神子召喚に巻き込まれた俺はイベントクラッシャーでした

えの

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俺、恨みを買う

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自分でも頭に血が上りすぎて酷い事を口走った自覚はある。でも一度吐き出した言葉は取り消す事が出来ない。



なんとも同情されそうな顔をして、さらには涙まで流して走り去るエルフの後ろ姿を見送る。心の奥に湧いた怒りの感情は、未だに収まることなく膨らみ続けている。


僕だって…僕だって!!イシス様とのイベントを楽しみにしてたんだ!!なのにッ…。それに!!ジン様とクルト様も!!元々は僕の護衛なのに!!


召喚後、部屋に案内され、シヴァ様から紹介してもらうストーリーのはずだった…。いつまで経っても始まらないイベントに痺れを切らし自分から聞くことにした。そしたら、あのエルフの護衛につけたって…信じられない!!あいつの存在のせいでイベントが流れていく!!醜い感情が体中に流れ、塞き止めることが出来ない。


ふぅー。ダメだ。今からニコ様に会うのに、こんな感情を持ったまま会えない。そうだ!!クルト様に話しかけて好感度を上げよう!!


「クルト様ー。僕…」


「神子様、申し訳ございません。カーラ様を探しに行きますので、失礼させていただきます」


クルト様の顔は人形のように表情がなく、落ち着き払った態度で淡々と僕との会話を途中で遮った。えっ…クルト様…?僕ですよ?神子ですよ?あなたの愛しい神子なんですよ?!面を食らってポカンとしてしまう。


疾うの昔に見えなくなったエルフの後を追い、迷子の子供を探すかのように名前を呼び、凄い勢いで走っていくクルト様。一人ポツンと取り残された僕は放心状態だ。


おかしい…絶対におかしい!!まだ召喚されてからそれ程日も経ってないのに、どうして神子の僕じゃなくてあのエルフに…やっぱり体を使って誑かしたんだ!!そうに違いない!!あのエロフめ!!


でも大丈夫!!ジン様もクルト様もあの厭らしいエロフに拐かされただけ!!そのうち目が覚めて神子である僕を蔑ろにした事を詫びてくるはず!!僕はキャラクター達を愛してるからね!!それぐらい許してあげるよ!!早く僕の元に帰っておいで!!



気を取り直して、ニコ様の部屋の扉に向き直る。ふぅー。深呼吸して心を落ち着かせる。頭を切り替えなくっちゃね。ここからは大切なシリアスイベントなんだから。



コンコン。


「はい」


あれ?ニコ様の声?床に伏せて喋るのもやっとのはずじゃ…。今日は調子がいい日なのかな?頭の上にクエスチョンマークが飛び交う。まぁいっか。浮かんだ疑問を早々に水に流す。


「ゆうです。神子のゆうです。ご挨拶に来ました」


ニコ様が死んじゃうのは悲しいけど、ユスティ様の事を考えると嬉しさが隠しきれない。悲しさと嬉しさの混じりあった声で返事をする。


「どうぞ」


扉越しでもわかる綺麗な澄んだ声。短い言葉でも伝わってくる気品のある口調。ドアノブに掛ける手に力を込め、ゆっくりと部屋の中に足を踏み入れる。


えっ…?


目の前にはニコ様とエレが楽しそうに机を挟んでお茶を楽しむ光景が広がっている。どっ、どうして…。ニコ様は病気とは思えない程、白い顔は薄らと赤らみ血色が良い。エレとの会話に肩を小刻みに揺らし笑う姿。容姿端麗な親子二人の仲睦まじい様子は、まるでおとぎ話の中から抜け出してきた登場人物の様だ。何とも近寄り難い雰囲気を醸し出している。



「神子様。わざわざご挨拶に来て頂き、ありがとうございます。本来ならば私から伺わなくてはいけないのですが…先程まで床に伏せておりまして…申し訳ございません」


僕の方を向き、椅子からゆっくりと立ち上がり、お辞儀で迎えてくれたニコ様。その仕草一つ一つが洗練されていて、見とれてしまう程だ。外見は勿論の事、内側からも美しさが滲み出ている。


「はっ、初めまして…」


気が動転して言葉に詰まり、上手く次の言葉が出てこない。何故?どうして?疑問ばかりが頭の中に浮かんでは消える。瞳を凝らしてニコ様を観察する。やっぱり…病気とは程遠い…。


「どうぞ」


一緒にお茶をするように誘ってくださるが…何とも二人の間に入りにくい…。昨日はエレも僕に懐いていたはずなのに、今では眼中にないみたい。まるで存在に気付いていない様な扱いだ。どういう事なの?!


「お母様!!お話の途中ですッ!!」


エレが話の途中で水を差された事を、少し拗ねたような妬んでいる様な口調で抗議している。


「エレ。神子様にご挨拶は?失礼ですよ。それに私は何処にも行きませんよ。ふふっ」


ニコ様は声ではエレを咎めているが、顔は慈愛に満ち、優しい目で見つめ、微笑んでいる。
何これ…何なの────?!これは二人の間に入る事を躊躇ってる場合じゃない!!事情を聞き出さないと!!どうして次から次へと問題が!!今度は何?!一体何が起きたの?!



顔に笑顔を貼り付け、分厚い絨毯の上を無音で足早に歩く。当然のように、ニコ様とエレの間の席に腰を下ろす。二人が面を食らったような顔をしているが関係ない。


「では、遠慮なくご一緒させていただきます。ところでニコ様。随分と体調がよろしいようですが…。お伺いしていた話とは違うようで…」



なるべく棘なく核心をつく様に言葉を並べる。
聞きたい事が沢山ある!!さぁ!!話を聞かせて貰おうじゃない!!









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