嫌われ悪役王子は死にたくない!!《本編完結済》

えの

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次の日、お茶の用意をするヘラがいつもより低いトーンで言った。


「ガイ様より晩餐会に招待されております」


目ん玉がこぼれ落ちそうになった。いや確実に少し飛び出してたね。あのガイが?!俺を晩餐会に招待だと?!絶対に何かある…。記憶喪失になっても心配の言葉さえ寄越さないんだぞ。絶対に何か裏があるな。


「俺に拒否権は?」


「ありません」


ヘラさん即答ですか。そーですか、そーですか。行けばいいんだろ。着替えだけ選んどいてくれるとお願いし、俺は最近ハマりだした小説に再び目を落とした。俺のこの世界で唯一の娯楽だ。


夜になり憂鬱な時間がついに来てしまった。歩く足が鉛のように重い。前に進みたくないと無意識に体が拒絶反応を起こす。絶対に傍に居てねとヘラにお願いしたが、ガイ様よりシオン様と2人で御食事したいと仰せつかっておりますので、と突き放されてしまった。泣いちゃうよ?俺泣いちゃうよ?


「失礼致します」


ノックをして扉を開ける。そこは食堂と呼ぶには余りにも豪華過ぎた。長い机、美しい装飾の椅子がずらりと並び、天井にはキラキラと輝くシャンデリアが吊るされていた。ゆっくりと足を踏み入れ、食事が用意されている場所まで歩く。ガイは既に着席していたが、料理には手を付けていないようだ。


「今日は晩餐会に招待頂きありがとうございます」


ペコりと会釈すると、席に座るように促された。本当にガイと俺以外誰も居ないんだな…。チラチラと部屋の様子を窺い恐る恐る着席した。


「かしこまる必要はない」


気を使ってくれているのだろうか?確かに最初に出会った時は唸られたが今日は普通の態度に思える。いや、もしかしたら芝居かもしれん。たかが記憶喪失になって2週間程度、それ程簡単に人の印象が変わるものなのだろうか?答えは否。既に根付いてしまった悪い印象を変えることは難しい。油断は禁物。ありがとうございますと小さくお礼だけ言った。


「料理が冷める前に食べなさい」


まるでお父さんが子供に話しかけるようない言い方に吹き出しそうになった。何この急なトラップ止めてくれ!!


フォークとナイフを手に取り食事に手をつけ始めるが全然お腹減ってない。朝から食事が喉を通らない。原因なんて分かりきってる。目の前に座ってる可愛いオオカミのせいだ!くっそーモフりたい。顔をスリスリしてスーハースーハーしたい。ヘラはちっとも触らせてくれないし…。ぼんやりと意志を飛ばしていると声が掛かった。


「記憶を失ったそうだな」


確信をつく質問にゴクリと唾を飲み込む。ガイは鋭い目で俺を睨み付けるように見ていた。


「はい。しかし断片的に覚えています。生活には支障ありません」


「そうか。では私の姿を見てどう思う?率直な感想を聞かせてくれ」


真偽を見極める為か射抜くように見られ俺の心臓は破裂しそうな程バクバクと脈打つ。カッコイイわ。マジで抱いて欲しい。いや、落ち着け俺。今はそんなエロい事を考えている場合じゃない。返答次第では…首と胴体がおさらばするぞ!!


「ガイ様の見た目ですか?」


見た目って言われてもなー。可愛い。白い。白くてふわふわしてる。白くてふわふわと言えば綿あめ。綿あめと言えば砂糖。白くて甘い砂糖!!


「白くて甘い砂糖!!」


連想ゲーム感覚で導き出した答えを俺は元気よく伝えた。後悔先に立たず。あぁ、やってしまった…。しかし、俺の勢いに押されたのか、ガイはポカンと口を開けている。その姿にいつぞやのヘラが重なり謎な笑いが込み上げてきた。ぷッ、今度こそダメだ。肩を小さく揺らし笑いを堪えていると、白くて…甘い…砂糖だと…。とガイがボソボソ呟いた声が聞こえ次の瞬間、


「ガハハハハッ!!」


と大きな声で笑い出した。突然の事に、ビクンと体が跳ねる。そして大きな口から見える鋭い歯に、目が釘付けになった。すげ~骨付き肉の骨まで砕いて食べれそう。


ひとしきり笑った後、笑いの余韻がまだ残る声でガイは言った。


「どうやら記憶喪失と云うのは本当のようだなシオン。俺と話す時は敬語は必要ない、そして名前も呼び捨てにするように言ったはずだ。まぁ記憶が無いのならば仕方がない」


ガイは先程までの鋭い目ではなく穏やかな目で俺を見ていた。敬語無し?名前は呼び捨てだと?絶対に嫌だ!!


「すみません…敬語の方が楽なので…敬語でっ」


「従者のヘラには、、、随分砕けた話し方をしていたようだが?」


会話を遮るように言われ俺は戸惑った。絶対に嘘だ。最初から嫌悪感丸出しだった俺に敬語も気安く名前を呼び捨てにする事も許す訳が無い。ガイは嘘を付いている。何故?どういうつもりだ?あぁ…ダメだ。考えるには時間が足りない。ならばガイの言う通りにした方が確かだろう。


「分かったよ。これでいいんだろ?ガイ」


おどけた様に言えば、ふんふんと満足そうに頷いていた。そこからはガイに色々と教えて貰った。まず、本来ならばガイと同じ学園に通うはずだったが記憶喪失の俺には危険と判断され、勉強は城で行う事となった。うひょー!!ラッキー!!主人公に会わなくて済む。なんせ学園恋愛ゲームだからな。学園に行かなければ俺が関わる事なんて無い。生存率が高まったわ。次にやはり医者には診てもらう必要がある事、後は本当にたわいのない会話をした。


中でも俺が今、小説を読んでいると話すとめちゃくちゃ食い付いてきた。ガイは読書家らしい。おまけに俺が読んでいる小説の全シリーズを持っているとか…羨ましい。他にもおすすめの小説があるらしく、今度部屋に遊びに来るように誘われた。まさに青天の霹靂である。記憶喪失な設定のお陰でガイの態度は明らかに軟化していた。



お言葉に甘えまくっちゃうよ?本当に毎日訪問しちゃうよ?!そんなこんなで晩餐会はお開きになった。部屋に帰る足取りは蝶のように軽い。んふふふ~♪自然と鼻歌も口ずさんでしまうよ。ヘラが白い目でジロジロ見てるから後で教えてやろう。今日の最高の出来事をね。


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