神子召喚に巻き込まれた俺はイベントクラッシャーでした

えの

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俺、忍び寄るフラグ

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あの日、城から逃げてから数ヶ月経たった頃、ギルドでたまたま小耳に挟んだ話。ついに神子様が瘴気を取り払う為に旅立つ日が決まったそうです。攻略対象者は誰か一緒に行くのだろうか?心配です。なのでこっそりお城に忍び込んで様子を見る事にしました。



が…神子様が見当たりません!!もう旅立ったとか無いよね?無駄足だったとかないよね?ぶっちゃけ転移魔法で来たからそんなに手間はかかってないんだけど…。俺の転移魔法は訪れた事がある場所、且つ強くイメージ出来る場所でないと使えない。城で言うと、元俺の部屋、神子様の部屋に図書館ぐらいだ。



せっかく神子様の部屋に転移したのに会えなかった…。次に前に遭遇した事のある図書館に転移したが空振り。あの森の泉に居るのか?でもな…ミストさんが居るかもしれないし…んーあーでもないこーでもないとブツブツと呟き考える。


「ちょっと!!あんた!!何処に隠れてたの?!」


へっ?この声、この話し方は…。床に出来た影の主に目を向ける。俺を鋭い目付きめ睨みつける神子様がそこに居た。おぉー!!なんたる幸運!!引きの強さ!!


「神子様!!会いたかったです!!」


笑顔で少し涙目で感極まってる俺とは対照的にジト目な神子様。


「エロフのくせに僕に心配させるなんて!!で?僕に何の用事?」


鼻で笑われました…。相変わらずです。でも全然嫌な気はしない…むしろ嬉しい…。数ヶ月だけど…旧友と再会したような気持ちだ。なんだかんだ言って一人語り聞くの好きだったな…。懐かしいな…。


「…」


「はぁー。相変わらずの無口。なんで突然消えたのかとか聞かないよ?大方…イシス様達の事でしょ?死んだ者を生き返らせる力なんてチート以外何物でもないじゃん。その件については箝口令が敷かれてるから」


そっか…。神子様知ってるんだ。皆も元気にしてるのかな?会いたいな。会えるわけないのにな…。


「あんたに言っても理解出来ないかもしれないけど…この世界はゲームの中なの。ほんとはハーレムエンドってやつを目指してたんだけどね…あんたのせいでパァになっちゃったよ…おまけに攻略対象者は…あんたになびいちゃうしさぁ」


俺が言葉に詰まっているせいか途切れることの無い神子様からのお話。その件は本当にすみません。おれも色々頑張ったんですけど…何故か攻略対象の皆さんと次々とイベントが発生してしまいまして…。申し訳なさすぎで神子様から目を逸らしてしまう。心の中の俺は土下座モード状態です。



「でもね…途中で思ったんだ…ミスト様に湖で会えなかった時かな?これって、裏ルート行けるんじゃないか…ってね!!」


へっ?裏ルート?何だそれ?裏ダンジョン的な?気になっても口には決して出しません!!むしろ口を挟めないほどに神子様の目がギラついてて怖いです!!



「攻略対象者全員の好感度が上がらなかった時にだけ発生するの…元の世界では誰一人として攻略する事が出来なかった裏ルートだよ?!攻略サイトでも皆嘆いていたよ!どうやっても無理ってね!!それを僕が!!この僕が!!あぁ、こんな嬉しい事はないよね!!」



えっ?好感度が上がらない?夢見るような表情で目を細めて微笑んでるけど…。頭の上にクエスチョンマークを飛ばす俺を他所に神子様は最後の一人語りをしてくれた。



瘴気を取り払う旅で立ち寄る隣国。その国で出会う人達は揃いも揃ってイケメンだそうだ。裏ルートとは、その国でハーレムエンドを迎える事が出来ると、その為にはイーリアス国での攻略対象者の好感度を上げてはいけない。だが、そんな事は不可能らしい。だから無理ゲーだと言われていたと。設定バグだと。俺も思ったけど、このゲームちょいちょい設定おかしいよね?!


「途中からは絶対に好感度が上がらないように演技してたの?気付いてた?あんたが攻略対象者の皆と好感度を上げれば、あんたに酷く当たる僕の好感度は間違いなく下がる!!最初はハーレムエンド目指してたから、張り切り過ぎて空回りしちゃったし…思うように進まなくて、あんたに八つ当たりもした。酷いことも言ったし…それは悪いと思ってる…。でも今は…感謝しかない。次は此処での失敗を活かして、僕の本当の魅力でハーレムエンドを迎えるんだから!!」



捲し立てるようにして鼻息荒く言い切った…。凄い…凄いわ…。ゲームに対する愛が溢れてるわ。好きなゲームは周回するもんね…。その気持ちわかるよ…。誰も成し遂げた事の無いハーレムエンドを目指すために自らの好感度を下げる技には感服するし、周りに気づかせない演技力も大したもんだ。


「それと…僕の大好きなキャラクター達を救ってくれてありがとう。本当はここのハーレムはあんたに譲る予定だったんだけどね!!」


ゆっくりと近づき、ギュッと抱きついてくる神子様。まさかの驚きの行動に体が硬直する。ちょっ…いきなりそれは反則でしょ!!でも…久しぶりに人の温もりを感じたな。温かい。柔らかい。いい匂いがする!!おっと、人恋し過ぎて変態モードに…。しかし、聞き捨てならない単語が…ハーレムを?えっ、譲る?何それ初耳!!謹んでご遠慮致します!!


