこするでしょ?!他にも逃げてる人が居るのに、自分ばっかり狙われて追いかけられたりしたら…泣いちゃう…いや、泣かないわ。めっちゃ怒るわ。他の人も狙えよ!って怒るわ。
「カーラ様ー!!!!」
遠くから俺を呼ぶクルトさんの声がする。くっそー!!大きな声で名前を呼ぶな!!フラグが回収し切れないほど立つ予感がする!!摘むなんて生易しい事を言っている場合ではない!!除草剤でも撒いて根絶やしにしなければ!!
今回は捕まったから諦めてやるけどな!!次からだ!!次から根絶やしにしてやるからな!!心の中で毒を吐きまくる。
こうして俺は、無事に攻略対象者の二人に捕まった。次から本気出す!!絶対に捕まらん!!
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