「カーラ。また消えるの?」


俺を見上げる神子様は笑っているのに何処か悲しそうな表情だ。俺の為にそんな顔をしてくれるなんて
!!神子様やっぱり可愛いー!!ちくしょー!!ってか?!今…呼んだよね?!


「名前…神子様…俺の名前を…」


はっ、初めて…初めて…呼んでくれた…。覚えててくれたの?!嬉しいです!!感動です!!脱エロフ!!


「名前なんて呼んで仲良くなったら困るでしょ?僕は主人公だよ?他のキャラクター達みたいに攻略されるなんて御免だよ!僕は攻略する側なの!!でも、ちゃんとわかってる…ゲームだけど…現実って事。イシス様達の事を聞いた時、まさまざと感じたよ」


「神子様…」


「ゆう」


えっ?


「ゆうって呼んでもいいよって言ってるの!!」


「…ゆっ、ゆう君…」


ツンデレか?ツンデレなのかー?!最高です。そんなゆう君に俺から贈り物を一つ。ポケットから綺麗な装飾が施された首飾りを取り出す。


「これ…」


「何?餞別?つけてくれるの?」


首飾りを指し、不思議そうな顔をして聞いてくるゆう君の首に、そっとつけてあげた。


「状態異常から守ってくれます…」


俺がプレゼントしたアイテムは女神の奇跡という、全ての状態異常を防ぐチートアイテムだ。実は城から逃げ出した時にアイテムボックスの存在を思い出した。フラグ回避に忙しくて頭から抜け落ちてたわ。確認したらために貯めたアイテムがわんさかと…。瘴気を取り払う旅なんて危険がつきものだし…やっぱり心配じゃん…。


「チートじゃん!!ありがとう。遠慮なく貰っておく!!」


おぉー喜んでる!!良かった!!デザインがダサいとか言われなくて…。実は、女神の奇跡はもう一つ効果がある。コチラが本当にチートなのだ。


それは…一度だけ死から復活出来る。つまり…一度死んでも蘇るのだ…。まさに女神の奇跡。俺は…ゆう君には死んで欲しくない…。瘴気を払う旅なんて危険がつきものだ。どうか壊れません様に…壊れた時それは蘇生が行われた時。無事に隣国に辿り着けますように!!


「カーラ、またね」


「うん…ゆう君。バイバイ」


こうしてゆう君にちゃんと別れを伝える事が出来た俺は森に帰り、再び一人ぼっちの生活を始めた。孤独が辛くて無性に会いたくなっても、俺が行けばまたイベントが無くなるんじゃないか?とか、ゆう君の幸せを潰すかもしれないとか色々な考えが浮かんできて会う事を止めた。ゆう君との思い出はこれが最後だ。




はぁー。懐かしい事を思い出したなー。何百年も前の出来事なのに昨日の事の様に鮮明に思い出せちゃうとか…。俺は寂しい奴だよ!!ってかどんだけ森に引きこもってるんだよ!!ポーションを空っぽの鞄に入れながら誰もいない部屋でポツリとボヤく。



そう、この世界で俺は今も昔も変わらぬ姿で生きている。何も変わらないんだ。老いることもない。街の風景も変わり、住む人々も顔変わりしていくのに…俺の時間だけは止まったままだ。


俺は何の為に生きているのか?何故生きているのか?俺は…俺は…なーんてね!!あーバカらしい。俺らしくもない。早くポーション買い取って貰おう。


重くなった鞄を肩にかけドアノブに手をかけ勢いよく外に足を踏み出…あれ?何だ?お外に踏み見出せないんですけど?!ってかドアがこれ以上開かないだと?!何かが押さえてる…?おのれこしゃくな!!


ドン!!ドンッ!!こんのぉッ!!ドォォン!!


「おう…なんてこった…」


粉々に粉砕されたドア。手の中に残るドアノブ。そして…地面に転がる血塗れの人…。えっ?こんな森の奥深くに人が…?何故…。ってか血って…今ので…?!いやまさか…そんな…。あぁ…近づきたくない…。関わりたくない。ギルドに行くのさえ億劫なのに…。いっその事ミスリル製の殻に閉じこもりたい。



でもな…見るからに大量出血してる怪我人を放っておけないし…。っんぁ?!おいおいおい!!あの鎧見覚えがあるぞ?!嘘だろ嘘だろ嘘だろ────?!誰か夢だと言ってくれ!!フラグが再発したのか?!



なんでこんな場所によりによって騎士団の人が倒れてるんだよ?!おまけに血塗れでも分かるイケメンさ。いっその事、格好良さに拍車かかってるわ!!くっそ憎たらしい!!要らね!!要らねーんだよ!!今更フラグ予感なんて要らね────よ!!







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